第2話 スイートなプレゼント

その翌日の事だった。いつものように俺と紫音が店でしゃべっていると割と早い時間に珍しいお客さんが訪れた。

カランカラン~♪

「いらっしゃいませ。…あれ?由紀さん?」

堀田さんの娘さんの由紀さんだった。

「こんばんわ。あ、もしかして開店前でした?」

「あ、いやどうぞ。お客がいないのはいつもの事なんで。」

紫音がおしぼりを出して、カウンターに誘導した。

「とりあえず、オレンジジュースをお願いできますか?」

そういえば、由紀さんはあまりお酒に強くないといっていたな。

今日は何しに来たんだろうか。

「紫音さん。迅さん。今日はお願いというか、相談があってきたんです。」

もしかして、由紀さんも岸くんの事を思っていてその相談ってことなのかな?これは大ニュースだぞ。

由紀さんは少し恥ずかしそうに話し出した。

「あの、もうすぐバレンタインデーじゃないですか。で、父と…その、岸さんにもちょっとプレゼントを考えているんですが、何がいいかわからなくなってしまって。男の人に贈り物をするのなんてあまりないので。

で、お二人に相談に乗ってもらえたらと思って今日、来させてもらったんです。あ、もちろん二人には内緒にしてほしいんですけど。」


おっと、これは岸くんにいい波が来ているんじゃないの?

僕はちょっと嬉しくなった。

「いいですよ。じゃぁ明日にでも選びに行きましょうか?」

「本当ですか?ありがとうございます。」

「じゃぁ、迅が一緒に行ってやってよ。俺、明日ちょっと予定あるし。」

「OK!じゃ、明日お昼過ぎにでも待ち合せましょうか?」

「はい、助かります。よろしくお願いします。」


翌日、僕は由紀さんと近くのショッピングモールで待ち合わせて岸くんへのプレゼントを選ぶことにした。

モール内はバレンタインシーズンということもあって、若い女性やカップルが多く買い物をしていた。

ところどころでチョコレートのワゴン販売とかもあって、店内がカカオの甘い香りで充満している。

「マフラーはクリスマスにプレゼントしたんですよね。だから、他の物とかを選びたくて。できればずっと使ってもらえるようなものがいいなって。」

「由紀さんって、岸くんと二人で出かけたりしたことあるんですか?」

「え?なんでですか?」

少し顔を赤らめて由紀さんが聞き返してきた。

「あ、いや、ほら私服って見たことあるのかなぁって。」

「あぁ、あんまり私服って見たことないんですよね。二人で出かけたりってのはないです。だから、好みとかあんまりわかんなくて。」

由紀さんはすこし息を吐いて答えた。

「割と、シンプルで動きやすさを重視してるみたいですよ。

そうだ!!手袋なんかどうです?彼の手、大きくて指が長いから革の手袋とかしても様になりますし。この前、外回りの時、寒いから手袋ほしいって言ってたし。」

店内を色々物色して結局、岸くんには茶色の革手袋を、堀田さんには明るい色のネクタイとタイピンを選んで、休憩がてらチェーン店のカフェに入って由紀さんと少し話をした。


「迅さん。今日はありがとうございました。助かりました。

私、岸さんが父の相棒でよかったと思ってるんです。岸さんって、とっても純粋な方ですよね。嘘をつかないし、いつも一生懸命だし。尊敬するなぁ。父もね、いつも『岸は本当に人間として信用できるいいやつだ。』って言ってるんです。」

由紀さんは、すごく嬉しそうな遠くを見るような目でそう言った。

へぇ、岸くんこんなに思われてるじゃん。

「そうですね。彼は純粋で直向きでいつも人の事ばかり気にしてるんですよ。周りの人の事を大事にしすぎて、自分の事を少しおろそかにしてしまうことがあるんで、そんな彼をフォローできるパートナーがいればいいんですけどね。」

僕は、ここぞとばかりに岸くんを売り込んでみた。

「岸さん、本当に彼女とかいらっしゃらないのかしら。」

「彼女ですか?いないはずですよ。」

「あんな素敵な人なのに、世の女性は見る目がないのかしら?」

ん?いやいや、由紀さんあなたが彼女になってくれればいいんですよ。

僕は心の中で、そう叫んでいた。


由紀さんと別れて、その足でKINGに行き、事の次第を紫音に報告した。

「それって、もう由紀さんも岸くんの事好きってことなんじゃないの?」

紫音は意外だといいながら、それでも嬉しそうに頷いている。

「とうとう岸くんにも春がやってくるってことかぁ」

僕の顔を今俯瞰で見たら、きっとすごくニヤニヤした顔をしているんだろう。紫音も僕と負けず劣らずニヤニヤして嬉しそうな顔をしている。


そう、数日後のあの日が来るまで、僕らは岸くんの事で浮かれていたんだ。

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