一角兎のガードブレイク無双~食肉用のもふもふ呼ばわりですが実は最強の防御無視スキル持ちなので推しの探索者にテイムされるために経験値モンスターもボスも倒しまくって最強を目指します~

ある中管理職@会心威力【書籍化感謝】

第1話 下僕の才

 ダンジョン。

 それは今から100年前、異世界からこの世界にやって来た1匹の魔族が世界征服を目論んだ末生まれた自動モンスター生成兼育成場。

 だけどそんなダンジョンは魔族の野望があっという間に頓挫したことで国によって封鎖、放置。一生誰も踏み込むことはない、と思われていた。


「お前今月どれくらい稼げた?」

「ざっと80万くらい。Dランクの実力だと今はこれが限界かな」

「だよなぁ。かぁ、俺もSランク探索者になって億万長者になりたいわ」

「モンスターの素材を利用する企業が増えれば買取単価も上がるからそれ待ちでいいんじゃね? それに週3働いてこれなら十分だって」

「それもそうか。ほんと最初ダンジョンに踏み入ってくれた奴らには感謝だな。あいつらのお蔭で宝の山があるって分かったんだから」

「そうだな。そんじゃそんな奴らに感謝ってことでとりあえず乾杯でもするか。ほら! 帰りのビールが1番美味いんだぜ」

「サンキューっ! ……んあっ! うっめ! 探索者最高! あはははは!」


 ダンジョン一階層に響く高笑い。

 こうしてお気楽探索者がでかい声で感謝したりするお蔭で、勉強不足な初心者でも大抵の場合ダンジョンの資源の需要とダンジョン探索が流行った理由、それにこの探索者がどれだけ稼げる職業なのかってことが分かる。


 俺も最初の頃はこれ聞いて活気に満ちてたっけな。

 自由で楽でがっぽり稼げるって本気で思ってさ。


「甘くない。それどころかこれでもかってくらい……塩辛すぎるって、探索者。……。ステータス確認でもするか。『ステータス』。やっぱり低パラメーターでレベル……10。それでもってランクは……G。はぁ。惨めもいいとこじゃん、こんなの」


―――――

名前:多白守(おおしろまもる)

年齢:20

レベル:10

HP:55

攻撃力:23

魔法攻撃力:18

防御力:25

魔法防御力:15

幸運値:10000

クリティカル率:10%

ユニークスキル:下僕の才(メイン効果の発動条件を満たしていません。詳細の確認不可能)

習得魔法:無し

―――――


 大学進学も就職もせず親の反対を押し切って探索者になってついには成人。

 その挙句がこれ。


 同期は平均40レベル。それにもうSランクの探索者だっているってのに、俺だけ全然レベルが上がらない。


 まぁ運はいいからモンスターの討伐じゃなくて薬草とかの採取で食ってはいけるけど……。


「はぁ。こんなのため息止まんねえよ――」

「あら? 大城君ため息なんかついてどうしたの?」

「み、御影(みかげ)! お、お前こそなんで一階層に!? てか俺の名前覚えてたのか!?」


 同期で唯一のSランク探索者御影みゆき。


 探索者試験で顔を合わせはしていたけど雲の上の存在で、同期だけど雰囲気が既に古参。強者。そんで多分歳上。

 ちゃんと話したことなんてないのになんで俺なんかに声を?


 え? もしかして俺に気があるとか? 一目惚れとか? いやでも俺は硬派。硬派だから……最初はお食事からでいいかな?


「覚えてるわ。だって多白君……ううん。なんでもないわ。それよりも最近はモンスターが活発で、一階層でも危ないからこんなところでぼうっとしてるのは良くないわよ。ほら、見て。そいつ、後ろでずっと多白君を狙ってたのよ」

「あ……。マジか。す、すまん助かった」

「ふふふ、いいのよ別に。私たち同期、なんだから。それにしてもこの兎ちゃん可愛いのに獰猛よね。……惜しい。もっと強ければ絶対テイムしてたのに」


 御影が指差した先にいたのは一匹のデカい犬型のモンスターとそれに咥えられた一角兎。


 一角兎。食肉用のモンスターで雑魚。でも意外にダンジョン一階層で死亡する原因のほとんどがこのモンスターによるものらしい。

 

 御影がいなかったら俺も……って考えただけで鳥肌が。


「ぐぐぅ……」

「うふふふ。あらあら褒めて欲しいのね。偉い偉い。帰ったらご褒美あげるからね。それじゃあね多白君。私は2階層の見回りもしないとだから」

「そ、そうなのか。大変だな。が、頑張って」

「……。うふふ。ありがとう。何か悩んでるみたいなら気兼ねなく声掛けて。そうしたらこうやって……」

「え?」


 御影は俺の頭に手を乗せてきた。

 あったかくてちょっと恥ずかしくて……嬉しい、かも。


 やばい。癖が歪む。いや違う。癖が漏れる。


「グルルル……」

「あ、ごめんごめん。嫉妬しないで。それじゃ今度こそまたね、多白君」


 華麗に、余裕たっぷりに去って行った御影。


 いやもう御影さんの方がいいかもしれない。完全にやられちまったよ、俺。付き合うとかそんなのは無理として……推させていただきます。


「……。まだドキドキするな。もし御影に、御影さんにまた頭でも撫でられたら俺……。はぁ。あのモンスター、羨ましいな。ずっと御影さんと一緒で。……。ってキモっ! 俺気持ち悪っ!」



『【下僕の才】の条件が満たされました』



「え?」


 御影さんが去ってからしばらく、なんとなくその場から動けずにいると頭の中にアナウンスが流れた。

 何がきっかけになったのかは分からないけど、これでスキルの詳細が見れるかも。


 ワンチャン超チートスキルこい。こいこいこいこいこいこいこい……。


「こい――」

「ききっ!」



 ――ぶち。



「く、あ……。まさか、さっきの以外にも、いた、のか?」


 強烈な痛み、肉の貫かれる生々しい音。

 大量の出血で血の気が引く。体温が下がる。


 視線を下げれば血塗られた一角兎の角。


 ああ。折角助けられたってのに、俺……。


「死ぬ、のか。……母さん、父さんごめん。母さんのポトフ、米に合わないから、好きじゃないとか言って、ごめ、ん。……。あー、最後に、もう一回撫でられたかった、な。そういえば御影、一角兎をテイムしたが、って……。ふ、生まれ変わるなら、俺……」


 視界が暗くなる。

 手も足も動かなくなる。

 周りの音も聞こえなくなる。


 そうして五感が機能しなくなった。なったはずなのに……。


『スキル下僕の才が発動されました。下僕に最適であると思われる肉体を選択……。転生準備を開始します』

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