045:イケメンだらけの三途の川

 ん……ここは……?


「ミミックちゃん」


 私を呼ぶのは誰?


「ここだよ、ここ」


 ここって……どこよ。

 あっ!?


 私の目の前に大きな川。その先には人間が……8人いる。


「おいで」

「ミミックちゃん」

「僕たちのところに」

「おいでよ」

「ふんっ」

「さぁ」

「こっちにおいで」

「ミミックちゃん」


 8人の人間が私を呼んでる。

 よくみたらみんなイケメンじゃん!

 しかも上半身裸でマッチョ!!!

 なんでみんな上半身裸なの……?

 って、今はそんなことに疑問を持ってる場合じゃない。

 この光景を目に焼き付けなきゃ。

 あぁ、眼福眼福。


 私の予想だと左からイケメン冒険者。


「やぁ、ミミックちゃんだけの冒険者だよ。一緒に世界の果てまで冒険しようか」


 イケメンと世界の果てまで!?

 ぐへへぐへへへ。

 つ、次は酒場のダンディマスターさんかな?


「デザートかい? デザートはミミックちゃん、キミさ」


 きゃぁあああー!

 デザートだなんてぇえ。

 つ、次は……イケメン勇者様だ!!


「僕とミミックちゃん、二人だけの平和で穏やかな世界を作っていこうよ」


 ふ、二人だけの世界!?

 オー、イッツ、ビューティフルー!!!

 はっ、無意識に片言で喋ってしまった。

 それくらいテンションがおかしくなってしまったぞ。

 つ、次は……パーティーから逸れたイケメン雑用係くんだ。


「僕がミミックちゃんのお世話をします。なんでも言ってください。なんでもします!」


 ぐへへ。なんでもするって言った?

 ねぇ? 言ったよね?

 ぐへへ。ぐへへ。

 よだれが止まらん。じゅりゅり。

 まだ4人で半分なのにこんなに興奮してちゃ身が持たないぞ。

 気持ちを切り替えて次の人がどんな人なのかの予想を……えーっと、イケメン魔法使い!


「正解だよ。ミミックちゃん。お見事だ。ご褒美にとっておきの魔法を教えてあげるよ」


 とっておきの魔法ってどんな魔法よ〜。

 も〜う。魅了の魔法とか効かないんだからね。

 だってもうメロメロなんだも〜ん。

 それでそれで6人目は……イケメンの……お、王様!?


「なんて美しく麗しい姫なんだ。キミを僕だけの姫にしたい」


 ひ、姫だなんてぇ。

 でへ、でへへへへ。

 悪い気はしないな。

 むしろ最高の気分っ!!

 こんな最高な時間があと二人も続くとか、私死んじゃう。

 幸せで死んじゃう!


「死ぬのなら俺の腕の中で死んで欲しい。キミを一生愛すよ。ミミックちゃん」


 ま、まさかだとは思うけど、あなたはイケメン魔王様!!

 悪そうな見た目だけど、心はめちゃくちゃ紳士で一途。

 最高すぎる。私の性壁に刺さりまくりだ。

 くっ、ラスト1人か……耐えろ私。

 最後の1人が誰なのかを見てから死ぬんだ。

 ここで死んだらもったいないぞ。

 えーっと、最後の1人は……た、タコ!?

 クラーケンじゃんか!

 え、なんでどういうこと!?

 なんでクラーケンが……。


 ――う、うぐっ。

 ず、頭痛が……めまいが……吐き気が……。

 世界がぐわんぐわんする。

 待って、行かないでイケメンたち!!

 私を置いてかないで……ウゲェ、ゲホゲホゲホッ。

 やばい……吐血した。

 って、それどころじゃない。

 さっきまで綺麗だった川が真っ赤に……血の色に……。

 うぐっ、オエ、ゔぇ……。

 やばい。吐き気が止まらない。

 体が痛い。麻痺してる感じも……疲労感も……。

 なんだ、私の体に何が起きて……………………。


 ――はっ!?


 そ、そうだ。

 私はクラーケンと戦ってたんだ。

 また見てしまったよ。三途の川。

 今回はイケメンだらけの三途の川だったな。

 特訓の時に妄想してたイケメンたちが勢揃いしてたわ。

 最後だけタコ野郎が登場して台無しだったけどね。


 というかなんで意識戻ってんのよ。

 このまま止め刺してくれれば、イケメンだらけの三途の川を渡れたのに。

 てか、攻撃が全然来ないのはなぜ?

 クラーケンの気配は確かにそこにある。

 それに声もするぞ?

 苦しんでるような。もがいているような。とにかく悲鳴のような声だ。


 クラーケンの様子を確認するため、重たい体を起こそうとした。

 体は触手攻撃の猛攻でボロボロ、それどころか墨の魔法でドロドロに溶けている部分もある。

 さらには魔力の枯渇による疲労感も。

 言うならばこれは満身創痍だ。

 そんな体を起こしてクラーケンを確認する。


「キィイ!? (ぬあ!?)」


 驚きのあまり声が出てしまった。

 ボロボロの体から出た声は、自分の声帯から出たものとは思えないほど汚いものだった。

 そんな汚い声に驚きつつも、やはりクラーケンの現状にただただ驚かずにはいられなかった。


 なんで……なんであんたが倒れてるわけ!?


「ルォオオオッ!!!」


 どうやら地盤が崩れて足場が脆くなってすっ転んでしまったのだろう。

 地盤が崩れた理由は、十中八九自分自身の攻撃のせいだろうな。

 私のことを殺そうと無我夢中で攻撃をし続けた結果、私よりも先に地面が耐えられなくなったんだ。

 クラーケンがすっ転んだおかげで攻撃が止み、私はギリギリこっちの世界に帰ってこれたってわけだ。

 そんでもって反撃するなら今がチャンスってわけだ。


 反撃するために私がやるべきことは……体に埋め込んだ魔石や宝石をありったけ喰らうこと。

 そんで、体力&魔力の回復だ!!!!


 舌で体に埋め込んだ魔石を掴み、口へ運ぶ。


 ――ガリガリボリッ!!


 魔石を掴み、口へ運ぶ。


 ――ガリガリボリッ!!


 掴んで、運ぶ。

 それを繰り返していく。


 希望はまだある。

 出し惜しみなんてしない。

 ここで出し惜しみなんてしたら勝てるもんも勝てなくなる。

 魔石と宝石を喰らい尽くしてやる。

 そんでもって最大火力でお前を倒す!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る