035:ミミックVSスカルドラゴン〝ココロウゴク〟

 スカルドラゴンに勝つためには魔法だ。

 でもその魔法の発動方法、発動条件がわからない。


 さっきはたまたま魔法を発動できたけど、もう一度ってなるとよくわからないもんだな。

 魔法陣の構築とかどうやってやるんだよ。

 そもそも私の口の中に魔法陣とか構築されてたか?

 あの時は必死だったからそんなこと確認する余裕なんてなかったし、黒色の光線にただただ驚いてたからなぁ。

 でももう一度発動しなきゃ……発動できるようにならなきゃ、確実に負ける。

 スカルドラゴンに殺される。


 魔法を発動できなきゃ、スカルドラゴンに勝つ可能性なんてゼロに等しい。


 まあ、魔法が発動できるようになったからって、勝つ可能性が1とか2とかに上がるだけだけどね。

 それでもゼロよりはマシだ。

 勝つ可能性が1でもあるんならやるべきだ。


 いくぞ!

 まずは魔法陣の構築からだー!!!


「WOOOOOOOOOO!!!!」

 ――ブォゴンッ!!!!


 ひぇえええええー!!!

 物凄い速さで炎の弾ファイヤーボールが飛んできたー!!!

 魔法陣の構築とかしてる余裕ないんですけどー!!!

 と言うか運良く躱せたけど、反応が少しでも遅れたら直撃してたぞ。

 進化して身体能力が向上したおかげでもあるけど……。

 って、ちょっとだけ当たってんじゃんかー!!!

 肩! 肩! いや、ミミックに肩なんてないけど、肩と呼べるような部位が!

 箱の角が燃えてる!!!


 あちあちあち熱いー!!


 そうか。

 進化して変化したのは身体能力だけじゃなかった。

 体もひと回り大きくなったんだ。

 炎の弾ファイヤーボールを躱した時の感覚、進化前の小さい時のままだった。

 だから躱しきれずに当たったんだ。


 くっそ。熱すぎる。

 でも火が広がる前になんとか消化できた。

 被害も損傷も最小だ。

 でもめちゃくちゃ焦げ臭いのはいただけないな。


「WOOOOOOOOOO!!!!」

 ――ブォゴンッ!!!!


 って、2発目吐くの早くないですか!?

 魔法陣の構築上手すぎじゃない!?

 それだけスカルドラゴンが強いモンスターって証拠なんだろうけども、それにしても……


「WOOOOOOOOOO!!!!」

 ――ブォゴンッ!!!!

 ――ブォゴーンッ!!!!

 ――ブォゴゴーンッ!!!!


 連発しすぎでしょー!!!

 ぬぁあああああああー!!!!

 大惨事! 大火山! 天変地異だよー!

 スカルドラゴンって火龍とかじゃないよね!?

 やってること火龍みたいだぞ!?

 もはや火龍以上なんじゃない!? (火龍に遭遇したことないけど)


「キィイイイイー (うおおおおおー)」


 根性と根性と根性で躱せー!!

 考えるんじゃない。感じるんだ。

 炎の弾ファイヤーボールがどこに吐かれるかを感じ取るんだ。

 そうじゃなきゃ躱しきれない。

 躱しき――


「ギィイイイイ (ぬぁああああ)」


 熱い熱い熱い熱い熱いあついあついー!!!!

 痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいー!!!!

 くっそ。直撃した……!

 早く火を消さないと死ぬ!

 回転スピンして消火を!


 ぬぉおおおおおー!!!

 消えろ消えろ消えろ消えろー!!!


 私は回転しながら体に燃え広がる炎を消そうと試みた。

 結果は……消火成功。

 進化したことによって回転数も爆上がりしていたおかげだ。

 そして消火だけのために回転して動き回っていたわけではない。

 他にも作戦があったのだよ。

 スカルドラゴンから逃げるために動き回ってたんだ。

 逃げるって言ってもこの場所からは、戦いからは逃げない。

 戦うって決めたからね。

 それにこの場所の出口はひとつだけ。スカルドラゴンが警戒していないはずがない。

 だからこれは一時的な避難ってこと。

 さいわい……と言っていいのかわからないけど、火の海と化したこの場所は、どうやらスカルドラゴンの視界にもよろしくないみたいだ。

 だから私は体に引火した火を消火できて、一時的な避難もすることができた。


 それにしてもこんなに燃えて、この洞窟は大丈夫なのか?

