2・3  ぼくたち双子とお茶会

 そう! この四年間、幻にしか過ぎなかったお茶会に、ついに出席できることになったのだ。


 貴族の子弟は十三歳を過ぎたあたりからお茶会を開き、同世代との交流を深める。シュシュノン学園に入るための準備でもあるみたいなんだけど、どういう訳か、わたしにはまったく縁がなかった。

 正確に言うと、いつメン以外のお茶会に縁がなかった、となる。


 うちでやるときの招待客はアル、レティ、ジョー。

 わたしとミリアムが招待されるのも、アル、レティ、ジョーが主宰のものだけ。しかも他にお客さんがいることもない。


 これじゃいつもの集まりとなにが違うの?と言いたい。もちろん招待状を出したりよそ行きの服を着たりと格式に従ってはいるけれど。わたしの望むお茶会とは違う。


 両親は『大事な掌中の珠だからね』と訳の分からないことを言ってはぐらかす。お人形のように可愛く、なおかつ女神のように美しいミリアムを大事にしたいってことなんだろうけど、過保護すぎるよね。

 だってアル、レティ、ジョーは他の子どもがいるお茶会に出席してるんだよ。

 それを理由にどんなに抗議をしても『シュタイン家の方針!』の一言で終わりにされてしまう。


 でもフェルはお茶会をしてたし、参加もしていたと思うんだけどなぁ。

 男の子と女の子の差なのかな。


 でも、でも。ついに他の子どもも参加するお茶会に出席できることになったのだ!

 主催はアル。そう、これは出立の挨拶を兼ねたお茶会なのだ。

 きのう留学の話の後に、このお茶会の誘いを受けた。いつもは頑なな両親も、さすがにこの茶会は断れないと思ったようで許可してくれた。

 アルがいなくなってしまう、という不安を脇におけば、小躍りしたいくらい嬉しい。


 わたしは張り切って素敵男子を探すんだ。

 あと……


 できれば友達も。


 最初はミリアムとレティにお似合いの、素敵男子を探すためにお茶会に参加したいと思っていたけれど。

 実のところ近頃は、友達がほしくて参加したいという思いも強い。

 だってこの四年間、わたしの友達はアル、レティ、ジョーの3人のまま増えていない。彼らに不満があるわけではないけれど。


 でも考えてみて。前世だったら十歳からの四年間って、クラス替えや中学校進学やらで新しい友達が山のように増えてる時期だよ?

 行動範囲だって広がって、世界が劇的に変わる時期だよ。

 なのにわたしの世界は十歳の頃とほとんど変わっていない。


 それがついに、変わるときが来たんだ。

 素敵男子を探すため、自分の友達をつくるため、力も入ろうというもの。けれども。


「お茶会に出たかったんだろう?」とアンディ。「何が問題なんだ?」


 その問いに思わずため息がこぼれる。


「お茶会中、ずっとミリアムをエスコートだって」

「いいんじゃないのか? ヴィーはミリアムが大好きじゃないか」

「で、ミリアムは不安だからずっとレティにくっついているって。ジョーも心配してくれて一緒にいてくれるんだ。しかもアルがぼくたち四人だけの席を用意してくれるって」

「なるほど」

「結局いつもの顔ぶれだよ!」

「鉄壁の守りだな」


 アンディは呆れ顔だ。


「お茶会って交流をはかるものじゃないの? いくらミリアムがかわいいからってやり過ぎだよね。おかしな下心満載のダメ男子を近づけたくないのはわかるよ。でもこれじゃ素敵男子にも知り合えない」

「俺もやりすぎだとは思う。もう少し自由にしてあげてもいい」

「でしょう?」

「けれど、これでも譲歩してくれてるんだろう。お前がお茶会に出たいと言い続けているから」

「それはわかってるけどさ」


 ミリアムはお茶会にまったく興味がない。知らないひとは苦手なんだそう。それでもわたしが出たいと言うから、今回付き合ってくれるのだそうだ。

 だからもちろん彼女のことは守るよ。

 でもさ。心中がもやもやするのは、致し方ない。


「まあ、お前なら上手くやれるよ。良くも悪くもな」

 ニヤリと悪い笑みを浮かべるアンディ。

 そうか。そうだよね。

「もちろん。貴重な機会を無駄にはしないよ」


 少なくともお茶会に出席できるだけでも、大前進なんだ。ほしいものは自分で掴みとらないと!


「ところで『素敵男子』ってなんだ?」

「ミリアムに似合う、見た目も中身も完璧な男子のこと!」


 胸を張って答えると、アンディは気の毒そうな目をわたしに向けた。


「まさかお茶会に出たがっていたのは、ミリアムの婿探しのためか?」

「半分はね。後の半分は、ぼくの友達作りだよ」

「ああ、うん、それなら、まぁ。一瞬、どこまでバカ家族なのかと呆れたよ」

「ひどいー。でもさ、かわいい妹には幸せになってもらいたいじゃないか。いい物件はすぐに売れちゃうだろうから、早めに手を打っておかないとさ」

「いい物件ね。ヴィー?」

「え? 友達を早押さえっておかしくない?」

「そうじゃなくて、自分の結婚相手を見つける気はないのかってこと」

「ぼくの結婚相手?」


 ぽかんとしてしまった。相当な間抜け面をさらしていることだろう。

 まったく、髪の毛一本ほども、そんなことを考えたことはなかった。


 わたしの結婚相手か。やっぱり女の子になるのかな? でも女子に恋できるかなぁ。


「自分が結婚するなんて、考えたこともなかった」

 アンディが吹き出す。

「ミリアムのことは考えるのにか?」

「うん……」


 目を下げれば平らな胸が目に入る。わたしは男の子だ。この体にはすっかり慣れたし、前世の記憶も薄れてきているけど、女の子としての意識はしっかり残っている。


「ぼくはまだいいよ」

「いいんじゃないか。俺もまだいい」

「いやいや! それはどうなのさ。ブルトン家の跡取りでしょ」

「一人だけなんて選べるか」

「ほんとっ、サイテー」


 ブルトン公爵も苦労してるのかも、と急に同情心が沸き上がる。派手な女遊びさえなければアンディは、本当に性格もスペックも最高なのに。

 そこではっとした。

 最近忘れがちだけど、ここはゲームの世界。アンディは登場キャラではなかったけど、これだけのイケメンだ、自然と女子受けする設定にされてしまっているのも。


「……ふと思ったんだけどさ」

「なんだ?」

「アンディがやたら女の子と遊んでいるのは、悪い女に騙されたトラウマから、だとか?」

「なんだそれは」

「じゃなかったら、ままならない恋をしている苦しさを忘れるため、とか?」

「……どうした? 急に熱にでもうかされているのか?」


 アンディが気味の悪いものを見る目をわたしに向けている。


「だって女遊びの激しいイケメンって、だいたいそんな理由が設定されているよね」

 設定?と呟くアンディ。おっと、余計な一言をつけちゃったよ。

「残念ながらそんな理由はないな」

「え、じゃあ、本当にただの女好きなの?」

「言い方!」


 今日二度目のげんこつが降ってきた。



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