第9話 反英 駆という人

 結界……? なんだそれ、聞いた事ないし、知ってる訳ないだろ。とでも言いたいところだが残念ながらそれはできない。

 ゲームに例えるのなら知らない要素に疑問を抱くゲーマー達の反応集のように皆さんと共に俺もそのゲームの新要素を楽しみたいところだが、この場合残念ながら俺は先行配信をプレイした側になるだろう。

 結界というのは対象を封じ込めるか護る為に使うことが多い。結界を張る際、その媒体となる何かしらを中心に展開する。

 結界の硬度は媒体によって異なる。簡単に言えば発泡スチロールの壁とコンクリートの壁ならどっちが硬いのかという話だ。その際に使われた材料で硬さが決まるように、結界も何で張ったのかによって異なる。

 また、結界は例外として影力を一時的に失う。正確には影力が結界に移る。そのせいで影力の全体的な量は減ってないが自分の持つ影力は減る。ただし、質は変わらない。

 どういう事か、そのモノカゲや能力を持つ者自体の影力の強さ的なものは変わらないという事だ。

 相手の方が弱ければ自分の影力が減っていて少量の影力で戦っても勝つことは基本できるって意味だ。

 ただ、今肝心なのは結界の目的がどちらにあるのかということ。今回は……

「封じ込める結界を張るよ。ここにおびき寄せる、無理やり。さっき集めた影力を対象にここから学校全域とその付近まで吸収する。その際、囮もどきも使うんだけど……時間がかかるんだ。明日にならないと結界は完成しない。だから明日結界とその瓶を使うってワケだね。具体的には、その瓶は投げる前提だから対象をおびき寄せれたら実行してもらうよ。あとはまぁ、一応護身用でもあるけど」

「わかりました。確認しますけど俺らは明日、囮もどきを持って吸収した後、対象に向かって瓶を投げればいいんですよね?」

「うーん、それだと危険すぎるから、吸収は私がするよ。そもそも誘き寄せるの自体成功するか不安な要素でもあるし、君らと違ってあれは曖昧なだよ。モノカゲだとしても能力を持っている以上は危険だ。だからこそ、曖昧な何かがその囮もど……いや私が囮としての役を引き受けるって訳だよ」

 確かに正体が何かわからない以上、俺らはサポートに回るのが一番だろう。能力もまだ良く分かっていないし。

 だが、それは同時に危険すぎる。今のところ能力が使われた形跡は全て幻影にある。詰まるところ、先輩はその対象になるのは確定していると言ってもいい。いや、断定しておこう。先輩はその対象だ。

「でも、それだとアヤ先輩が……」

「荷堂ちゃんの言う事もわかるよ。でもね、君らに害が及ぶほうが危険だ。いくら影力があったとしても人であるのに変わりない。死にかねない」

「やっぱりおびき寄せるのは手放しじゃできないんですか?」

「強制的にここに呼ぶわけだからね。例えば、時計の針がいつも安定して動いてくれているのに急に動きが早くなると時間は狂ってしまう。それを無理やり起こすということだからね。勝手に狂ってくれる物じゃないし~」

 そんなもんなのか。実際、先輩も狂って生まれたようなものだろう。曖昧だけど、そんな気がする。

「それにさ、私なら死なないから! 基本的に!」

  基本的に。確かに出血死も、溺死もしない先輩なら大丈夫なんだろう。腕を切られても再生し、首を切られても再生する。モノカゲ。人の生と死そのもの。それがもし死ぬとしたらいや、消えるとしたら無理やりモノカゲとしての能力を全て封じ、欠片も残らないようにするかかつてのようにしかないのだろう。そう、双葉アヤという存在を消すというのならだが。

 まぁ、そんなことは一旦置いといて、役割を全うしよう。

「じゃあ俺らは瓶を持って待機ですか?」

「いや、結界を張る手伝いをしてもらうよ。具体的には今からここに媒体として私のペンキがを固めて埋める」

 自分の足元を指差して先輩は言った。じゃあここが学校の中心なのか。いつもなら部活動生で賑わっている外も今日は広々としているように感じる。今日は部活がほぼ休みの日なんだっけ、知り合いのサッカー部が言ってた気がする。実際、荷堂も陸上部でありながら、今日はそれらしき格好でもない。

 話が逸れたが埋めるのはきっとずれないようにするためだろう。中心がずれただけで結界が不安定になるからな。

「でもそれって大丈夫なんですか?」

「大丈夫って?」

「だってほら、媒体が先輩の能力なのでアヤ先輩の影力が減っちゃうのかなって」

「あぁ、それなら大丈夫だよ荷堂ちゃん。そうしないために君らに結界を張ってもらうんだよ。結界は影力を加えた人がその分減るだけで、硬度には関係無いし、媒体にも関係してこないからね。まぁ、要するに──」

 私は常に万全の状態ってワケだ!

 先輩がそう言ったのでそうなのだろう。先輩が万全なのが一番良いのも事実だし。

「よし、荷堂。やるか」

「うん! がんばるね!」

 そうして何とか影力を加えて埋めるところまではできた。だから後は結界が完成するのを待つだけだろう。

 そういえば、おかしな話だな。そもそも学校に明日も能力を持ったその何かが来る保証も何もないのになんでこの方法を選んだんだ? 確実でもない。

「先輩、何で結界を張る事にしたんです?そもそもここに明日来る保証も無いのに……」

「あぁ、それはね先延ばしにできるからだよ。結界は長くて一ヶ月は持つ。その間に学校が新学期として始まるだろうし、最悪放課後に私が一人で対象できるんだよね」

 なるほど、先を見越してか。なら既に張っておいて損はないのだろう。

「よし、2人とも奥の方がゆらゆらしてるのわかる?」

 そう言って正門の方を指差した。確かに地面から湯気が上るように黒い半透明の膜のようなものが動いている。

「あれが結界。まぁ、まだ完成してないし不安定な状態だけどね」

 前は見れなかった気がする。なぜなら先輩が無理矢理完成させたからだ。あんな力業ちからわざよくないと思う。すごいけど。まぁ影力的にも良くないと思う。

「さて、最後に見回りしておこうか。私はここから反対側の見るから、二人は結界に沿って正門側から時計回りに見て回ってよ」

「わかりました」

 見回り。実際しておいて損はないし、何か問題があったらあったで対処しないといけないのでちゃんと意味はあると思う。

「にしても、全部同じくらいの高さだね。こんなもんなの?」

「荷堂は初めて見るからな。確かに不思議な感じもするだろうけど、逆に高さが同じじゃないと完成が遅れることがあるんだ。だからこれは成功だな」

「じゃあ大丈夫そうだね」

 さて、丁度時計で言うと三時くらいだろうか。その辺りで人影を見た。そして人影は姿を現したのだ。人であるのが確定したけど影は消えてない。

「荷堂」

「樫木君、この人……」

 影力を持ってる。間違いなく。それも春休みに入る直前に見たあの影力……質の高い影力とおそらく同じだ。制服からして先輩だろう。

「失礼ですが、誰ですか?」

「失礼じゃないよ。知らない人に名前を聞くのは普通の事だからね。影力、わかるんでしょ。お願いがあるんだ」

「先に名乗ってください」

「それもそうだね。僕は反英はんえい かける。図書委員の二年生だと覚えてくれれば良い」

「それで、お願いってなんですか?」

 荷堂が尋ねた。正直怖いが、聞いておく分には良いだろう。

「それはね、僕のモノカゲを消してほしいんだ」

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