山と海と空と果てと

平木明日香

第1話




 あの日、僕は山にいた。



 大好きだったお婆ちゃんが、行方不明になった日に。




 「ユウちゃん。婆ちゃんが朝からおらんくなった」



 母親から電話がかかっていた。


 仕事が終わり、20時過ぎの電車に乗ろうとしていた矢先だった。


 慌てた様子で取り乱している声を、スピーカー越しに聞いたのは。



 「どしたん!?」


 「ばあちゃんがおらんのよ。どこにも…」



 僕は状況を説明してくれと母に求めた。


 わけがわからなかったからだ。


 「いなくなった」という言葉が、耳の淵にこびりついていた。


 

 …いなくなった?


 いなくなったって、どうして…



 「今町の人たちで捜索にあたってくれとるけど、今日はもう夜も遅いから一旦打ち切るかもって」


 「ちょっと待って。朝からって、誰も見てないの?」


 「隣のおばさんが言うには畑仕事をしてたって。私は仕事でいなかったから…」



 母は地元の介護施設で介護士の仕事に就いていた。


 もう15年にもなる。


 父が経営していた会社が倒産し、巨額の借金を抱えてしまった当時。


 父と母は離婚し、僕は母親側の親権に入った。


 父の会社の事務員だった母は、生活費のために新しい職を探した。


 それが、「介護士」の仕事に就いたきっかけだった。

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