第2話 転生

『転生後の身体構築完了、ステータスの反映完了、種ごとのユニークスキル取得完了、【下僕の才】による効果発動確認完了、最高の下僕になるためのプロセスを理想の主人から改めて逆算……人間に対しての暴力行為が一部制限、また弱体化されました。人間からの干渉を受けやすくなりました。モンスターとの遭遇率が高まりました。人殺しモンスター特攻を取得しました。その階層における経験値効率の高いモンスターを確認できるようになりました。進化先が変更となりました。……転生準備完了。顕現します』


 悲壮感に浸ってる俺を無視して淡々と転生準備は進んで、なんかもう完了したらしい。

 あまりにこっちの感情とは別にことが進むから悲しんだり振り返ったりしてたのがもう馬鹿馬鹿しく思えてきたんだけど。

 

 にしても改めてこういう無機質なアナウンスを聞いたりステータスを見たりするとダンジョンってやっぱりゲーム感が凄いな。


 ……。てか俺、やっぱり転生するんだよな。となればテンプレート通り『異世界』行き濃厚、か。

 


『――いいえ。転生先は現代よ。あなたみたいな下僕になりたいとかいうヤバいのを異世界に連れて行ったら私が叩かれまくりだからね。ただでさえダンジョンの運営チャットで、【雑魚世界ダンジョンに飛ばされて草】、【実質終身刑ワロタ】、とか言われたい放題なのに……。はぁ、とっとと誰かダンジョン攻略してくんないかな』



 ……。……。……。前言撤回。全然無機質じゃない。え、急に人間味出してくるじゃんこのアナウンス。

 しかも軽く俺のことディスってるし。


『アナウンスぅ? アナウンスさんでしょうが。こっちはあんたら人間にとって大事な大事なモンスターを生み出したり、階層ごとのバランス調整したり、階段の位置だって定期的に変えてんのよ』


 す、すみません。アナウンス……さん。

 そのぉ。ご機嫌悪いところ申し訳ないんですけど、俺質問いいっすか?


『特別に許す』


 ありがとうございます!

 それじゃあまずなんですけど、なんでアナウンスさんは急にそんな風に?


『あんたのスキルが原因。いつもは適当に自動送信メッセージで済ませてるけど【下僕の才】があるとどうしてもあんたを直接罵ったり、冷たい態度をとりたくなるの』


 ……。とんでもないクソスキルを覚醒させてしまったのか、俺は。


『使用者もスキルもクソキモイわよね』


 そ、その通りですね! ってなんで俺ちょっと嬉しくなってんだよ……。これもスキルのせいか?


『関係ない。それはただの性癖』


 あ……。覚醒したのはスキルだけじゃないってことか……。大変なことになった。


 ま、まぁそれはもうしょうがないとしてもう1つ質問しますね。


 アナウンスさんは実在しているんですか?


『している、というよりもしていたというのが正しいかもしれないわね。ダンジョンは定期購入されるとその運営ができる私たちが派遣される。そうすると派遣された私たちは運営に邪魔な実態を一旦概念として存在するように変えるの』


 販売……。それはダンジョンを売る会社があるってことですか?


『ここだと使える人間はいないけど、他の世界じゃ魔法が当たり前に存在してる。だからこんな職業も出てきたりするのよね。ちなみに対価はダンジョンを展開できるだけの魔力と……現金。現ナマよ、現ナマ。まさかあの魔族があんなに金を持ってて、しかもプランをダンジョンクリアまでにしてくるなんて……。こんなことならこんな案件に乗っからなかったのに』


 現ナマってイマドキ聞かなくないか? そういえばアナウンスさんが派遣されたのはダンジョンができた時と同じだから声は若いけど結構おば――


『それ以上言ったら転生先を肥溜めにするけど?』


 すみません。まだ俺そこまで上級者じゃないんです。


 えー、取り敢えず質問は以上なんで転生をお願いできますか? あ、勿論場所は安全なところで。


『そうね。こうして話すのも久しぶりで疲れたし。あ、でもその前に一言いいかしら? あなたのスキルの効果を考えれば、万が一ってこともあるかもしれないから』


 嫌な予感がしますが……。

 それは俺にとってもいいことなんでしょうか?


『んー、結局あなたの目的を達成するにはこれが一番手っ取り早いと思うから……いいことなんじゃないかしら?』


 めっちゃ微妙な反応じゃないですか。

 やっぱり肥溜めとかじゃないっすよね?


『違うわよ。……。ダンジョン管理者の私と底辺探索者だったあなた。テイム状態を除いて【下僕の才】の効果が最大限発揮される関係下で、命令する。最高の下僕を目指すにあたって、このダンジョンをクリアしろ』


 ……。……。了解しました。



 ――ぷ、つ。



 あれ? 急に、思考が回らなく……。会、話が、言葉、が……。



 ……。……。……。……。……。



「――きき……」



 突然何もできなくなり無が訪れ、終わった。

 無だったが故にどれくらいの時間経ったのか、意識や魂をどう触られたのか、そもそもいじられ動かされたのかどうか、それは分からない。


 だけどそんなことは気にもならないくらい重要なことが今、転生初っ端で分かった。



 それは……自分が聞き覚えのあるあの鳴き声を発したということ。



 つまり俺の転生は最弱で最高な理想のモンスターを見事引き当てて……完了ってわけ。



 さて、最かわな見た目になったことだし早速レベルを上げ……。


 ん? 待てよ。待て待て待て待て、いや、普通に考えて……『一角兎』でどうやって敵倒せばいいの? てか倒せるの?



「――ぐ、おぉぉ」



 ……。やっべ。もたもたしてたからモンスターきた。


 しかもこいつ……あの、アナウンスさん今からでも転生先肥溜めにしてもらえません?


 ドラゴン種は最低でもEランク、適正レベルは40。出現階層は9階層、ボス階層前から。



 ……。10レベルじゃ殺されるに決まってんだよ! 馬鹿野郎!! こちとら一階層の雑魚なんだが!?

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