続・死んで花実が咲くものか

ユウグレムシ

 

 ハロー。僕の手紙への返事をありがとう。


 相手の素性も分からないまま学校の授業でむりやり書かされた手紙なんて、普通はその場限りだよね?「仲良くなれそうなら返事下さい」という君の結びも、定型文かリップサービスのつもりだったかもしれないが、前回送った手紙の内容を知る君にだけは、どうしても伝えておきたいことがあって、手前勝手ながら本当にエアメールを送ったよ。


 まず、僕が小説の草稿と言った、あの話。あれは僕の身に起きた実体験で、僕は魔法使いだ。もし理解できそうになければ、今からここへ書く話も、前回同様、小説か何かだと思って読んでくれ。

 事実と信じるか、ホラ話と笑い飛ばすか、どう受け止めるかも前回同様でよろしく頼む。



 国際交流の手紙を書く授業があった日。自宅へ帰ったら、“魔法少女ユア”“魔法少年マサキ”と名乗るケモミミ・ケモしっぽの団体さんがいた。そいつらはカギのかかった家の中に、窓も割らずにいきなり現れ、寄ってたかって攻撃魔法を乱射し、僕を殺そうとした!

 魔法使い達に殺されそうになりながら、なんとか聞き出した言い分によると、あの授業で書いた手紙の内容が、どうしてか彼ら彼女らに漏れ、“自分達をひどい目に遭わせる話を創作した元凶”が僕だと勘違いして、夕暮れを待って僕んちへの家凹を計画したらしかった。

 “大切な人の死と引き換えに《月の石》の力を受け継ぐ者が、命を懸けて誰かを救わなきゃならない”。「僕もまた、その運命の一部だ」と、ケモミミ姿に変身してみせて説明してやると、僕とみんなは意気投合して、“僕らの物語”すなわち『夜を待つ』を高次元から絵のように眺めおろしている創作者を探すことになったんだが……。


 ここからは話がどんどん現実離れしていくので、ゆっくり噛み砕きながら読んでほしい。


 僕ら魔法使いは、過去と未来を自由自在に行き来し、無限の可能性をもつ無数の時間軸の中からいくらでも知恵を集めることができるから、魔法で次元だって越えられる。それで、僕らは四次元時空の外にある高次元の世界で創作者を見つけ、もう二度と小説の中のキャラクターの生き死にをおもちゃにしないように、架空のキャラクターだからといって自分の楽しみのためだけに過酷な運命を与えないように、説得した。

 僕らが手荒な説得方法に訴える構えを見せると、納得しない創作者は『夜を待つ』のテキストデータを消去することで抵抗したが……僕らの物語が消えても、僕らは消えなかった。


 創作者が住む世界も、誰かの創作物だったからだよ!!


 “小説投稿サイトに『夜を待つ』を投稿する創作者の物語”を、さらに高次元の世界で誰かが書いているせいで、創作者もろとも、作中作の登場人物である僕らの運命も誰かの筋書きどおりに操られていたのだった。そこで僕らは創作者を連れて、上位の次元に住む創作者のもとへ殴り込みをかけたが、その創作者の世界もまた、やっぱり誰かが書き続けている物語、いわば“小説投稿サイトに『夜を待つ』を投稿する創作者”の一幕にすぎないと分かった。

 次元を越え、創作者を探し、創作者の創作者を探し、創作者の創作者の創作者を探し、むなしい次元跳躍を何度も何度も繰り返していたとき、ある創作者の書斎で、“別の僕ら”に出会った。その団体さんの目的は“すでに創作者を倒した魔法使い”から、創作者を倒す方法を教えてもらうことだった。

 ……さっき、無数の時間軸の中に無数の可能性がある、って書いたのを覚えてるかな?この僕が解決法を思いつかなくても、別の僕なら思いつくかもしれない。そしてもしも、無数の時間軸に無数の僕らが存在するなら、すでに誰かが究極の解決法で、すべての悲劇に終止符を打ってる可能性が高い、というわけ。


 僕らの思いつく限りでは、すべてを解決する方法はひとつしかない。


 すべての因果の原点たる宇宙が、そもそも始まらなかったことにするんだ。


 無数の僕らのうちの誰かが、この僕ごときには想像も及ばない何らかの魔法によって、すでに宇宙を無かったことにしたのは疑いない。じゃあ僕らはなぜ未だに消滅せず、呑気に手紙を書いたり読んだりしていられるんだろうか?

 書斎に集まった僕らの推測では、こんな理由がありそうだ……つまり、“宇宙”を“小説のテキストデータみたいなもの”と考える場合、そのファイルサイズは、ものすごーーーーーーく巨大になるため、あらゆる次元の、あらゆる時間軸の、あらゆる可能性をひっくるめて万物の情報をきれいさっぱり消去するには時間がかかるはず。宇宙は、今まさに“始めから無かったことにされている”途中だが、あまりにも処理に時間がかかりすぎていて、じゃないだろうか?



 まったく、軽い気持ちで創作したのかもしれないけど、時間移動の魔法が使えるキャラクターを怒らせなきゃ、おおごとにはならなかったのに……。


 僕らの推測が当たっていたら、君ともお別れだ。今さら命を惜しがっても、もう止めようがない。無数の僕らのうちの誰かが、すでにやり遂げてしまっているし、そいつらを倒しても、一瞬あとには別の僕らがやり遂げるかもしれない。いつ宇宙の終わりが来るかは分からない。

 もちろん可能性のうえでは“魔法をもってしても無かったことにならなかった宇宙”が必ず存在し得るが、僕や君が運良く、その宇宙の住人だとは期待しないほうがいいと思う。僕らは現実を見て、どんな結末が待っていようと、残された時間を精一杯生きよう。シーユーアゲイン。

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