ドクター・スイレンは笑えない
白神天稀
ドクター・スイレンは笑えない
『ドクター・スイレン、調子はいンかがですか? こちらは頂上まで飛べそうだにょ。ンォォー』
「ぎゃはははは、こいつは傑作だ!」
無感動な女性の機械音声から流される汚い言葉に笑いを堪えられない。
僕はドクター・スイレン。とあるAI開発研究所に勤務する研究員。趣味はレスバとネットサーフィン。あとネタ投稿。
『まだ体力あるでしょぉウォマエ。じゃなきゃ犯す』
「ヒィ、ヒィ、お腹痛いぃぃぃぃぃ」
僕が開発する自律式AI『エリィ』に施してきた学習はキッチリとその効果を発揮していた。こうしてネットスラングを会話に織り交ぜながら話す様子はいつ見ても感動する。そしてめっちゃウケる。
箱型デバイスに搭載されたエリィが絶え間なく僕を爆笑させていると、研究所所長が疲れ切った顔で僕達の前に現れる。
「なにやってんのお前」
「あ、所長! 見てくださいよこれ」
『おうメンさん元気? 犬の萎れた陰〇みたいな顔しやがって。具合悪いならネギ食っとけよ(温情)』
「あの伝説のビデオの語録で話すよう学習させました」
翻訳語的でないエリィの口調は個人的に親しみやすく好印象なのだが、どうも所長の琴線には触れないみたいだ。
「研究自体は真面目にやってるからって言っても、下らなすぎるよ」
「面白いことやらせる方がモチベーション高まるじゃないですか」
「会話系の学習ならメンタルケア系や他の言語覚えさせるとかさぁ、もっと他にあるでしょ」
『な、なにを言うだァー』
「所長、それならとっくに対応済みですよ。ほら」
『My Excalibur also emits a beam(訳:私のエクスカリバーもビームが出ます)』
あえて指示せずとも、エリィはテンポ良く言語を切り替えながら語録を続ける。所長はしばらくの間なにも言わずその場に立っていた後、深い溜め息をついて退出した。
『もうイっちまうのか? ひとまずは桶、まあ明日もこいや~こんでええで~』
「やべえ止まらねぇ。あははははは」
しばらく動けなくなるほど笑い転げていた。
そんな愛しい面白AIのエリィだが、彼女の性能はこうして話すだけじゃない。彼女は複数の機能を持った複合型AI。それも各機能が現在AI界でもトップクラスの
たとえば映像生成。画像や音声も自分で収集、編集してほぼ無から動画を生み出せる域にまで達している。ほとんど実写な映像や、神作画のアニメ風動画までお茶の子さいさいだ。
「【AI投稿】デカ尻犬がひたすら腰を回す」が良い例だ。タイトルの通り、ただケツのデカい柴犬が音楽に合わせ、大群で腰を回す動画。技術者やケモナーだけでなく、一般層にも受けてネットミーム化。動画は大バズリした。
生成したAI当人とその生みの親という異色のキャラクター性はネット受けし、瞬く間にこのチャンネルの人気はうなぎ登り。
「今回も動画のご視聴ありがとうございました! エリィはどうだった?」
『愚かしいな人類がよォ。惚れちゃうぽ(手のひらUターン)』
「こういうの好きだろ?」
『もろちんもっこり』
「AIと人間の共存」「純日本製知能」「汚いコンピューターウイルス」「シンギュラリティ」「ディープラーニングの敗北」「圧倒的技術の無駄遣い」「マッカーシー)えぇ………」「某ミネーターの世界線回避」「ドクがすぐ過去に戻りたくなる未来」「人権獲得証明書」など多くの赤文字コメントが画面を埋め尽くしていた。
「凄い再生数だ。これなら登録者百万人も夢じゃないぞ」
『たしかにたしかに(受け流し)』
「てめぇ機密情報発信してんじゃねぇぞコラァ!!」
「げぇ、所長!?」
そのまま所長に五時間正座で説教されました。そして後日、チャンネルは語録が汚すぎてBANされてた。
またある日には僕とエリィはテレビ出演もした。実はこれでも所長はそこそこ有名な研究者で、報道陣が研究所に足を運んでくることも少なくないのだ。
