第4話 幻影

「幻影……?」

「ああ、信じてもらえるとは思ってないけど、荷堂の夢はおそらく夢というより幻影に乗り移ったっ時の視点なんだと思う。というか荷堂自体がモノカゲ、えーとその幻影っていう化け物? 現象? みたいなのを操れるんじゃないかなって。それに……」

「見えてたみたいだしね〜。モノカゲ。」

「見えてた?」

「多分今は見えてないよね。君、体育館にいたシンヨウもモノカゲも見えていなかったみたいだしさ。見えてたら反応しちゃうよ、あんな異様なの。普通に考えてそこら辺にいたらビビるからね」

 自分で言うか? それ、と思いながら俺もその話をするつもりだった。おそらく見えていないが確実にあのモノカゲは彼女が操ったものだ。荷堂にはモノカゲを生み出す能力と操る能力があるんではないだろうか。乗り移っている間はモノカゲの視点でモノカゲが見えるのだと思う。

「私には多分幻影? っていうのは見えてないです。でも夢は私も本当に自分がしたことというか、樫木君の言う通りな気もしているんです。確証も何もなかっただけで……一ヶ月間たしかに意識はあったと思います。その話嘘だと思えなくて……」

「そっか。なら信じてもらえそうだね。明日もまた話したいことがあるからいいかな?もちろん樫木君もだ。まぁ、今日は二人共帰りなよ、荷堂ちゃんに関しては一ヶ月もいなかったんだ。確かに幻影の力で食事を取らずとも意識を保っていたし健康面に問題はないと思うけど家族が心配してるはずだ。ちゃんとただいまは言ったほうがいいからね。」

「そうですね……言われてみれば食べてないのに生きてる……家族……帰らないとですね」

「うん、それじゃここで解散ってことで! またね〜」

「あ、あのありがとうございました! 樫木君も!」

「俺は静かに横で話を聞いてただけだよ」

「それでも助けてもらったと思うから」

「そっか。じゃ、また明日な」

「うん」

 そんな会話を後にその日は解散した。にしても助けてもらった、か。やっぱほんとに意識があったのかな。今思えば俺は礼を言われるのも悪くないな、なんてすました顔をしていたと思うけれど、そんなこと気にしてしまう自分に嫌気が差したので考えるのはここでやめておく。そういえば、先輩が最後なんとも言えない顔してこっち見てたような気が……まあ考えるのはやめておく。

 翌日、学校が終わり放課後に体育館裏に集まった。体育館裏といえば告白だったり不良にリンチされるイメージが強いだろうが、今回はある意味告白に近いのかもしれない。そしてとても気になることがある。

「来たね。荷堂ちゃんは?」

「まだ教室です……けど……あの、何ですかその格好」

「何って、荷堂ちゃんに見えるのかを試すんだよ。分かんない?」

「だからって何でメイド服なんだ……」

「着てみたくてつい……」

 てへっと言わんばかりの先輩だがそのメイド服姿に俺は違和感を覚えた。いつも黒縁眼鏡に制服がデフォルメである先輩がメイド服を着て眼鏡を外しているのは違和感しかなかったのだ。本当になんでメイド服なんだ? 他にもあるだろ、制服の柄変えるとかさ、と思いつつ荷堂の反応を地味に楽しみにしている自分がいる。なんて考えていた時、噂をすればってやつだろうか。荷堂が来た。

「すいません、遅くなりました」

 さて反応は……!?

「もう二人ともいたんですね。待たせちゃいました……?」

 いや、まだわからない。もしかしたらスルーしているだけかも……いやそんなわけ無いだろ。だが、一応聞かないとわからないよなと思い「なぁ荷堂、何か気付くことないか?」と言うつもりが先輩の方が早かったようだ。

「荷堂ちゃん、何か私で気付くことない?」

「気付くことですか?」

「例えば服とか!」

「いえ、特に……すいません」

「やっぱ見えてないか……」

 先輩が着ているメイド服で何故見えるか見えないかがわかるのかは察しがいい人はもうわかるだろう。

 そう、先輩の能力であるペンキは自由自在に操れる。もちろん、先輩にしか操れないのだが、具体的に形、硬度、色、見える、見えない等を操れる。

 だが、例外として見えるか見えないかに関しては見えない状態であったとしても影力さえ扱えるなら見えてしまう。なぜそんな有能なのか気になると思うので簡単に、いや、少し話そう。

 そもそも先輩含め、モノカゲやシンヨウを扱う能力等は使い手……は大袈裟な表現なのかもしれないが、その人によって異なる。その人の能力の規模や自由度によって異なってくるという感じだ。例を挙げよう。

 卵が元に能力が生まれたのならそこまで自由度はないと言える。だが、これが正義ならばそれ故に多くの思考が飛び交うように、能力は思考の幅程文字通り幅が利くし、考えられることが多かったり深ければ強いものになると考えてもらいたい。

 まとめると、抽象的なら抽象的な程、何かしらを元にして生まれるのでその分能力というものも定義、固定、安定? しきれず、自由に扱えてしまう。逆を言えば、具体的でそんなに深く考えられないものならばシンヨウ程度の能力になるという感じだろう。

 今回はその先輩の能力は影力の操れる者にしか見えないことを利用するのだ。実を言うと、先輩の服も眼鏡もペンキで作られている。だが、先輩の身体がペンキということではない。それはモノカゲの話になってくる。まぁこの際だからしておこう。

 モノカゲに見える、見えないがあるのは知っていると思うのだが、復習だ。

 そのモノカゲが強ければ強い程誰にでも見える。故に先輩は誰にでも見えるのだ。それが影力ようりょくを持たない人であったとしても。

 それも踏まえて今回の場合は……

「見えてない……ってその、幻影? がってことですよね……?」

「そうだね、見えてないと思う。ただ、他にも試したいことがあってね。少なからず荷堂ちゃんには影力がある」

「影力……?」

 そうだ。荷堂はそれを認識していないから抑えられるはずがない。対して、アヤ先輩は一般人と変わらない程に抑えている。全く影力を感じない。影力は見ようと思えば見れる。もちろん、認識しているのが最低条件だ。

 当然その逆もある。認識していて操れる技術があれば隠すことだってできる。これに関しては隠されてしまったら見ようとしても見えない。

 俺はどうなのかだって? 残念ながら完全に隠すのは無理だ。操れはするので多少隠してはいるが、完全に隠す技術はない。というかほぼ不可能な領域だ。例えるなら自分の癖を完璧に隠すというのと同じなのだ。歩く動作、寝ている最中の無意識な仕草も含めて完璧になんて無理だろう。それを成し遂げている先輩はやはり化け物という事だ。とても人だとは思えない。いや、人ではないのか。

 では、荷堂には影力があるというのはどういうことなのか? これに関して、俺もよくわからない。基本、幻影が見えない人には使えないし、そもそも影力自体ないのが普通なのだ。だからよく、わからない。だが、先輩が試したい事というのはなんとなくわかる。きっと……

「荷堂ちゃん、無茶なことかもしれないんだけどさ。もう一度あの夢……? みたいな感じ、やってみて欲しいんだ。」

「……はい?」

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