 いや、洞窟の心配よりも、まずは自分の心配をしなきゃだよね。

 可燃ゴミにならないためにも、早くスカルドラゴンを倒さなきゃ……。


 この場所なら魔法を放てば当たるはずだ。

 さっきの黒色の光線なら……真っ直ぐに放つことができれば、確実に当たる。

 倒せるかどうかは別としてだけど。


 スカルドラゴンに見つかる前に、なんとしてでも魔法陣の構築をマスターしなきゃ。

 炎も広がってきてるし……時間はないぞ。


 さっきは死を悟って拒んだ。そして強く念じて魔法が発動したんだ。

 だからきっと強く念じることが大事だ。

 魔法陣をイメージして……円形の模様とか数字とかいっぱいのやつを。

 それで神秘的な輝きを放っていて、そこから魔法が出るイメージを……。


 って、出ないぞ。

 もっと強く念じないとダメなのか?

 それともさっきみたいに窮地に追い込まれないとダメなのか?

 それかゲームとかアニメみたいにMP的なものがあって、さっきの1発で枯渇したとかか?

 わからない。わからないことばかりだ。

 でもやるしかない。諦めずに挑戦するしかない。

 時間はないけど、時間が許す限り、魔法にだけ集中だ。


 魔法陣……魔法陣。

 今まで見てきた魔法陣が私の口の中、もしくは口の前に出現するようなイメージを……。

 強く、ものすごく、イメージして……。


 って、やっぱり無理!!!

 全く出てこないじゃん。

 こんなに念じてるのに、イメージしてるのに。

 イメージ力だと誰にも負けない自信あるのに。

 毎日寝る前に色々とイメージしてるからね。

 あっ、あれはただの妄想か。

 って、そんなことどうでもいいんだよー!!


 くっそ。

 もうこうなったら難しい魔法陣をイメージするよりも、ぐわぁーって感じに放たれる魔法自体をイメージしよう。


 発動しろ。さっきの黒色の光線!!!


 ――ブヲォンッ!!!


 で、出た!?


 私の口の中から吐かれるように黒色の光線が放出された。

 魔法陣もしっかりと確認することができた。

 目も口の中にあるからね。

 そして私が放った黒色の光線が、スカルドラゴンに命中したのもしっかりと確認。


「UUUUUUUUUー!!!」


 無傷だ。

 無傷だが、痛がっている叫び声のような声は聞こえる。

 ダメージを受けてくれているのならいいのだけれど……。


 でもどうして魔法が発動してくれたんだ?

 やけくそで魔法をイメージしただけなのに……って、私の居場所バレた!?

 そりゃそうだよね。黒色の光線が放たれた場所を辿れば、私の居場所に辿り着くよね。


「WOOOOOOOOOO!!!!」

 ――ブォゴンッ!!!!

 ――ブォゴーンッ!!!!

 ――ブォゴゴーンッ!!!!


 ぎゃぁああああああー!!!

 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬー!!!

 炎の弾ファイヤーボール吐きすぎー!!

 躱せ躱せ躱せー!!!

 命懸けで躱せー!!!

 死んでも躱せー!!!


 はぁはぁ……って、今度は突進攻撃!?


「WOOOOOOOOOO!!!!」


 そりゃそうか。

 最強の防御力を誇るスカルドラゴンなら、その防御力が攻撃力にも繋がる。

 あれだ、あれ。攻撃は最大の防御の逆バージョンだ。

 防御力は最大の攻撃ってね。

 って、分析してる場合じゃなーい!!!


「WOOOOOOOOOO!!!!」


 ひぃいいい!!

 あんな巨体に当たったら一溜ひとたまりもないぞ。

 イメージだとトラックにねられ……いや、新幹線か。

 とにかくめちゃくちゃやばいってことー!!!


