第3話 レベルアップ

「……き、きき?」

「けぎゃああぁぁああおっ!!」


 可愛い見た目が一角兎の武器。


 そう信じてとびっきり可愛く鳴いて見せたのに、ドラゴンの奴躊躇するどころかスピード上げて突っ込んできたんですけど……。


 羽は生えてるけど走って近づいてくるのはまだこいつが幼いからなんだろうけど、それでもくっっっっっっっっそ速いっ!


 実は可愛いアピが通用しないって分かってから速攻逃走開始してたのに、それでも追いつかれそう。



 やっばい。だんだん足音が近づいてきて、歯をカチカチ鳴らす音とか涎を垂らす音まで聞こえてきた。



 こいつ絶対食う気じゃん、俺のこと。

 このままミンチになって腹に流される、そんなの勿論嫌だ!


 やるっきゃない。倒せないまでも逃げる隙が生まれればそれでいいんだから!!



「――ききっ!!」

「……があ?」


 決死の覚悟に選んだ一撃は、地面を思いっきり蹴り飛ばして自分で視認できるくらい飛び出た前歯による噛み付き。


 それが不意を突けたのか右足に見事命中、したまでは良かったんだよ。

 なんでそんな言い方するかって? いやさ、ホワイトニングしたのかなってくらい真っ白なこの歯より……遙かに硬いんだなぁ、この鱗が。


 いやぁドラゴンさん、何かしましたかって顔してますね。……これは終わったかな?


「がぁああぁっ!!」


 ドラゴンが口を大きく開いて俺を噛み殺そうとしている。

 避けなきゃいけない。分かってるんだけど……恐怖からかな、俺は脚が動かなくなっちゃったみたいだ。


 ……。


 ま、だからって諦めませんけどねっ! 死ぬのって痛いし、今以上に怖いんだよ!


「き、ききいっ!!」

「がっ!?」


 俺を綺麗に収めようと横側から迫るドラゴンの大きな口。

 そしてそれは案の定俺を丸飲みできるよう覆い、勢いよく閉じようとした。


 その瞬間、俺は意地を見せた。


 つまり何をしたかって? 聞いて驚くなかれ! ……一本角が上あごにヒットするようにコロンと少し転がってやったんだよ!

 

 つまようじが変なところに刺さってちょっと驚いて、痛い思いをする。

 それに似た要領で、あわよくばドラゴンに隙が生まれるないかな、なんて思いながら行った俺史上一番の生き意地!


 うん、しょうもないのは分かってる。でもあるだろワンチャン! それ、ワンチャン! ワンチャン! ワンチャ――



「――ぐぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



「き?」


 え?


 痛がるにしても大袈裟じゃない? 結局あの刺さったところであの鱗を貫通できるわけでもないし……あはは、このドラゴン面白いやつだな。

 きっと名前は大根役者のダイコンドラゴンでしょ――


『対象の情報を得ようとしたことを確認しました。保有スキル【鑑定LV1】により対象のステータスを可能な限り表示します』


―――――

種族:ベビードラゴン

ランク:E

HP:100→90

※9階層経験値効率【高】モンスター

―――――


 さっきまでの人間味のあるアナウンスとは別の冷静なアナウンス。

 

 ということはいま流れたのは自動アナウンスで、本物のアナウンスさんと話せる機会は限られるってこと。


 ってそんなことはいいんだよ! 大事なのは表示されたこのステータス!


「き、きき」

「ぐぎゃあああ!!」


―――――

種族:ベビードラゴン

ランク:E

HP:100→85→70

※9階層経験値効率【高】モンスター

―――――


 やっぱり。俺のこの角が刺さったことでちょっと動かす度にダメージが入るようになってる。


 ちょっと刺さっただけじゃこうはならない。ということは……。



「ききっ!」

「ぐっぎゃあ!!」



 思いっきり角を上下に動かしてみても、何かに遮られてる感覚は一切ない。これ、貫通してるよ。


 あの鱗を一角兎の、俺程度の力で……。


 一体どういうこと? 


「――げがががっ! ああああっ!!」

「きっ!?」


 やば。少し考えてた隙に暴れられて角が抜けた。


 でも……。


―――――

種族:ベビードラゴン

ランク:E

HP:100→85→70→55→40→25→10

※9階層経験値効率【高】モンスター

―――――


 このドラゴン、不用心に動くもんだから大ダメージ負ってるよ。


「あ、が……」


 ん? 俺を食うことを諦めたのか? 血を流しながら振り返って、俺がいる方向とは反対にふらふらと歩き始めたぞこいつ。


 やった……。やったやったやった! 死を回避! 生き延びた! 生き延び……いや、生き延びて喜んでる場合じゃない! 勝てる! 格上に俺が! 一角兎が!


 もう恐怖はない。脚は動く。なら攻撃。攻撃なんだっ! 勝つには攻撃! 強くなるには容赦なく、殺すこと!


「き、ききいいいぃぃぃぃいいぃぃぃぃぃぃいぃぃぃっ!!」


 逃げの一手に打って出たベビードラゴンの背中目掛けて、さっきあの鱗を貫通することができていた一本角を全身穿つ。


 生々しい肉を貫く感触が今度は鮮明。

 またこの角はあの鱗を貫いてダメージを与えることに、成功した。


―――――

種族:ベビードラゴン

ランク:E

HP:0

※9階層経験値効率【高】モンスター

―――――


 ベビードラゴンのHPは何度確認しても0。突然死体が動き出すなんてこともない。


 勝った。勝っちゃったよ……。あのドラゴンに。雑魚な俺が。万年薬草むしりの俺が……。



『――レベルが15に上がりました』



 レベルも上がって信じられない。……。……。……。ん? レベル15って……今そう言いました?

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