4・幕間 騎士の秘密 3 

(アンディのお話)


「まあ、お前は新婚生活を楽しんでおけ」

 その言葉に、途端にフェルディナンドの顔がにやける。嬉しいことに、俺の妹エレノアに心底惚れ込んでいるのだ。外では冷静沈着を装っているこいつが、ようやく迎える結婚に浮き足だっている様は、見ていておもしろい。


 が、すぐに剣呑な目を向けてきた。

「お前、ペソアでは慎めよ。女に刺されて客死なんて笑えないぞ」

「わかってるって」


 俺の特異な能力は、当然女の本音も暴き出す。好意を寄せてくれているように見えて、その実打算まみれだったり、他の男と天秤にかけていたり。そんな感情を見せつけられながら恋愛なんてできるはずもない。


 ついつい冷めた気持ちが態度に出てしまうし、自然と交際期間も短くなる。

 何人か、純粋に慕ってくれる女にも出会ったことはあるのだが。やはり感情が見えてしまうことが、気持ちを萎えさせ、結局無理だった。


「そういや、ヴィーがおかしなこと聞いてきた時があったな」

「あの子は時たま、突拍子もないことを言い出すよな。なんだって?」

「俺が女癖が悪いのは、悪い女に騙されたトラウマがあるからか、って」

「あー、ある意味トラウマじゃないか?」

 フェルディナンドは苦笑する。


「ていうか、お前だろ? 女癖が悪いとか女遊びが激しいとか吹き込んでいるのは。俺は常に一人としか付き合ってない」

「スパンが短すぎるんだ! 世間一般の評価だ」

「子供に言うことかよ」

「お前の結婚が流れたあたりからかな。ヴィーなりに心配しているんだ。笑い話にしておいた方がいいだろ」


 ヴィーは、さすがにフェルディナンドと同じ血が流れているだけあって、裏表の差がなく、悪い感情もあまり持たない。付き合いやすいやつだ。

 なにより、新しい世界に出たいのに周りが過保護に守っている最近の様子が、どことなく、もっと外で遊びたいのに許されなかった第一王子の姿とだぶって見えてしまい、つい味方してやりたくなる。


「お前は昔からヴィーに甘いからな。牽制も必要だろう?」

「なんのだよ」

「兄はひとりで十分なんだよ」


 ドヤ顔で胸を張るフェルディナンド。こういうところは、本当に、バカだ。こいつにのぼせ上がっている女どもに見せてやりたい。


「ヴィーといえば、その後どうなんだ?」

 お茶会でウォルフガング・ブランに暴言を吐かれて傷ついてると聞いた。

 ウォルフはやや短気なところはあるけど、根はいいヤツだ。それほど酷いことを言うとは信じられないが、アルベール殿下やレティシア殿下からも同様のことを聞いている。


「……今は元気にしてるよ」

「そうか、よかった」

 ちょっとの間が気になるが、気づかなかったとしよう。なんとなく嫌な予感がしてきた。俺が聞いた話は都合よく加工された話なんじゃないか?



 馬車のスピードが落ち、最後は静かに止まった。扉が開く。

「今夜は飲み明かすからな」フェルディナンドがにやりと笑う「先に潰れるなよ」

「何を言う。俺より弱いくせに」

 俺もにやりと返して馬車を降りた。



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