第19話 月曜日の朝からハイテンションなヤツは社畜かニートか三連休だと勘違いしているうっかりさん
自分のアバターが宙に浮いたまま気がついたら絶命しているという奇怪な体験をしている内に土曜日は終わり、翌日は課題潰しと姉貴の荷物持ちの使命を全うした後には日が暮れてしまっていて、気づけば早くも月曜日である。
月曜日の憂鬱感は老若男女問わず誰しもに襲いかかるようで、今日の授業はどれも手緩いことこの上ない。
しょうもない雑談で授業が半分潰れたり、演習だけだったりと欠席しても問題なさそうな授業が放課後まで続き、おかげで旧校舎の階段を上ってもまだまだエナジーは余力を残していた。
「こんにちはお師匠様」
そう慇懃に挨拶してくるのは正真正銘の魔法少女、ゆかりだ。
椅子に腰掛けただけの手持ち無沙汰状態で、ディスプレイの画面はブラックアウトしたままである。
「おう。まだ誰も来てないか?」
「はい。わたしが一番乗りでした」
天は掃除当番、百合は毎週水曜日以外は基本的に顔を出せないと言っていたから、次にくるのは恐らく姉貴だろう。それまではゆかりと二人ということになる。
どうやら今日は部活も休息日のようだ。部室がここまで閑寂としているのは発足以来はじめてのことではなかろうか。
相変わらず騒がしいのは四方八方に立て掛けられたタペストリーの中の世界だけである。彼女たちの笑顔はいつも眩しい。ついでに季節は永遠に夏だ。
キャスター椅子を長テーブルの手前に運んで腰掛けると、ソーサー付きのコーヒーカップとお茶請けが机上に出現した。
前もって、ではなく唐突に……。
「今日はダージリンティーです。ごゆっくりどうぞ」
微笑んでくるんと人差し指で円を描くと、ゆかりの前にも俺と同じものが現れた。
忽然と。食器も一緒に……。
「あ、あぁ。じゃあお言葉に甘えて」
姉貴が準備してるんだとばかり思ってたんだけど。
どうやら毎回部室に来る度に用意されている放課後ティータイム一式は、ゆかりが魔法で創造していたものらしい。
優秀なメイドがいるもんだ。
ドジしそうな気配がまるでない点だけが唯一の不満点である。
というわけで、しばし茶菓子に舌鼓を打つ至福の時間。
「ではお師匠様、行きましょうか」
空になったティーカップをちんからほいと消滅させてゆかりは腰を持ちあげた。
ううむ、パントリーでも用意した方がいいだろうか。
姉貴と百合が今の光景を目にしたら卒倒……はしないだろうが、腰を抜かすくらいには驚くに違いない。……いや、あのふたりなら案外受け入れてしまうかも。
ま、なにはともあれ先手を打っておくとしよう。
「ああ。ダージリンティーとクッキー美味かった。毎日ありがとな」
――秘技、創造!
などと馬鹿げた掛け声を心の中で発して脳内にパントリーを思い描くと、おまけでキッチンと冷蔵庫が付随していきた。
換気扇がないキッチンってのは危ないよな。換気扇も追加で創造しておく。
この後、二人が部室に来ようと疑問を抱くことは決してない。
なぜなら今、俺があるものにしたから、それはあるものなのだ。
我ながら支離滅裂な理論で呆れてしまうね。
この能力は天に直接願わずとも、天が識閾下にいない限りはいつでもどこでも発動できると先日判明した。
つまり、天が就寝状態、あるいは意識混迷状態にない限り俺は超能力者も同然ってことだ。
まぁ天が闇討ちされた時点で詰みってことと同義でもあるのだが、そんな絶望的な事態には直面したくないもんだね。おい神様、言質取ったからな?
しかし改変の瞬間を前にした人物に限り、改変されたという認識が生じてしまうという難点があるのだが、現状においては気を揉む必要はなさそうだ。
「いえいえ、せめてもの恩返しですよ」
突然現れた調度品に一切ツッコむことなく、ゆかりはやんわりと微笑んだ。
なに、その恩返しで一日一回魔法発動のノルマは達成されているよ、なんて野暮なことは言わんさ。
それに俺は少し期待してるんだ。
もしかしたら、本当にゆかりがインフェルノを習得しちまうじゃないかって。
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