7・2  カッツの能力

 スチルと同じ容貌、でもナマモノのインパクトは大きかった。

 カッツ・ゲインズブールはこの世界でも珍しい白髪に赤い瞳だ。しかもミリアムやレティよりも透き通るような白い肌。顔はもちろん美男だし、優しげな笑みを浮かべているけれど、それよりも色の特異性に気圧されれ。


「カッツ。この子がヴィーだ」

「はじめまして」慌てて挨拶をする。「ヴィットーリオ・シュタインです」

「カッツ・ゲインズブールです。よろしく」

 立ち上がって手を差し出してくる。急いで手汗をキュロットでぬぐって、握手する。バリトンの声に穏やかな口調。しかも振る舞いは紳士。

 あれ? ゲームのカッツってこんなイメージだったっけ?


 フェルに促されて、彼の隣にすわる。

「カッツは学園で僕のひとつ上の先輩だ」

 なるほど。わりと親しくしていた、ということかな。名前を呼び捨てにしているくらいだ。フェルのひとつ上なら二十二歳だけど、もう少し上に見えるな。


「今は学園で教師をしながら魔法の研究をしている」

 そうそう、だから忘れていたのだ。だって入学するまで会うことはないとと思っていたから。

 確か若いのに三度の飯より研究が好きっていう変わり者で、いい年なのに恋人も婚約者もいない。主人公の愛らしさに接して、ようやくトキメキを知る……って設定じゃなかったっけ?

 今のところ、あまり変人には見えないけど。


「それでね、今日はヴィーをみたいって言うんだ」

「どういうこと?」

 よくわからん。


「私から説明するよ。とりあえず私の見た目、気持ち悪いだろう? これから話すね」

「え、気持ち悪くないですけど?」

 特異だけど、そんな風には思わない。けれどカッツ・ゲインズブールがそう言うなら、そのような扱いを受けてきたのだろう。

 彼はにっこり笑って、ありがとうと言った。


「君のような人ばかりだと助かるのだけどね。ぼくみたいな容姿はかなり珍しいんだ」

 確かに見たことも聞いたこともない。

「それでも時たまいてね、ヴァイスって呼ばれている。みんな髪も皮膚も白い。瞳の色もたいてい薄いのだけど、私はなぜか赤い」

だから、気持ち悪いという人がいるのかな。ゲームの世界なんて、前世の世界に比べたらかなりカラフルな人が普通にいる世界なのに、ひどいもんだ。


「シュシュノンではね、ヴァイスは魔力が強いという俗説があるんだ。けれど私にはまったく魔力がなくてね。そこから魔法研究をするようになったんだ」

 理解できているよとの合図にうなずく。


「魔法についてはなんでも研究しているのだけど、特に力を入れているのは失われた魔法についてだ。それができそうな力を持つ人間を見つけたら、アドバイスをして使えるようになってもらう。私は自分には魔力がないのに、ひとの魔力はわかるんだ。どれだけの力を持っていて、何が得意そう、というのがね」

「不思議な魔力ですね」

「魔力といっていいのか」彼は苦笑した。「この能力は元を遡ると呪いまじない魔法にいきつくからね。かつては確かに魔法だったんだけど、今ではただの体質みたいなものだよ。私以外でもこの能力の持ち主は、稀にいるんだ」

「でもその中でも彼の感度は随一なんだよ」

 とフェルが付け足す。

「凄いのですね」

 でもそれがどうしてわたしに繋がるのだろう。


「病いや怪我などの前後で使える魔法が変わったりするケースがあってね。何かの理由や一貫性があるのか、それも研究しているんだ」

「ヴィーは以前、一時的に魔法が使えなくなったことがあるだろう? それに大病を患ったこともある」

「つまり、僕に話を聞きたいってこと?」

 そう、とカッツ・ゲインズブールはうなずいた。

「それと現在の魔力を見せてほしい」

「わかりました」


 けれど、なんでだろう。不思議だ。

 以前だったらこんなこと、きっとフェルも父様も許さなかった。最近は『超絶過保護』から『超過保護』くらいにガードが下がっているからだろうか。


「どうすればいいですか」

「まず魔力を確認したい。両手を握らせてもらっていいかな」

 おうっ! 慌てて両手の汗をキュロットで拭く。あれ、これ、さっきもやったな。だってイケメンと手をつなぐなんて、いつまでもたっても慣れないよ。


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