 ええーい!!

 こうなったら突進を回避する前に魔法を1発ぶっ放すか!

 魔法陣のイメージじゃなくて、魔法そのものをイメージする感じで……


 喰らえ!!

 必殺――闇のダークネス光線レーザービームッ!!!

 ――ブヲォンッ!!!


 私は突進してくるスカルドラゴンに向かって闇属性魔法を放った。

 とっさに付けた技名だけど、かっこいいんじゃな〜い? (自惚れしてる場合じゃない)


 闇のダークネス光線レーザービームはスカルドラゴンの顔面に直撃するも、やはり無傷のように見えた。

 ただ直撃の際、痛がる素振りをしていることからノーダメージではないことがわかる。


「キィーイイッ!! (とーうッ!!)」


 スカルドラゴンの突進攻撃を躱した。

 炎の弾ファイヤーボールほどの速さじゃないけど、魔法を放った影響で躱すのがギリギリになった。 (危なかったー)


 もう一度タイミングを見て魔法を発動しよう。

 なんとなくコツを掴んだぞ。 (相手がこつなだけに)


 魔法陣をイメージするのではなく魔法自体をイメージすればいいんだ。

 それだけで簡単に発動することができる。

 魔法陣と魔法の何が違うんだって思うかもしれないけど、魔法を発動できる原理がなんとなくわかったおかげで、全然違うことに気付いたよ。

 例えるなら自転車だね。


 自転車だけをイメージしながら自転車に乗る。

 それだけじゃ進めるわけがない。ペダルの漕ぎ方をイメージしていないんだから。

 これが魔法陣だけをイメージして魔法を放とうとしていた私だ。


 次に自転車のペダルを漕いで進んでるイメージをしながら、実際に自転車のペダルを漕いで進んでみる。

 するとあら不思議、自転車が進むではありませんか。

 漕ぎ方のイメージがあれば、自ずと漕げるようになって自転車が進むってこと。

 これが魔法自体をイメージして、魔法を発動する感じに似てると私は思う。


 なぜ自転車のペダルを漕ぐと進めるのかとか、そういうのを考えながらペダルを漕がないのと同じで、なぜ魔法が発動するのか、魔法陣はどうなっているのか、とかを考える必要はないんだ。


 そして一度自転車に乗れるようになれば、乗り方を忘れないように、魔法も一度使えば使い方を忘れないようになっている感じがする。


 だから私が魔法を放つために必要なのは、魔法のイメージだけ。

 強くイメージして実際に念じるだけだ。


 こんな風にね。

 必殺――闇のダークネス光線レーザービームッ!!!

 ――ブヲォンッ!!!


「WOOOOOOOOOO!!!!」

 ――ブォゴンッ!!!!


 なッ!?

 魔法が相殺した!

 いや、私のだけが消滅した!

 そりゃそうか。威力もスピードもあっちの方が上。

 魔法もあっちの方が格上だもんね。


 だけど、躱す隙はできた。

 さっきよりは余裕で躱せるぞ!!


 躱したついでにもう一回!


 必殺――闇のダークネス光線レーザービームッ!!!

 ――ブヲォンッ!!!


「WOOOOOOOOOO!!!!」

 ――ブォゴンッ!!!!


 くっそ。また消滅させられた。

 でも、なんでだろうか。

 押されているのに、負けているのに……魔法と魔法のぶつかり合いが、綺麗だと思ってしまったのは。

 見惚れてしまったら死んでしまうのに、見惚れてしまいそうになっていたのはなぜだろうか。

 花火とか絶景とか、そういうので心が動きそうになったことは一度もなかった。

 でも魔法は違かった。

 激しくぶつかり合い、火花が散り、衝撃が心臓にまで伝わり、私の魔法がやつの魔法に全て呑み込まれ、消滅して……そのひとつひとつが綺麗だと、美しいと思ってしまった。


 やっぱり間違ってなかった。言った通りだった。

 アラサーでも魔法には憧れるんだって。

 憧れが今、目の前にあるんだ。この瞳に映ったんだ。

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