第3話 ビターな予感
数日後、僕はKINGでいつものように飲んでいると、岸くんがやってきた。
「岸くん、いらっしゃい。」紫音が声をかけたが、なぜか下を向いて返事がない。珍しくここに来るまでに酔っぱらっている。ふらふらの状態でカウンターに寄り掛かるように座った岸くんが、
「おう。」小さく一言応えた。
なんか様子がおかしい。あの岸くんに元気がない。
何かあったのだろうか。
「どうしたの?岸くん。なんか元気ないようですけど、珍しくこんなに酔っぱらってるし。なんかありました?」
そう僕が岸くんに聞くと、今にも泣きだしそうな顔で僕らを見て、
「迅、紫音!聞いてくれ!!俺、どうしたらいいのかわからないんだ!!」
と言った。
その後、支離滅裂になりながらも、岸くんが話してくれた内容は、こういう事だった。
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今日、俺はある事件の聞き込みのために表参道を歩いていたんだ。
堀田さんは事務処理があったから、若い刑事と一緒に聞き込みに回っていたんだけど、ある所で道の向う側に由紀ちゃんを見かけたんだよ。
なんか待ち合わせをしていたみたいだったんだけど、普段はラフな服装の由紀ちゃんが、今日は凄くおしゃれをして普段は履かないようなハイヒールなんか履いててさ。おしゃれな由紀ちゃんも可愛いなぁとか思ってみてたんだ。
で、しばらくしたら、その待ち合わせの相手がやってきたんだ。
その相手が男で、ビシッと高そうなスーツを着こなして、真っ赤なスポーツカーで迎えに来たんだ。
よく見ると、そのスポーツカーから降りてきたその男は以前、堀田さんと組んでいた北山刑事だった。
北山さんは、数年間インターポールに出向して去年帰国したエリート刑事なんだよ。
容姿端麗、頭脳明晰、人柄も申し分ない何処をとってもいい男の見本みたいな人。
もちろん、由紀ちゃんも北山さんの事を知っているし、以前は俺のように堀田さんと由紀ちゃんと三人で食卓を囲んだりしてたんだよね。
まだ、由紀ちゃん高校生の頃だと思うけど。
まぁ、それだけなら旧交を温めているだけかなって思ったんだけど、由紀ちゃん、北山さんに肩を抱かれてかっこいいスポーツカーに乗り込んでいったんだ。
俺、その現場見ちゃって、心臓が破れるんじゃないかと思った。
由紀ちゃん、北山さんとデートだったんだ…
俺は頭が真っ白になってしまったんだよ。
北山さんなら、俺より大人だし、将来だって約束されたエリート刑事だし。
もう、自信なくしちゃって。告白する前に振られちゃったよ。俺。
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そこまで話すと、岸くんは泣きながら、眠ってしまった。
珍しく酔いつぶれてしまった岸くんに、紫音がブランケットをかけてあげた。
「相当ショックだったみたいだね。岸くん。」
僕は岸くんの顔を見ながら言った。
「うん、でもさ、由紀ちゃんも岸くんの事好きなんじゃなかったっけ?」
「この前の買い物の時はそんな感じだったけどね。
俺には、乙女心はわかなんないや。」
すると、岸くんがガバッと起きて、
「おれ、由紀ちゃんに告白する!!北山さんになんか取られたくない!!」
と言って、また突っ伏して眠ってしまった。
「うーん、起きててこれ覚えてると思う?」
「さぁ、どうかなー?覚えてないんじゃないかな?」
僕と紫音は顔を見合わせちょっと笑った。
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