第35話 隠しごとをしていないというヤツほど特大の秘密を抱えている
バトラーの暴走に姉貴のサキュバス事件と、風雲急を告げる事態が立て続けに起これば、自然、違和感を探す悪癖がついてしまうものである。
「兄さん、どうかしましたか?」
「ああ、いや」
起床してから違和感らしい違和感は見当たらない。家族はもちろん、誰一人として部員の記憶が抜け落ちてるなんてことはないし、天の様子がおかしいなんてこともない。
強いて言うのなら、こうやって勘繰る俺が一番怪しいだろう。
疑念から逃れるように半端な態度を取ったからか、天の瞳はますますジトっと細められる。
「なんですか。双子の兄妹なんです。隠しごとはなしにしましょう」
すっかり、双子設定が板についてきた天である。
「親族間の隠しごとは禁止、なんて戒律が天上ではあるのか?」
なんて世知辛い世界だ。
疚しいことなんてとてもできないじゃないか。
「いいえ。神はみな大らかな方ばかりです。戒律なんて存在しませんよ」
「まるでユートピアだな」
どうでもいい話だが、一時期びっくりするほどユートピアっていう言葉が流行ったらしい。全裸で尻を叩きながら白目を剥いてそう叫ぶと霊が去って行くようだ。
ぜひ参考にしてほしい。クソほど役に立たない情報だけどな。
「それでなにを考えていたんですか?」
そして話題は振り出しに戻る。
うぅむ、注意を逸らせても関心は逸らせなかったか。
逃さないとばかりに、天は俺の瞳を見つめ続ける。
「……」
それにしても、制服を着こなすのが随分うまくなったもんだ。今となっては少しも違和感がない。
桜に美少女。春の風物詩に乾杯。
舞い散る桜を見るともなしに見つめながら、隠すことでもないので心の内を打ち明ける。
「一昨日はバトラー、昨日は姉貴。今日もなにかあるのかなって思ってよ」
二割の高揚感と八割の不安感が胸でわだかまっている。
百合は物理的に怪我を負い、姉貴は精神的に傷つけられた。今日も誰かが傷つくかも知れないと思うと、鬱々とした気分になってしまう。
俺にだけ危害が及べばいいんだけどな。
天はふっと唇をほころばせる。
「さすがに三日続けて、なんてことはないでしょう。二日が限度ですから」
「なにか確信的な根拠でもあるのか?」
何気なく問いかけると、天は一瞬、面食らったような顔をした。
「『門』の通過人数には制限があるんですよ。だからカルマも慎重に慎重を重ねて駒を選んでいると思うんです」
「なるほど。『門』にはそんな特徴があったんだな」
で天さん、なんでそんなにおたおたしてるんですかね?
「……い、言わせないでください。尿が近いんです」
「兄妹間の隠しごとはなしって言ったのは、どこの天さんでしたっけ?」
「兄さんのイジワル」
ぷくっと頬を膨らませて俺を睨み据えると、天は通学鞄を俺に放り投げてコンビニに駆けて行った。
よくあんなにも活発に動けるもんだ。俺は生理現象に負けそうな時、自然と千鳥足になっちまうんだが俺の心が弱いだけだろうか。
メンタルと生理現象に相関関係があるかは知らないけど。
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