028:わな、罠、WANA!?

 ――ガリガリボリガリッ!!!!


 《個体名〝ミミックちゃん〟はレベル15に上がった》


 うっしゃー!!!

 レベルが上がったぞー!!!


「カパカパカパカパカパッ!!!」


 長かった。本当に長かった。

 14レベルになってから何日が経ったのだろうか。

 どれだけのモンスターを倒しただろうか。

 どれだけのモンスターの交尾を見てしまっただろうか。

 どれだけの魔石と宝石を食らっただろうか。

 ああー、本当に長かった。

 そしてもう一つ長いものがあるぞ。

 それは……この層どこまで続くのー!?

 めちゃくちゃ長すぎやしないか!?


 どんなにどんなに進んでも道、道、道〜!!!

 上り坂なんて見つかりやしないよ。

 いや、待てよ。緩やかな傾斜で上がってるのかもしれない。

 だとしたら相当進まないと出口になんてたどり着かないぞ?

 クラーケンの縄張りで見たあの天井の高さ……かなり高かったじゃんか。

 こんなんじゃ出口までに何年、何十年もかかっちゃうよ。


 何十年もイケメン冒険者に会えないだなんて、嫌だ嫌だ嫌だー!!!

 私はサイコロのように転がりながら駄々をねた。


 もう誰でもいいから人間に会いたい。

 このままだと人間がいない世界なんじゃないかって思っちゃうからね。

 というか思い始めて来ちゃってますからね!

 キングラットのコレクションの中に剣や防具、それに人間が使う大人のおもちゃがあったから、人間がいるってのはわかってるんだけど。

 でもその人間がすでに滅んでいたとしたら……だから一度も遭遇することがないのだとしたら……。


 やめやめやめー。こんな考えはやめだー!

 ぶんぶんっと体を左右に振ってネガティブ思考を払いのける。


 そもそも人間は賢い生き物なんだ。

 どんな世界であっても人間が滅んでるはずがない。


 大丈夫。

 きっと会える。

 会いに来てくれる。


 ポジティブ思考で行こう!

 うん、ポジティブ思考だ!


 こんな薄暗い洞窟で心まで暗くなったら、たまったもんじゃないからね〜。

 闇落ちして世界を滅ぼしかねないよ〜。なんちゃって。


「カパカパカパカパカパッ!!」


 ――ダダダダッ。


 ん?

 今、足音のようなものが聞こえたような。

 ちょうど私のバカうるさい笑い声で聞こえなかった。

 いや、バカうるさいとはなんだ!?

 って、ノリツッコミしてる場合じゃない。


 あの足音……人間っぽい感じがした。

 噂をすればなんとやら、ってやつだ!

 こうしちゃいられない。追いかけるぞっ!

 イケメン冒険者じゃなくても運命の相手の可能性が!

 パーティーから逸れたイケメン雑用係とかもありだなぁ。

 ぐへへへ。

 もうイケメンなら誰でもOK〜!!!


 私はアイススケートのように滑り、ついでに興奮と期待でよだれを垂らしながら、足音がした方へと向かった。


 ――ダダダダッ。


 絶対にそうだ。人間だ!

 一瞬だけどシルエットがそうだった。影も人間が走ってるような感じだった。

 これは期待大だ。じゅるり……。


 人間さ〜ん、逃げないで〜。

 私はとっても優しくて可愛いミミックちゃんよぉ〜。

 あなたを食べたりなんかしないわ〜。

 ちょっと口の中に入れて転がすだけよ〜。


 ――ダダダダッ。


 くっ、足が速い人間さんだな。

 それにそんなに逃げなくてもいいのに。

 もしかして恥ずかしがり屋さんなのかな?

 それはそれでとてもいい。

 頬を朱色に染めてる姿とかめちゃくちゃ可愛いっ!

 それで、好きだよって一言がなかなか言えなくて〜、くぅううう、なんてたまらないシチュエーションなんだ。


 そんなことを考えていたら、突然浮遊感が私を襲った。


「――ギィイイイ (うぎゃぁあああ)」


 な、なんだ!?

 落ちた?

 落とし穴か?

 なんでこんなところに落とし穴が……って、もしかしてこれってモンスターの罠的なやつ!?

 罠の象徴であるミミックが落とし穴に引っかかっただと!?

 やばいやばいやばい。


 誰かー!!

 助けてー!!!

 人間さーん!!!

 助けてくださーい!!


 ――ダダダダッ。


 足音が近付いて来た。

 私の思いが伝わったんだ。


 ――ダダダダダダッ。

 ――ダダッダダダッ。

 ――ダッダダダッダ。


 あれ?

