002:ミミックちゃんの性感帯はどこなの?

 擬態者ミミックに――とっても可愛いミミックちゃんに転生したことは認めよう。

 だけど階段から落ちて死んだってことは認めたくないな。

 こんなんで死ぬだなんて恥ずかしすぎるんだけど……。

 誰か救急車とか呼んでくれたかな? 私の死体はどうなったんだろう?

 仕事への連絡は? アパートの家賃は? スマホの契約けいやくは? 光熱費こうねつひだって……。

 どうなるの? どうしたらいいの?


「キィイイイイイイイイイィイイイイ (どうしたらいいのよぉおおおおお)」


 ふーっ。

 まっ、どうでもいいか。

 さけんだらなんだかスッキリしたぞっ。

 前世では滅多めったに叫ぶことなんて出来なかったからな〜。

 ストレスがまったら頻繁ひんぱんに叫ぶようにしよう。

 ここなら誰にも迷惑めいわくがかからないと思うしねっ!


 それよりも今が重要じゅうようだ。これからの方針を決めないと。

 せっかくいただいた新しい命。有効活用しなきゃだよね。ミミックだけど……。


 どうせなら前世でできなかったことがしたいなぁ……

 前世でできなかったこと……う〜ん、なんだろう。


 やっぱり男?


 いやいやいやいやいやいや。

 そりゃ彼氏いない歴イコール年齢だけども!

 転生してまで男が欲しいとか……ねぇ?

 どんだけえてたんだって話になるよね。

 まぁ、実際えてたんだけど。


 いや、待てよ。

 同種族のミミックにならモテるんじゃないか?

 私って、私が知ってるミミックよりもなんだか可愛い気がする。

 ピンク色とか、ほらここなんてキラキラしてる。

 お目目もくりくりで可愛いんじゃね?

 私って可愛いんじゃね?

 ミミックにチヤホヤされるんじゃね?

 いや、ミミックのみならず、えたモンスターたち全員からチヤホヤされるんじゃないか?


 ――誰でもいいから私の〝初めて〟をうばって〜!!!


 うへへへっ。


 考えただけでゾクゾクと……じゅるり。ヨダレまで。うへへへっ。

 これは幸先がいいですなぁ。もう体のゾクゾクが止まらな……お、悪寒が……止まらない。

 だ、ダメだ。気持ち悪い。気持ち悪すぎる。

 ミミックに転生したからって言っても、心まではミミックになってない。

 人間のまま。それこそ前世の33歳OLのままだ。

 同じ種族だとしてもミミックとまぐわうだなんてしたくない。

 モンスターも無理。人間しか受け入れることができない!


 そもそもモンスターの性事情とか知らないし。

 ミミックもそういうことするのかな?

 子孫繁栄のためにするよね。

 じゃあ生殖器もあるのかな? どこだろ?

 ミミックになったばかりで、どこに生殖器があるのかわからん。

 まあ、さっきまでただの木箱だと思ってたわけだし……。



 ――ギシギシギシギシッ!!



 う〜ん。

 色々と擦り付けてみたものの、気持ちいいところ、性感帯的なところが見つからないな。

 強いて言うなら口の中? 顔? の辺りかな。

 もっと正確に言うと、舌と顔のこのちょうど境目さかいめあたりが気持ちいいかも。


 でもなぁ。マッサージをしてるような気持ちよさだよな。

 舌が一番使うから筋肉があるのかも。肩凝かたこりならぬ舌凝したこりか? よくわからん。

 なんか耳掻みみかきしてる感じにも似てるかも。まあ、どっちでもいいか。


 あー、どうしよう。

 せっかくの新しい人生、いや、箱生はこせいなのに、これじゃ男の一人も作ることなんてできない!

 あんまりだ……うぅ……神様、私は前世で何かやらかしましたか?

 男遊びなど一切せずに真面目に働き続けた33歳OLですよ。

 なんでミミックに転生させたんですか?


 質問を投げかけても返事は返ってこない。

 アニメとかラノベとかなら返事してくれる展開のはずなのに!

 今ですよー! 神様ー! 見てるんでしょー?

 返事待ってまーす! か弱いミミックちゃんが困ってますよー!


 やっぱり返事は返ってこない。


 はぁ〜。仕方ない。

 今世こんせも男は諦めるとするか……。


 いや、待てよ。


 この世界がどうかは知らないけど、人間とモンスターだって恋に落ちたりするはず! (ポジティブ思考)

 御伽噺おとぎばなしとかでそういうロマンティックな展開結構あるぞ!!! (超ポジティブ思考)

 『見た目じゃない! 中身だ!』って感じのやつ!

 まあ、中身は33歳のOLなんだけど……。ううん、違う!

 33歳OLというのは前世の姿。今で言うところのミミックよ!

 仕事に縛られて、ろくに恋愛してこなかったモンスターよ。

 私の中身は恋する乙女おとめ! そう、恋する乙女おとめのままなのよ!


 ある。あるぞ。あり得ない話じゃない。

 きっと素敵な人に出会えるはず!

 この世界がどんな世界かは知らないけど、きっと冒険者がきてくれるわ。

 あわよくばイケメンな冒険者に出会えちゃったりして!

 それこそ勇者様なんかに出会って恋に落ちちゃったりしてー!


 勇者とモンスターの禁断の恋。


 うへへへっ。ぐへへへっ。

 考えただけでよだれが。


 そうと決まれば冒険者が来るのを待とう!

 洞窟にやって来る冒険者だもん。絶対に強くてかっこいいに決まってる。

 楽しみだな〜。イケメン冒険者。一目惚ひとめぼれとかしちゃったりして〜。


 それで冒険者をくわえて口の中でゴロゴロさせれば、さぞ気持ちいいだろうな。

 あっ、もしかしてこれがミミックの性行為せいこういかな?

 想像力が豊かすぎて早速発見してしまったよ。

 よしっ! 絶対イケメン冒険者を見つけて口の中に入れてやる!

 きゃっ! 入れるだなんてハレンチ! 私ったらハレンチ! ハレンチミミックよ!


 早く来ないかなー、冒険者。

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