俺の席が高校の怪談スポットらしいけど、どうやら女幽霊に目をつけられたみたい
立見
第1話 1
あ、これは夢だ。
そう思える理由は、今俺が立っている場所。
通い始めてまだ数日の高校の教室の中。
それだけならば夢とは思わないかもしれないけど、そう思える確固たる証拠が。
暗い教室。
そう、俺は夜の教室にいる。
こんな時間帯に、俺が学校に、教室にいるはずなんか絶対にない。断言できる。
もし、仮に、万が一、いたとして流石に電気くらいは点けるだろう。
それなのに俺は、誰もいない教室で電気も点けずに突っ立っている。
それにしても何でこんな夢を見ているんだ。
俺は、自分が思っている以上に学校が好きだったのか。愛校精神にあふれていたのか。
そんなはずない。胸を張って、大声で宣言するようなことでもないけど、俺は勉強が好きじゃない、嫌いだ。ついひと月前にようやく暗くて長く辛い高校受験が終了して、ホッと胸をなでおろし、久方ぶりの自由を、モラトリアムを満喫しているのに。
それなのに、どうして?
まあ、所詮は夢だ。俺ごときの知能で考えても答えなんか出てくるわけがない。ならば、この状況を楽しんでみようか。
真夜中の学校なんか夢じゃなきゃ、まず体験できないことだし。
好き好んでいるような場所じゃないし。
けど、何をしようか?
まずは電気だ。いくら夢の中とはいえ、真っ暗とまではいえないが薄暗くてよく見えない中で活動するのは。
そう思った途端、窓から月明かりが差し込む。
都合が良いな。やっぱり夢だからか。
夜の誰もいない教室の中を散策する。
といっても、たがだか教室内。見る場所なんて限られている。
グルリと一周、反時計回りに歩く。最終目的地は窓側の前から四番前の席。
ここが俺の席。
俺の席に、誰もいないはずの教室に、夢の中に、二人目の登場人物が現れた。
本来俺が座るべき場所にその人物は座っている。
月明りが照らしているはずなのに、その二人目の人物は陰になって見えない。
正体を知るべく、一歩、また一歩と近付いていく。
背中が見えた。
小さな、か細い、今にも折れてしまいそうな背中。
その背中を通り越して腰にまで届くような長い黒髪。
ついさっきまでは全然気が付かなかったけど、この二人目の人物は女だ。
よく見れば今どき珍しいセーラー服を着ている。
しかし、なんでセーラー服姿の女子が俺の夢の中に登場するんだ。
入学したばかりの高校はブレザーだし、この間まで通っていた中学もセーラー服じゃないし。そもそもこの辺りの学校でこんなセーラー服の高校なんてないぞ。
考えても埒が明かない。
どうせ、夢なんだ。
そう思いなおして、俺は二人目の、謎の女へと歩み寄る。
女と一応断定したけど、本当に女、俺と同じ年くらいの少女なのだろうか。夢だから、意外と別の正体ということも十分にありうる。
面白がって、この女の顔を見てやろうと思った。
横を素通りして前へと出る。それから振り返る。
影だった。
月明りが差し込んでいるはずなのに、現に体はちゃんと見えているのに、セーラー服の二人目の人物の顔が見えない。
凝視した。
それでも見えない。
さらに目を凝らした。
見えないはずの口が微かに動いたような気がした。
気がした瞬間、小さな、消え入りそうな声が俺の耳に届いた。
声は届いた。が、肝心の内容が聞こえない。
「なんて言ったんだ?」
聞き返す。
また、見えないはずの口が動いたような、俺の疑問に答えたような気が。
今度は耳に集中する。
「…………って」
かろうじて語尾だけが聞き取れた。
「もう一回。聞こえなかったから、もう一度」
夢なんだから必死になる必要性なんかないのに、ついムキになって聞き返す。
俺と、このセーラー服の謎の人間の間に沈黙が生まれる。
それが長いのか、短いのか、よく分からないくらいの時間が流れた。
再び口が動いたような気が。
「……お願い、……気付いて」
今度はちゃんと最初から最後まで聞こえた。
けど、気付くってどういう意味だ?
この疑問を口にしようとした瞬間、今の今まで全然見えなかったものが見えるようになった。
女だ、やっぱり俺と同い年くらいの少女だ。
ようやく顔が見えたと思った途端に、俺は夢の世界から外へと。
つまり、目が覚めた。
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