 足音がいっぱいだ。

 一人じゃなかったのか。

 そうか、逸れたパーティーと再会したんだ。

 だから足音が多いのか。


 おっ、やっぱりそうだ。

 人影がいっぱいだ。

 良かった。助かった。

 こういう時って助け合いが大事よね。

 どの世界も人間って思いやりがあっていいよな。


「KARAKARAKARAKARA」


 は……?

 頭が真っ白になった。

 覗き込んでいる人物が衝撃的すぎて、情報の処理が追いつかなかった。


「「「WOOOOOOOOOO!!!!」」」


 ぎやぁあああああー!!!!

 なんで、なんでよぉおおおー!!

 なんでガイコツがいるのよおおおおー!!


 私が引っかかった落とし穴を覗き込んでいるのはガイコツの魔物……スケルトンというやつだ。

 それも3体……いや、見える範囲だけで5、6体はいるぞ?

 さっきの雄叫びみたいな声からしてもっといるはずだ。

 ということは私はスケルトンの罠に引っ掛かったってこと?

 それ以前に私は人間じゃなくてスケルトンを追いかけてたってこと?


 さ、最悪だ……。

 早くここから抜け出さないと。

 このくらいの高さならジャンプだけでも余裕で抜け出せるんだけど……なぜか体が動かない。

 地面になんか仕掛けが?


「ギィイイイ!! (ひぃぃいい!!)」


 思わず声を出してしまった。

 私が動けない理由が、それだけ怖かったんだもん。

 私が動けない理由……それは……。


「WANAWANAWANA!!!」


 地面から手を出したスケルトンが私を掴んでるー!!!

 しかもしっかり取っ手の部分を掴んでるー! (私の弱点だよ)

 怖い! 気持ち悪い! 怖い! 気持ち悪いー!

 というか、なんで地面に埋まってるのよ!

 それに何この力は!?

 骨だけの魔物とは思えないほどの力なんだけど!

 脱出は……不可能か!?

 くっそ。やばいやばいやばいやばい。


「WANAWANAWANA!!!!」


 さっきから気になってるんだけど、何その叫び声!

 不気味なんだけどー!

 ひぃいいいいいい。


「FOOOOOOO!!!」


 上のスケルトンたちも盛り上がってるー!

 この盛り上がりようは異常すぎるぞ。

 きっと私の体を使ってあんなことやこんなことまでしようとしてるんだわ。

 くっそ。可愛いすぎるのが仇となったか。

 早く脱出しないと、スケルトンたちに私の体が弄ばれてしまう!!

 集団で襲ってくるなんて、罠を仕掛けてるだなんて、卑怯ひきょう卑劣ひれつだぞー!


「キィィイイイイイ (ぬぐぐぐぐぐぐぐ)」


 ダメだ。やっぱりびくともしない。

 くっそ、こうなったら……


 必殺――噛み付き攻撃ボックスファングッ!!!


 地面ごと噛み付いてやる。


「UUUUUUUU!!」


 な、なんて硬さなの!?

 それにこの体勢は噛み付きづらい。

 でも効いてる感じがする。

 やっぱり私の牙には貫通能力があるのね。

 どんなに強固な骨でも私の貫通する牙の前では無力!

 さぁ、ひれ伏すがいい!!

 そしてその手を離すがいい!!!


「UUUUUUUUUU!!!!!」


 よしっ。

 怯んだ今がチャンスだ!


 必殺――回転攻撃スピンアタックッ!!!


 うらぁあああああああー!!!


 やったー!

 地面のやつの手を振り解いたぞっ。

 このままジャンプして脱出だ。


「キィイイイイー!! (脱出ー!!)」


 って!?

 えぇえええ!!!!

 何この群は!?


 宙に舞いながら私が見たのはスケルトンの群れだ。

 その数100体は余裕で超えてる。

 ゴブリンの時も100体くらいの群れだったけど、細身の体のスケルトンの方が密になってるせいか、迫力が全然違う。


 あははは……このまま空中移動して逃げたいけど、私に飛行能力とかないし、この数を掻い潜って逃げるのは厳しそうだ。

 はぁ……戦うしかないか。

 あぁ……不安だ。落とし穴にいたやつの力を考えたら不安でしかない。

 いや、でも待てよ。

 今までの経験上、群れで行動するモンスターは比較的弱い。

 なら、きっと大丈夫だ。


 やってやる!!

 私のことを騙した挙げ句、罠にまではめめやがって。

 しかも私の体でもてあそぼうとしやがったな! (被害妄想)

 私を怒らせたこと後悔するがいい。

 スケルトンめ!!

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