6・幕間・友人の査問
(ジョーのお話)
久しぶりに参加する少年団の鍛練。間が空いているので念入りにアップをしておこうと早めに行くと、すでに自主練を始めている数人の中にウォルフガングを見つけた。
片手をあげると、気づいて俺のそばへやってきた。
「この前はどうも」
「どうも。お前、いつもこんなに早く来ているのか?」
ウォルフガングはああと頷きながら、タオルで顔の汗をぬぐった。
「騎士団には入らないんだろう?」
「まあな。でも体を動かすのは好きだから」
俺が入団しているのと同じ理由のようだ。だが真剣味が違う。
挨拶ついでに、聞いておこう。
「あのさ、正直に答えてくれるか」
「なんだよ、怖いな」
ウォルフガングは身構える。
「ミリアムをどう思う?」
彼はそんなことかと気を抜いた顔になった。
「ヴィーが大好きなんだな」
「正解。いや、違うって。かわいいと思うかってことだ」
「ああ。顔の造りはかわいいな。けどヴィーのほうがかわいい」
「お前……、それ、絶対にミリアムの前で言うなよ?」
「わかってる。オレだって何度も平手打ちはされたくない。ていうか、十四歳男としてあれはどうなんだ」
「ミリアムもフェルディナンドも、ヴィーにかわいいままでいてほしいんだよ」
でもなあ、とウォルフガングは頭を掻いた。汗が飛ぶ。どんだけ自主練をしてるんだ。真面目か。そりゃアンディも信頼するわな。
「お前、どこまで知っている?」
「多分、だいたい。お茶会の後に父から聞いた。先に話しとけよなあ」
「死にかけた事も大変だったけど、自分が誰か分からなくて、布団かぶって怯えてるヴィーを見てるほうがキツかったんだぜ」
「そんなだったのか」
そう、あの日々は俺たちだって辛かった。
元々仲のいい双子だったけど、あれからますますミリアムはヴィーにべったりになった。
「ヴィーはもうあの通りだけどな。ミリアムにとっては癒えることのない傷だ」
ウォルフガングは黙って頷いた。
「なかなかにあの双子の結び付きは強いぜ。で、ヴィーだけど。俺たち以外の初めての友達に舞い上がってる」
「おう」
「お前をミリアムの結婚相手に決めたらしい」
ウォルフガングは深いため息をついて、片手で顔を覆った。
「……そんな予感はしていた」
ずいぶん鋭いと驚いたが、アンディからヴィーが彼女の結婚相手を探していると聞いていたらしい。
「お前、その気はあるのか」
「あるわけないだろう」
ウォルフは顔をひきつらせた。
「いきなり平手打ちした女だぞ。オレはマゾじゃない」
そりゃそうか。
「なら、その件は適当にあしらっておいてくれ。オレもそのつもりでいく」
「頼む」
「アルベール殿下から留守中の双子のこと、頼まれているからな」
「なるほどね」
ヤツは滴り落ちてくる汗をもう一度拭いて、
「そろそろ戻る。お前は?」
「アップを始める」
「そ。じゃあ、またな」
「ウォルフガング」
去りかけたところを止める。
「俺はお前がヴィーの友達になってくれたこと、掛け値なしによかったと思っているぜ」
ウォルフガングは小さく頷いて、もう一度またな、と言い自主練グループに戻って行った。
俺は空回っているヴィーをどうすればいいか考えながら、ひとり、アップを始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます