第8話 調査開始
翌日、約束通り九時半に正門に来た。もちろん、荷堂もいる。いや、荷堂はいる。
先輩はまだ来ていないのか……? あの人のことだ。言っておきながら遅刻しているのだろう。知らんけど。
「アヤ先輩、まだ来ないね……」
「うん、言っておきながら遅刻だろうね。知らんけど」
と、話していたら先輩が来た。期待は外れたようで、遅刻ではないみたいだ。
「ごめーん! 昨日学校に置いたままにしてた物を回収してきたら遅れちゃった」
「大丈夫ですよ! それより、置いてた物って……?」
「遅刻じゃないんですね」
遅刻ではないとわかったのは簡単な話で学校の中から正門に向かって来たからだ。正門の外からであれば遅刻だが、既に着いていたのなら遅刻? とはならないだろう。いや、人によるのかもしれない。
「失礼だよね? まぁいいけど。そうそう、置いてた物はね……」
先輩がそれを前に出した。一見ただの石。それが三つある。だがそれは、一見にすぎない、つまり影力を認識している人間、又は何かであればこれがただの石ではないとわかる。先輩の事を知っている俺や荷堂であればこれが先輩のペンキを硬化した後に影力を込めた物だとわかるのは当然だ。
元々、ペンキ自体が影力を持っているのに更に強く込められている。影力だけ見れば人間一人分の影力だろう。
人間一人分の影力? まるでそうなるように調整しているような……
「気付いたね」
気付かれた。
「はい、ということはわざとですか」
「うん」
「え? え? へ?」
荷堂はまた混乱しているようだ。もはやそれがいつも通りになっている。
「荷堂、この石は先輩のペンキに影力を込めた物というのはわかるよな?」
「うん、わかるけど……別に影力を持っている人なら誰でもわかるし、人一人分の影力しかない。別に特別影力が多いわけじゃないし、あ……!」
「気付いたね」
気付いたらしい。
「わざとなんですか!? これ……こんなことも出来るんですね。でもこれ、影力が減らないとはいえ、相当な技術が必要なんじゃ……」
「私を何だと思っているんだね諸君! 私はただの人間ではないんだよ」
そうだった。いや、一時も忘れたことはないけれど。
「別に俺は先輩のことただの人間だとは思ってないですよ。化け物だと思ってますし」
「失礼だね~。まぁ否定はしないけど」
実際人じゃないしと言わんばかりだ。でも人間らしさの塊でもある彼女はある意味人を全うしている。人から生まれ、結果、人らしさが詰まった何かになったのだから。
「あの……結局その石風のペンキは何なんですか?」
今風のみたいな言い方に少し気を引かれたけども確かにそれが気になっているのは荷堂と同じだ。
「これはね~囮だよ」
「囮……? ですか?」
囮。前に先輩が言っていた。影力を込めてその量を多くすればモノカゲを、少なくすればシンヨウを集める事ができる道具的な感じだっけ。
「うん、影力をどのくらい込めるかによってモノカゲかシンヨウを集める事のできる道具だよ。もっと細かく量を調整すれば集めたい幻影をもっと絞ることもできる優れもの。本来は石に影力を込めるけど都合上、私のペンキに置き換えた。」
「初耳です。そんなのもあるんですね……!」
細かくは覚えてなかったがある程度合っていたみたいだ。
「先輩、それを使った理由って何です? きっと関係あるんですよね」
「そうだね、関係ある。結果としては上々。校内のシンヨウを主に幻影を集める囮を生徒玄関に、モノカゲだけを強く集める囮を正門に、最後に、外に漏れてる影力を吸収する囮もどきをこの学校の中心に置いた。そして特殊な影力が発見されたって感じだね」
仕組みとしては生徒の出入り、要するに人の集まることが多い場所に現れた幻影を一人分程度の影力で一ヵ所に釣って、集めたシンヨウはモノカゲに変える。その後誘導する形でモノカゲを正門に集めるという感じだろう。能力の使われたモノカゲが正門で発見されたのだから正門に集めた方が能力を使われる機会は多いと思うのが普通だ。
にしても、影力を吸収って……そんな事できるって聞いてないぞ!?
「え? 影力の吸収ですか? さっき集める道具だって……」
荷堂も驚いてるみたいだ。それはそうで不可能を可能にしてしまったようなもんだしな。そんなことできるとも思わないし普通に。いや、ほんとに。まさに奇想天外ってやつだろうか、いや、そうだろう。
「そうだね、確かにそれがただの石ならそうだ。でもこれは石じゃなくて私のペンキ。私の目的に合った道具にできるよ。だから私のペンキを都合上使ったって訳」
なるほど、影力を吸収するのが目的なら目的に合う先輩のペンキは必須なのか。
ただ、それだと今間違いなく吸収されている筈の影力はなぜか減っていく様子も無いのはやはりおかしい。自分も影力を持っているのだから減っているのが当然だろうに。
「単純に疑問なんですけど、俺らの影力が吸われていないのは?」
「あぁ、これも絞れるんだよ。対象を」
対象外に俺らを設定したのか。だから俺らが知らない影力が集まる訳だな。
「そして、その特殊な影力って言うのが……」
「人の影力ではない?」
「その通り。今回対象外にしたのは、基本的なモノカゲとシンヨウと私達だ。それ以外に影力を持った者がいれば影力が吸われる。モノカゲを正門に集めたのも正解だったみたいだね。ただ、欠点もあって、長くも吸収できないし量も少しずつだ。時間はだいたい、一時間程かな。」
「じゃあ、運が良かったんですね」
「そうだね、荷堂ちゃんの時もだけど見つかんなかったらもっと時間かかってるし」
「ですよね。でも先輩、正門にはモノカゲいなくないですか? 集めたんですよね? だって私達は正門にいるし、こんなに近いのにモノカゲの影すら見当たら無いことなんてありますか?」
「たしかに。幻影の影すら無いなんて幻みたいだ。本当かどうかもわからなくなっちゃう」
なんというか……洒落とも言いきれない微妙なラインだな、まぁ言いたいことはわかるけどね。
「結局、モノカゲは?」
「私が回収した。モノカゲが先に倒されては困るからね。そもそも、能力を使ってくれる確証もなかったけどモノカゲに能力を使ってくれれば、そのモノカゲから回収したペンキを分析して詳しく影力を調べることもできる。もうそこまでは終わったけどね」
「なるほど、俺らが来た時にはもう回収してたんですね」
「うん、そうだね。まぁそれで分析の結果特殊な影力が見つかったんだけど、それが人ではないって言ったよね?」
「言ってましたね。じゃあ幻影って事ですか? それこそ私はよくわかってないですけど先輩みたいな感じの……?」
「うん、まぁそうはそうなんだけど……おかしいんだよ」
「おかしい?」
「人に近いけど人じゃないんだ。それは幻影として見ても同じで幻影とも言いきれなくてね。う~ん……私は困っちゃった訳だ」
まさに曖昧な何かだな。だがその何かはいつもとは違うみたいだ。
「まぁでも収穫はあった。この影力から逆探知? 的な事をしようかなって。きっと明日になればわかる。そこで君らの出番って訳!」
「出番……ですか?」
「そう」
「俺らは何を?」
先輩が俺らに瓶を渡してきた。その瓶にはペンキが入っているようだ。
「これを明日持ってきて欲しい。ただ、これは今日の結果次第で頼むもので今日するのは別の事。今から学校に結界をはるよ」
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