チョコより甘い話はないーTheDetectiveKP

KPenguin5 (筆吟🐧)

第1話 恋煩い

「はぁ~~」

とっても重たいため息がカウンターの向こうから聞こえてきた。


「なぁ、紫音。最近の岸くん。変じゃない?」

「ん?あぁ、スマホ見てニヤニヤしてたと思ったら、急にため息ついたりしてるんだろ?

あれ、恋煩いじゃないのかな。」

「恋煩い!!あの、岸くんが?」

僕は驚いて少し大きな声が出てしまった。あわてて手で口を押えた。

「いや、あれみてたら、普通気づくだろ。」

紫音が呆れたように言った。


ここは、BarKING。僕の目の前にいる、平井 紫音がやっているBarだ。

僕は境田 迅。このKINGには実家の酒屋が酒を下している関係で良く出入りしている。

そして、カウンターの向こうで今まさにため息をついているのは、刑事の岸 悠馬。僕たち三人はたまにこのKINGに持ち込まれる事件を解決したりしている。


「岸くん、この前のクリスマスパーティーのあとから、あの調子なんだよ。ため息ついては、ぼーっと考え事したり、たまにニヤニヤしてたり。」

紫音はちょっと困り顔で言った。

「恋煩いの相手ってのは誰なの?」

僕は紫音に聞いた。

「堀田さんとこの由紀さんみたいなんだよね。

堀田さんが由紀さんの話をするたびに、岸くんが分かりやすい反応するんだよ。見てて面白くってさ。

この前、堀田さんと二人で来た時なんか、堀田さんの顔をじぃーっと見ちゃってさ、堀田さん気味悪がってたよ。」

「あちゃー、重症じゃん。」

堀田さんってのは、岸くんの相棒の刑事で、このバーの常連さんでもある。由紀さんは、その堀田さんの一人娘だ。堀田さんの奥さんは早くに亡くなったそうで、堀田さんと由紀さんの二人家族と聞いている。


僕と紫音でそんな話をこそこそしていたら、当の岸くんがこちらに気づいた。

「なんだよ。俺の顔になんかついてるか?」

少しすねたような顔で岸くんが言ってきた。

「きっさん、なんか悩みあるなら俺らが聞きますよ。ため息ばかりついてたら、幸せ逃げちゃいますよ。」

と言ってみた。

すると、意を決したように岸くんが僕らのほうに移動してきた。

「ちょっと、相談に乗ってほしい。」

あまりの真剣な顔で言う岸くんに、ちょっと面白がっていた僕は反省した。

岸くんは僕の隣に座って、

「俺、どうしたらいいかわからないんだよ。自分の気持ちがわからない。」

カウンターに突っ伏してため息を吐く岸君に紫音が、

「あ、また溜め息ついた。好きな人が出来てどうすればいいか悩んでる。顔にそう書いてあるよ。」

「え?まじ?え?どこに?」

紫音にからかわれて岸くんがタジタジしている。

「いや、言葉の綾だよ。本当に書いてるわけないでしょ。

で、その人ってのは堀田さんとこの由紀さんでしょ?」

「え?なんでわかるの?」

岸くんはびっくりした顔をした。

「岸くんみてたら丸わかりだよ。ほら、これ呑んで少し落ち着きなって。」

紫音が岸くんの前にジンロックを置いて、

「よし、迅と俺とで話を聞こうじゃない。」

「そうそう、どんな感じなの?聞かせてよ。告白とかしちゃうわけ?」

僕と紫音が岸君をみた。恋バナなんて久しく聞いてないな。人の悩みを喜ぶんなんて不謹慎だが、なんか楽しくなってきた。


「いや、まぁ、そうなんだけど。でも、やっぱりさ、なんていうか…」

岸くんが頭をガシガシ触りながら、悶えている。

「由紀さんに振られるんじゃないかって、二の足踏んでるんだ。高校生じゃん。」

紫音がニヤニヤしながら岸くんに言った。

「違うよ。まぁ、それも少しはあるけど。」

岸くんは少し膨れた顔をした。

「堀田さんの事が気になってるんでしょ?堀田さん、酔うといつも由紀は警察官とは結婚させない!!って息巻いてるから。」

と僕が言うと、シュンとした顔をして岸くんが僕のほうを見た。

「そうなんだよ。」

なんか、雨に濡れた子犬のような目で見つめられると、優しく話を聞いてあげたくなっちゃうのは岸くんの得な性格なのかなぁ。

「実はさ、去年のクリスマスパーティーの帰りに由紀ちゃんに呼び止められたんだよ。ちょっと渡したいものがあるからって。

で、その時、いつも父がお世話になってますっていわれて、このマフラーをプレゼントしてくれたんだ。

女性にプレゼントをもらうのなんて初めてで、嬉しくてさ。しかも、由紀ちゃんが俺の首にマフラー巻いてくれたんだよ。由紀ちゃんから凄くいい匂いがして、ドキドキしちゃって、由紀ちゃん抱きしめたくなったんだ。

その時は理性で抑えたんだけど。

それまでも、堀田さん送っていった時なんかよく由紀ちゃんの手料理をごちそうになってはいたんだよ。それまでって妹みたいな感じで、あんまり意識してなかったんだけど、なんか最近大人っぽくなったっていうか、可愛いなぁなんて、意識しちゃってさ。」

なんか、下を向いて照れたようにでも幸せそうに語る岸くんが、可愛いなぁと思ってしまった。

「でもさ、告白してもし断られたら、俺由紀ちゃんと顔合わせるの気まずくなるしさ。それに、堀田さんとも気まずいじゃん。だからさ。どうしたらいいのかなぁって悩んでいるんだ。紫音とかなら恋愛経験豊富そうだし、なんか良いアドバイスくれそうだなぁって。」

「俺、そんなに恋愛経験豊富じゃないけどな。でも、岸君が動かないと何も始まらないんじゃない?」

「そうだよ。断られたって、お互いもういい大人なんだし。少しの間気まずいだろうけど、それは時間が解決してくれるよ。きっと。」

「そうかな…。」

「そうそう、まず行動あるのみ!もうすぐバレンタインもあるし、告白してみればいいじゃん。OKしてもらえたら、堀田さんの事を考えたらいいよ。」

紫音と僕が、岸くんをけしかけているところに、ちょうど堀田さんが来店してきた。

堀田さんが来店したことで、由紀さんの話はここでいったん終わりになった。

「おう!岸、ここにいたのか。ちょうどよかった。

由紀から再来週の水曜日に、うちで鍋をするから岸を連れて来いって言ってたぞ。予定大丈夫だよな。」

「あ、はい。大丈夫です。再来週の水曜日って、14日ですね。」


僕と紫音はカウンターの隅で

「14日ってバレンタインデーじゃん。これってチャンス?」

「でも、堀田さんも一緒にいるんだろ?チャンスあるかな?」

そんなことをこそこそと話していたら、岸くんが振り返って睨んでいた。



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