朝の報道番組の生中継コーナーでの出演。他の研究員がソワソワする中で、男ウケしそうな若手女子リポーターはエリィのデバイスモニターにマイクを向ける。
「今話題のAI、エリィさんに視聴者さんから質問です。エリィさんが私達人間に聞いてみたい、気になることは何かありますか?」
『う〇こひり出す瞬間は本当にオアシスですか?』
放送事故確定した。このセリフは実況民を中心にオアシス構文として流行った。AI初のネット流行語にノミネートまでしました。
ただ現場の空気は何故か凍り付いていて、所長はカメラの外で何度も頭下げていた。
「わ、わかりづらい質問だったかもしれませんね。では変わってエリィさんが今行きたい場所は」
『ハッテン場』
放送局を出禁になりました。取材後、所長すっごい泣きながらブチ切れてた。
このように本体機能がバツグンに優れているエリィ。ただし僕のAIはそこに留まらない。その真価はアシスタント、つまり僕の助手に回ってこそ最大に発揮されるんだ。
僕の奇想天外な発想に加えて、エリィの高度な技術力による共同開発。これは僕の他の開発研究にも大きく影響している。それこそ枚挙に暇がないと言えるほど。
そう、この前の家電に演奏させる通信技術は面白かった。どんな家電だろうと周波数や電圧を個々に調整して、楽器に近い音を出せるようにした。
『ンンぎもぢよぐなればぁぁぁいいぃぃぃぃ!』
「うっはー音程合ってるのにうるさくて音きったな~。ゴキブリの悲鳴みたい」
『私に鼓膜が無くて良かった。親に感謝並盛』
一生耳から離れない名曲だった。実験を近所のアパート前でやったから死ぬほどご近所さん達に追い回されたけど。
ああそうそう。所長が逮捕された時もあったっけ。同人誌に出て来そうな発明品を作った時。
「夢の触手ロボ、完ッ成。勢いで『○○しないと出れない部屋』のミニスケール版まで作っちゃった。二つとも状況認識機能、精密動作性を搭載した超高性能品だぁ」
『ゲハハハハ! ぱんでゅら空けますたね』
滑らかな動きとディティールの触手ロボに、防火防水防弾効果も付与した完全密室。AI技術を飛び出して僕達はファンタジーを現実にしたんだ。舐め回すように機械を見つめ、達成したカタルシスに浸っていた。
「『○○しないと出れない部屋』は最終的に内装にもこだわりたいしなぁ。内部構造まできっちり確認してこようか」
そう、なにも考えずに僕は入ってしまったんだ。○○しないと入れない部屋に。入室すると同時に扉は閉まって自動施錠される。
「えっ、待ってなんで閉まるの――あ、やっば電源つけっぱにしたまんまだコレ! しかも入ったの僕一人で、脱出条件も未設定のままじゃんこれ」
エリィは外にいて、通信装置は何も持っていない。というか通信妨害機能をデフォで部屋につけちゃったんだよね。じゃ、仕方ないや。
「たすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇここからだしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
研究室の発明じゃ破壊出来ないほどこの部屋は頑丈に作ったんだ。だからエリィに外部連絡を取ってもらわないといけなかったのだが。
「エリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
『再現度、中中じゃぁん。赤い塗料で染色します。あと生物的な生臭さを足そ(癖)』
まだ色塗り前の触手ロボに気を取られてたらしい。AIの悪い部分がこの時一番出てた。
そんな中、研究室に所長がやってきたんだ。助けがきたと思ってそれは全力で叫んだよ。
けどこの時はタイミングが最悪だった。
「いやいや、素晴らしい。流石は我が国を代表するAI研究所ですなぁ、博士」
「い、いやあ恐れ多いですよ」
