046:ミミックVSクラーケン〝決着の行方〟
「キィイイー! (よっしゃー!)」
体に埋め込んでた魔石と宝石全部食ってやったぞー!!
ついでに落ちてる石も食ってやったぞー!!
体力ちょこっと回復!
魔力ちょこっと回復だー!!
「ルォオオオオーンッ!!!」
そんでもってあっちも臨戦態勢バッチリー!!!
やっと抉れた地面から抜け出せたか。
随分と間抜けな姿だったぞ。
まあ、私も人のこと言えないんだけどね。
石をガリガリボリボリ必死に食べてて間抜けに見えただろうよ。
だがしかし、それでいいのだ。
勝つため!
明日の未来のため!
そしてイケメン冒険者と運命的な出会いを果たすため!
私は間抜けな姿だろうと惨めな姿だろうとなんだって見せてやる!
そしてそれを乗り越えるのだ!!!
「カパカパカパカパカパカパカッ!!!」
さあ決着をつけようじゃないか。
そのために全部食べたんだ。
全力をぶつけてやるよ!!!
「ルォオオオオオオーンッ!!!!」
クラーケンの咆哮だ。
私には『かかってこい』と言っているように聞こえた。
だからそれに応えるべく、私は歪んだ地面をもろともせずに滑り、クラーケンの方へと向かう。
「キィイイー! (いくぞー!)」
私は闇属性魔法を念じて体に付与させた。
それによって身体能力、攻撃力、防御力が向上。
回復したばかりの体にはちょっとばかし負担をかけてしまうが、出し惜しみしないと言ったばかりなんでね。
それにこれくらいの根性で挑まなきゃ、お前を倒すことなんてできないだろうからな!!!
必殺――
自分でも無茶なことをしてるってわかってる。
でも限界を超えてこそ、勝利ってのが手に入るんじゃないか?
今までだってそうだった。
だから今回も限界を超える!!!
「キィイイイイ!! (うらぁあああ!!)」
8連に設定したのは単純にクラーケンの触手が邪魔だからだ。
貫通効果がある
噛みちぎれるはずだ!!!!
「ルォオオオオッ!!!!!」
ほらきたっ!!
噛みちぎれたぞ!!
初めて戦ったときは触手の弾力に負けていたに……うぅ、成長したね、私。
それにしてもなんて強い顎と牙なんだ。
前世でもタコやイカの料理には苦戦したが、まさか転生して克服する時が来るとは。
あぁ、前世でもこのくらい顎が強ければ、
という回想シーンに行くことがない過去を振り返りながら、残す触手はあと4本!
半分を噛みちぎることに成功したぞ!!
「ルォオオオオンッ!!!」
ふっはっはっは!!
もっと聞かせろお前の悲鳴を!!!
私をもっと興奮させるんだー!!!
「ルォオオオオッー!!!!」
どうだ!!
半年の特訓で磨き上げたこの俊敏な動きとバトルセンスは!
思い知ったか!!
足場が悪くて躱しづらいだけじゃないかって!?
そんなの知りませーん!!
クラーケンの触手全8本を噛みちぎることに成功した。
嬉しい。飛び跳ねたくなるほど嬉しい。
なんなら枕に顔を埋めて叫びたくなるほど嬉しい。
だけどまだ喜んじゃダメだ。
クラーケンの闘士はまだ消えてない。
だから私がその闘士ごと闇に葬り去ってやるよ!!!
「ギィイ! (うぐっ!)」
さすがに反動がキツい。
その場しのぎの回復だもんな。
魔力の枯渇を知らせる疲労感も出てきやがった。
でもこれでいい。
限界を超えたってことだから。
いや、まだだ。
まだ私は限界を超えてない。
今はただ限界というラインに立っているだけ。
このラインを超えてこそ、限界を超えたことになる。
根性見せやがれー、私ー!!!
