034:ミミックVSスカルドラゴン〝黒色の光線〟

「WOOOOOOOOOO!!!!」

 ――ブォゴンッ!!!!


 スカルドラゴンの咆哮だ。

 と思ったら、炎の弾が横切った!?


 な、なんだ今のは!?

 火の弾……ファイヤーボールってやつか!?

 ジェネラルスケルトンの斬撃の比じゃないほどの速さだったぞ。

 いつ吐いたのか全くわからなかった。反応できなかった。

 当たらなかったのは奇跡だ。


 私が魔法を出せるようになる前に死ぬ可能性が浮上したぞ。

 せっかく魔法が使えるようになったっぽいのに、魔法を使わずに死ぬなんて嫌だ!

 女の子はみんな魔法少女に憧れてるんだよー!!

 というか人類皆、魔法に憧れてるんだよー!!

 アラサーになってもな! (やかましい)


 とりあえずスカルドラゴンから距離を取ろう。

 スピードも威力も申し分ない炎の弾ファイヤーボールだったけど、命中精度はそこまで高くないっぽいからね。

 そうじゃなきゃ私は数秒前に灰になってたに違いないからね。


「WOOOOOOOOOO!!!!」


 ひぃいいい。

 咆哮しながら飛んだぞ。

 そして追いかけて来たー!!!

 炎の弾ファイヤーボールが確実に命中する間合いに入られたらおしまいだぞー!!!


 逃げろ逃げろ逃げろ。

 エスケープだ、エスケープー!!!!


「WOOOOO……!!」


 って、もうこんな近くに!?

 やばいやばいやばい。

 口を開いてる。

 口の奥に魔法陣も見える。

 これって……さっきの炎の弾ファイヤーボールが……


 ――ブォゴンッ!!!!


 ぬぁああ!!!

 あ、危なかった。

 やっぱり炎の弾ファイヤーボールだったか!!

 私のを通って行ったよ。


 そう、私は今、先ほどの落とし穴に落ちているのだ。

 ここまで逃げ回ってたのね。逃げるのに必死で落ちるまで気付かなかった。

 だからスカルドラゴンの炎の弾ファイヤーボールが私に命中することなく、頭上を通ったのである。

 まじ奇跡! 運良すぎて逆に怖いかも。

 って、そんなこと言ってる場合じゃない。

 落とし穴に落ちてるこの状況めちゃくちゃやばいだろ!?

 そもそも落とし穴って獲物を捕獲する罠だよね!?

 完全に私、獲物それじゃんかよ!!

 このままだとまずい。

 緊急回避だ。


 ただのジャンプじゃ間に合わない。

 だから回転しながらジャンプだ!


 必殺――回転スピンジャンプッ!!


 どぁぁぁあー!!

 めちゃくちゃ跳ねた!?

 そ、そうだ、私進化したんだった。

 だからこんなに跳べるようになったのか。

 身体能力上がりすぎ!!!

 でもそのおかげで落とし穴の中で丸焦げにならずに済んだ。


 そして跳び過ぎたおかげで、私は今――スカルドラゴンの真上にいる。

 反撃するなら今だろ。

 必殺――尻落とし攻撃ボックスドロップ……と言いたいところだが、私はそこまで馬鹿ではないし、焦ってなどいない。

 このまま尻落とし攻撃ボックスドロップをしてしまえば、逆に私の体が粉々のペシャンコの大惨事になるだろう。

 間違いなくスカルドラゴンの骨は、想像以上に硬いに決まってるからね。

 ジェネラルスケルトンの比じゃないほどに。

 私が進化したからと言って太刀打ちできるとは思えないし、思わない。

 だから私はこの反撃できる絶好の機会でも反撃はしない。


 だが、絶好の機会であることには変わらない。

 何もせずにただただ着地なんてもったいないよね。


 だから私はスカルドラゴンの背中に着地する!

 背中に乗ればスカルドラゴンでもどうすることもできないだろうからね。

 でもきっと暴れるだろう。私を振り落とすために必死に。


 私はそれを耐え抜き、背中にしがみつき続ける。

 そしてその過程でなんとしてでも魔法をぶっ放ち、スカルドラゴンを倒す。


 我ながらナイス作戦なんじゃないか?

 短時間で思い付いたとは思えないほどのナイス作戦だ。

 もしかしたら頭脳まで進化しちゃったんじゃないの??


 って、そんなこと考えてる余裕なんてない!

 早速作戦実行じゃー!!!


 ――スタッ!!


 スカルドラゴンの背中に着地成功っ!!


「WOOOOOOOOOO!!!!」


 うわぁぁぁぁあー!!

 めちゃくちゃ暴れてるー!

 でもこれも予想通りだ。

 絶対に離れるもんか。


 私は目の前にあったスカルドラゴンの背骨に噛み付いた。

 攻撃するために噛み付いたのではない。

 しがみつくためだ。

 さらに他の背骨に舌を巻き付かせた。

 ミミックの口って人間の時とは違って、舌を噛まない構造になってるのよね。 (めちゃ不思議!)


 進化したことによって、顎の力と舌の力も強化されてるはずだ。

 だから簡単には振り落とされてなるものですかー!


「WOOOOOOOOー!!!」


 うわぁー、うわぁー!!