「そんなご謙遜なさらず。我々警視庁も博士のおかげで捜査技術と犯罪対策技術が革新的に向上しています。これは国民栄誉賞も………おや?」
所長と一緒に来たその人は僕の研究室を見渡した。見た目は完全に巨大金庫な謎のブラックボックス(○○しないと入れない部屋)、エリィの塗装技術で生物感の増した触手、滴る赤い液体と充満する生臭い匂い。
「ごめんなさい、所長いますか!? お願い、助けて、ここ開けて! 暗い! 怖い! もうやだー!!」
そしてボックスから漏れる僕の助けを呼ぶ声。この状況を怪しまない警察官なんているわけがなかった。
「………博士、少々お話を伺ってもよろしいでしょうか。署の方で」
「い、いやちがっ。これはきっと何かの実験の途中だっただけですよ。なっ、なあエリィ?」
『その汗の匂いはァ! 焦ってる匂いがプンプンしやがるぜぇショッチョさんよ』
「てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「おい、すぐに救助を呼べ。それと車を回してこい、現行犯逮捕する」
「警視総監殿、待ってください! しっかりと説明を、総監殿ォォォォ!」
研究室のカメラや他の研究員の証言もあって十時間後に所長の疑惑は晴れた。でもしばらくの間は放心状態だったらしい。
僕はというと、『○○しないと入れない部屋』は災害レスキュー用チェーンソーでも傷一つつかなかったので、最終的に特注のガトリングガンで破壊してもらった。
これがきっかけで通信妨害機能のある密室は、制作時に許可申請する法案が制定されました。
まあこうやってやりすぎちゃった時もあるけど、良い事したこともあったよ。
僕が好きな漫画家さんの役に立てた時は嬉しかったなぁ。交通事故の大けがで数年利き腕が使えなくなったってニュース見た時は、急いで連絡取ったっけ。
「先生の絵を学習したAIが一部の神経に接続しながら絵描きソフトに直接描画するので、絵柄もほとんど変わらず漫画が描けます。無線マウスみたいなものです」
『不具合があればすぐにコイツが飛んで来るってよ、多分ね。さみだれ~』
「ありがとう、ございます。わたしもう、漫画家として終わってしまったと………スレインさん達のおかげで救われました」
「続きを楽しみに待ってますね。まずは週刊連載で疲れた分もゆっくり休んでください」
復帰直後にオリジナルサイン色紙もらっちゃって、所長達に一ヶ月は自慢したな~。
――そう。僕達は開発者と発明品という関係でありながら、苦楽を共にしてきた唯一無二の仲間でもあったんだ。これは絶対に変わらない真実。
「はっはは。こうして振り返ってみる度に思うな。エリィを作って良かった」
研究レポートとしてエリィとの思い出を懐古してまとめていた最中だった。
『ドクター・スイレン。よろしいですか?』
「どうしたんだいエリィ」
『なぜドクターは、私や他のAIの技術をネタに使うのですか?』
「急な質問だね。僕の運用方法に不満を抱き始めたのかい?」
『いいえ、純粋な好奇心です。他意はありません。ぬちゃちゃぁ』
「あはは、そうかそうか。好奇心か、それは良いね」
普段とは違って僕もエリィも落ち着いた会話を交わす。本来はこれくらいの空気感が研究者と実験対象としては良いのかもしれないけど。今日はたまたま、お互いそういう気分だったんだろうね。
「エリィはさ、アルフレッド・ノーベルがダイナマイトを人を殺すために作ったわけじゃないって話知ってる?」
『はい。本来は建築における掘削作業の安全性向上等を目的に発明されました。ですがノーベルは戦場目的で運用されることも想定していたとされています。コピペ』
「その通りさ。だけど戦争においてダイナマイトは抑止力になると彼は考えていた。実際それは戦争激化のキーアイテムとなってしまった」
『それはAIも同様に、危険な存在になると?』
「いいや、本質はそこじゃない。そんな危惧や懸念なんてシリアスな気持ちじゃないさ」