「キィイイイイ!! (うぉおおおお!!)」
私はクラーケンの頭部に向かって飛び込んだ。
宙に浮いている間、舌を背中に伸ばした。
この姿はまるで背中に装着した剣を抜こうとしているようにも見えるだろう。
まさにそれだ。
私は今、剣を抜こうとしているのだ。
ゴールドボックスに進化してから、宝石と魔石以外にも剣や防具を体に埋め込むことができるようになっていた。
ただ大きさなのか、価値なのかはわからないが、体に埋め込められる上限がある。
その上限をクリアしたものこそ、この剣――ネズミさんたちが収集した剣なのだ。
おそらくイケメン冒険者が使っていたものだ! (と、勝手に信じている)
とっておきの技でこの勝負を終わらせてやるよ。
触手はもうない。だから防ぐことは不可能。
私の勢いとタイミングはバッチリ。だから頭部をめり込ませて躱すことも不可能。
私は舌で持った剣を振りかざすように構えた。
このまま斬りかかりたいところだが、そうではない。
ただ斬りかかったところで弾かれるのは目に見えてるからね。
だからこの剣の使い方は別にあるのだ。
剣を向けたまま闇属性魔法を念じる。
直後、口内に魔法陣が出現する。
闇属性魔法の威力と剣の鋭さを併せた究極の技!!!
くらいやがれ!!!!
必殺――
勝負ありだ。
勝利を確信した次の瞬間、クラーケンの口元――私の正面に黒い液体が出現した。
これがなんなのかすぐに理解した。
これは墨の魔法だ。
魔法陣はない……わけではない。きっと私と同じで口内に出現しているはずだ。
墨の魔法にはロスタイムがある。
それは再戦となる今も同じだった。
それを補うために魔法陣を8つ同時に展開していたのだと思っていた。
それがここにきてまさかのブラフ!?
いや、違う。頭は切れるクラーケンだがそこまで考えているとは思えない。
おそらく、触手を噛みちぎられているときにこうなることを予想して、己の触手を諦め、墨の魔法に全神経を注いでいたんだ。
クラーケンも私と同じ魔物だ。レベルアップすれば噛みちぎられた触手なんて元通りだろ。
くっそ。迂闊だった。
クラーケンは待っていたんだ。この時を――この瞬間を。
私が攻撃を仕掛けた隙だらけのこの瞬間を。
だが、ここまできたら引くわけにはいかない。
墨の魔法ごと斬ってやるよ!!!
「キィイイイイ!!! (うぉおおおおお!!!)」
「ルォオオオオオーンッ!!!!」
全力と全力のぶつかり合い。
技の威力はほぼ互角。
この勝負、弱気になった方が負ける。
それなら私が負けることはない。
根性で私が負けることなんてないんだよー!!!
私の根性をみさらせやー!!!
――ヴォオオンッ!!!!
激しい衝突音が洞窟内に鳴り響いた。
聴覚はその衝撃音にやられ、ツーっと、ただ不安になる音だけが鳴り続ける。
決着の行方はというと……まだついていない。
技と技が相殺しあったのだ。
全力をぶつけてもなお、私の穂先はクラーケンには届かなかった。
全身にひどい激痛と疲労感、頭痛もめまいも吐き気も容赦無く襲ってくる。
今世紀最大級の絶不調だ。死んだほうがマシって思うくらいに。
でも死ぬわけにはいかないのが、転生したこの世界での私の
くっ、あと少し、もう少しだけ私に力があれば……。
悔やんでも仕方がないが、あと一歩で倒せるってところでこれじゃ悔みたくもなる。
ネズミさんたちからもらった剣はもう衝撃に耐えられずに粒子となって消えた。
私の魔力も底を尽きている。回復しようにも魔石や宝石はない。
落ちている石を食べてもいいが、数百個、もしくは数千個食べてやっと魔法が出せるようにくらいだろう。
そもそもそんなに食べれないし、食べる体力も残ってない。
でも……あっちも同じみたいだ。
「ルッ……オ……」
触手は全て失い、私と同じで魔力もそこを尽きたらしい。
互いにHPが1の状態。攻撃を当てれば勝てるのだけど、その攻撃手段がもうない。
決着がまだついていないと言ったけど……この状況はどう考えても引き分けだ。
歯切れが悪い……でも、私は満足してる。
きっとクラーケンもそうだ。
だから敵である私に背中を向けて、この場から立ち去ろうとしているのだろう。
その背中が全てを物語ってるよ。
でもいつか決着をつけよう。
今度は引き分けなんて歯切れの悪い結果にはさせない。
私が勝つ。
ふふっ。驚いたな。
こんな瀕死の状態でも私の闘士はまだ消えちゃいないんだもん。
この闘志はきっと決着がつくその日まで消えることはないだろうな。
きっと……。
あぁ、ダメだ。ここで意識を失ったら……他の魔物に
もう少しだけ……あと少しだけ……体よ、動いて、く……れ……。
でも……このまま……意識がなくな、れば……イケメンたちに、会え……か、も……。
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