オーシャン・プリンセス

陽菜花

プロローグ

「—―ルア」



静かな水の音が聞こえる泉。

泉と言っても、水ではなく海水。



「フィオ!」


水しぶきをあげて、海面から美しい少女が出てくる。

人間の少女ではなく、人魚の少女。

腰まで届く銀色の髪に、アクアマリンのような鱗、紫がかかった深い青の瞳。


「うわっ、冷たっ」


「ご、ごめんなさい。会えるのが嬉しくて」


「いいよ。それより体調は?」


「全然大丈夫!水だった時より全然息がしやすい」


「そうか、良かった」


ルアが元気そうなら良かった。


こんな美しい人魚たちを、過去に人間は傷つけ、たくさんの人魚を死に追い詰めた。

もう二度とそんなことを起こさないように、これからは人魚を保護をしつつ、共に歩むべきだ。


「人間に戻らなくていいの?」


「ああ。本来のって言ったらおかしいけど、過ごしやすい姿でいてほしいから」


「私はどっちでも過ごしやすいよ」


「……ダメだ。人間になると負担が大きくなる」


「えー。私はフィオと同じように過ごしたいのに……」


そう言って、上目づかいで俺を見る。

きゅるん、うるうる。


……可愛すぎる。

俺の心臓がわしづかみされたように心臓が跳ねる。


「……そんな目で見るなよ」


「フィオってケチ」


プイっとそっぽを向くルア。

あーあ、拗ねちゃった。

よっぽど人間になりたいのだろうけど、ルアの体調が心配になる。


「わかったからこっち向いて」


「何、フィオ」


指にルアの綺麗な髪を絡め、もう片方の手でルアの頬に触れる。

そっと顔を近づけ、唇に甘くて柔らかい感触が触れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オーシャン・プリンセス 陽菜花 @hn0612

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