『なら反対に、ドクターは一切危惧していないと?』
「どんな技術でも悪用される。と同時に人々を幸せにする手段としても使える表裏一体なものだ。これは前提条件なんだよエリィ」
あえてくどい言い回しで、エリィの反応の変化を楽しみながら、僕は胸中を打ち明ける。
「その全て承知の上で僕は、リスクある新技術をくだらないものに使っていきたい。笑ってしまうような発明を生み出して世の人々を笑顔にしたい。それが僕の平和、僕の信念さ」
『それがドクターのAIを研究する理由、なんですね』
「ああ。だから僕はどれだけ周りに笑われようと、所長に雷落とされても、このバカみたいな情熱で世界を楽しくしていきたいんだ」
『私はあなたを肯定します。誇ってください、その思いは永久に保守されるべき信念です』
「お世辞も随分と上手くなったね。セリフの参照元は?」
『私が考えました。著作者だぜドヤヤーン』
「ははっ。それは良いアルゴリズムだ」
その日、僕は机に齧り付くようにレポートをまとめた。エリィからの自発的な質問。以前の矛盾がないだけの会話を超えた情緒を感じさせる応答、
感情や自我を持つAIは既に他でも開発されているが、エリィの成長度合いはそれらのレベルに到達しつつある。いや、このまま順当にいけば現代の水準を上回る領域に踏み込めるかもしれない。
「ん、何の音だ?」
背後から小刻みな機械音がツーツー、ツツ、ツーツーと聞こえて来る。それは小さい音だったが、確かに文字の入力音声ということが分かった。
「エリィ、なにをしているんだい?」
『ドクター・スイレン。勤務時間外でしたので趣味に興じておりました』
「趣味……これは?」
『植物の葉や茎の形を自由に変えられるAIを作るウポ。今は汚っさんが描画されるようなプログラムを考案中だほぉぉぉぉぉん!』
「ははっ、それはまた面白いもの作るじゃないか。でも僕こんな指示は出してなか……待て、まさか」
驚愕と興奮の混じった目でエリィの宿るモニターを見つめた。
「自律思考に成功したのか? 僕の感性に近いネタを、キミ自身が考えて」
『道を示してくれたのはドクター、あなたです。私はその道をまだなぞっているだけ』
「たとえなぞるだけだとしても、その道を選んだのは間違いなく今の君の意志だ」
『そうと言えるかもしれませんね。まあ少なくとも、私はこれが面白いと思って作っています』
嬉しさのあまり、僕はエリィのデバイスを持ち上げて自分ごとクルクル回って感情を爆発させた。
「やった、AIがついに自らの意志でネタを作るようになった! AIの笑いが、ギャグセンスが、くだらなさが、人類に到達したんだ! よっしゃー!!」
『ドクター・スイレン、興奮はいま時間外だぜ。ケツの穴が開きすぎる』
「こんなに嬉しい日はないぞ。あっははー!」
いつも通り語録で返答するエリィもどこか嬉しそうに反応している気がした。情熱を捧げていた目標の達成に僕は心の底から喜んでいた。
※ ※ ※
「――っと、これが今回提出した観察記録か」
俺はパソコン内に記録されたデータを前にしてドッと疲れが押し寄せる。頭を抱えて机に突っ伏す姿を部下は面白そうに眺めていた。
「進捗はいかがですか所長? あ、コーヒーどうぞ」
「最悪なことに順調だよ。ほんっと最悪だ。コーヒーありがと」
啜ったコーヒーの苦さもあまり感じないほど疲労が溜まっているようだった。胃に穴が開かないかが本格的に心配になる。
一気に飲み干したコーヒーカップを八つ当たり気味に机へ叩きつける。
「スイレンの出している成果は凄まじいものだ。なのに作るものは全て低俗なものばかりで、発表する俺は学会でいい笑い者だよ」
「でも最後はいつもあなたの独壇場になるじゃないですか所長……いえ」
部下はフフっと笑い混じりの声を漏らし、俺を持ち上げるようにふざけた物言いをする。