 めちゃくちゃ激しいぞ。

 前世で乗ったジェットコースターとかロデオマシンとかの比じゃない。

 むしろロデオマシンが座席のジェットコースターみたいな感じ。

 振り落とされるのも時間の問題かも。

 早く魔法を……闇属性魔法ってやつを使わなきゃ――


 ――え?

 視界が逆さまに……なっ、どぐァアアッ!!!!


 つ、潰された……。

 まさか自らの背中を地面に叩きつけるだなんて……。

 そうか、スカルドラゴンの防御力なら背中から地面に向かって飛び込んでも余裕なのか。


「ギィイイイイ (グァアアアアア)」


 お、押し潰される。

 さっきはあんなに私を振り払おうとしてたのに、今度はこんなに密着しやがって。

 ツンデレかよ。めんどくさい彼氏かよ。 (彼氏できたことないから知らんけど)


 くっそ。

 このままじゃ体がペシャンコになっちゃう。

 舌を離して脱出に専念するか……いや、ダメだ。

 そんなことしたらスカルドラゴンも体勢を整えるはず。

 そうなったら私を確実に殺せる攻撃を仕掛けるはずだ。

 だからこうやって潰されてるこの状況を一番優しい攻撃だと思った方がいいかもしれん。

 でもそんな優しいイージーな状況でも私にとっては絶体絶命には変わらないけど。


「ギィイッ (ぐはッ)」


 まずい……このままじゃ、本当に潰されて死ぬ。

 早く魔法を……使わないと……。


 今まで見て来た魔法を思い出すんだ。

 ファイアとかサンダーとかブリザドとか……って、前世の魔法のことじゃない!

 こっちの世界の魔法を思い出せ。


 クラーケンの墨を放出する魔法。

 ジェネラルスケルトンの骨の斬撃。

 そしてスカルドラゴンの炎の弾ファイヤーボール

 今思えばドラゴンカップルの炎も魔法によるものだったのかもしれないな。


 それで共通点はなんだ?

 ぱっと思い浮かぶのは、異質な雰囲気がある魔法陣みたいなやつだな。

 魔法を使うにはあの魔法陣みたいなやつの構築が必要なんだろう。

 それじゃどうやって魔法陣を構築するんだ?


 わからない。わからないことだらけだ。

 だって仕方ないじゃないか。

 私は元々人間でこの世界とは別の世界の人間なんだから。

 それにこの世界に転生してまだ3ヶ月とか4ヶ月くらいだし……。

 魔法についてわからなくて当然だよ。


 でもやらなきゃられる。


 わからなくたってやるしかないんだ。

 ミミックの体にはきっと魔法を使える何かが備わってるはずだ。

 だったら感覚でどうにかなるはず。

 どうせいくら考えても答えなんて出ないんだし、脳内の声さんも教えてはくれない。

 だから感覚のままに。

 頭の中で魔法を発動するイメージを。

 今まで見てきた本物の魔法を参考に。


「ギィイッ (がはッ)」


 じ、時間がない。

 集中だ。

 これでダメなら死だと思え。


「キィイイイイ (うぉおおおおお)」


 魔法発動だー!!!!

 死んでたまるかー!!!!


 ――ブヲォンッ!!!

「UUUUUUUUUー!!!」


 黒い光線のようなものがスカルドラゴンを弾き飛ばした。

 な、なんだ今のは!?

 黒い光線みたいなのが出たぞ!?

 明らかに闇って感じの光線だった。

 黒くて禍々まがまがしくて……まさに闇って感じの。

 そうか。私は闇属性魔法とやらを出すことに成功したんだ。

 なんかめちゃくちゃかっこよかったぞ。

 まあ、全く使った実感とかないんだけど……。

 でも助かった。

 潰れて死ぬところだったわ。


「ギイッ、ギイッ (ゲホッ、ゲホッ)」


 スカルドラゴンを退かせたけど……全く効いてないって感じだな。

 どんだけ硬いんだよ。さすが、としか言えないんだが……。


 魔法がダメなら勝ち目なしだ。

 それに魔法を出した実感がないからまた次も出せるかわからないし。

 これはこのまま大人しく退散した方が賢明よね。

 魔法の練習はまた今度だ。

 レベリングの旅はまだ続く。ここで終わらせるわけにはいかないんだから。


 では……出口も塞がっていないということで、退散!

 エスケープ、エスケープ!!!


「WOOOOOOOOOO!!!!」

 ――ブォゴンッ!!!!


 うわぁ!

 炎の弾ファイヤーボールが!

 本当に速いな。また当たらなかったのが奇跡だ。

 いや、違う。この距離なら確実に当てられるはずだ。

 だとしたら今の炎の弾ファイヤーボールって警告か?

 逃げようとした私への警告。

 逃さないぞ、という警告。

 警告という名のだ。


 やっぱりやるしかないのか。

 やる運命なのか。

 どちらかが粒子になって消えるまで……戦わなきゃいけないのか。

 そりゃそうだよね。

 だって私たちはモンスターだから。

 それがモンスターの生きるすべなんだもんね。

 それにあっちは私に仲間を倒されてるんだ。

 簡単に逃すわけにもいかないよね。


 ちくしょー。こんな世界大っ嫌いだ。

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