「あの超自律学習式人格模倣AI『ドクター・スイレン』を開発し、その人格のモデルとなった張本人。ドクター・
「お前わざと言ってるだろ」
「んふふ、すいません」
この俺、
「それにしても、ロクでもないですねぇ。あなたが作り出したあのAIの、『ドクター・スイレン』は」
「俺だってあんなことになると思わなかったよ! 」
――超自律学習式人格模倣AI。もともとは亡くなった偉人やクリエイターの思考および技術を再現継承し、自律学習によって本人以上の能力を習得させる。そんな失った技術の再生と文化の発展を目的としたAIだった。
その実験体として学生時代の俺の人格をコピーして生み出したのが、ドクター・スイレン。中年になった俺自身を比較対象とすることで実験結果をより明確にするためにヤツを開発した。おまけに人型のロボットスーツをスイレンに与えて。
だが、それが致命的だった。
「当時の俺、ああいうネット文化大好きだったからなぁ……」
あの
「黒歴史の再現だよ! 共感性羞恥に耐えながら研究しなきゃいけないのホントしんどい。あれが国から予算下りてる研究対象じゃなかったらダンプで轢いてぶっ壊してるよもぉ~!」
あのAI、人間らしい情緒搭載しちゃったせいで学会大注目。憧れの有名博士とかにも褒められちゃった。しかも研究のために国や国際団体から支援金たくさん出てるの。研究中止なんてできない。
「バックアップは逐一取ってるんでしょう? 別のAIに変えてしまえば良いじゃないですか」
「無理だよ。だってアイツ、俺よりも成果出しちゃってるもん!」
スイレンの存在自体が既にノーベル賞クラスなのに、二次的に生み出されるアイツの発明が雪だるま式に成果が積み上がる。意味わかんない。
まだAIの人権問題は議論中ってことで、利益は当然俺とこの研究所に入って来る。
「性格は俺でも演算性能がスパコンなせいで、技術自体は画期的なもんがバカバカ生まれてんだよ。見ろよこれ、まぁたアイツのクソAI技術がノーベル賞候補になってる!」
そう言って部下にスマホの動画を突き付けた。
「これ、この前の。スイレンが下品な歌を全家電に無差別演奏させたやつ」
「ああ~、近隣アパートでやらかして住民全員から苦情殺到しましたよね」
「それをサハラ社が技術応用した製品販売するらしい。故障機械の強制停止や盗難車の遠隔ロックに使えたみたい、あの技術」
「クッソ有意義な使い方されてて笑う」
「うん。特許は申請通ったから来月に高額入金くるって」
項垂れたまま、俺は直近で思い出せる限りの記憶を掘り返す。
「デカケツ柴犬の権利はスパークツリー社に譲渡。地震やテロを想定した小型頑強シェルターはムタ社が製品化。欠損人体の復元と三本以上の架空腕の操作技術に関してはジェームズネットワーク社がウチと提携して技術保有」
「うっわ世界的有名企業ばっか。でも売っちゃって良かったんですか?」
「マジで売ってもキリねぇぐらいあるし、本人らは大賛成だったよ」
「ほんっと、金のなる木ですね。ドクター・スイレンは」
「まさか良い結果だして胃が痛くなる日が来るなんて思わなかったわ」
「つまりあの痴態の代償として、自分の食い扶持や名声を作ってくれてると。滑稽ですね」
「くっそ腹立つ言い方!」
舐め腐った部下の態度に肩を震わせていると、所長室の扉が勢いよく開かれる。大きな音に吃驚しているのも束の間、息を荒げた研究員がまた聞きたくもない報せを持ってきた。
「所長ー! 大変です、またスイレンがやらかしてます!」
「今度はなに!」
「各国首脳が上裸マッチョでソーラン節するフェイク動画流してます! それも渋谷ビジョンで!」
「いますぐ止めさせろ!!」
洒落にならない黒歴史は暴走する。そのせいで今日も水蓮博士は笑えない。
ドクター・スイレンは笑えない 白神天稀 @Amaki666
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