第4話 美少女になにかしら欠点があるのはきっと神様なりのバランス調整

 百合が仕込んだ悪戯説を有力視していた俺だが、転校生の紹介がないままホームルームは終わるし、教師は当然のように〝川野天かわのそら〟という謎の女生徒の存在を許容しているしで、ついに俺は『川野天が妹』という現実を呑み込まざるを得ない状況に陥ってしまった。


 いや誰だよ川野天って。俺の知らない親戚か?


 あ、逆から読んだら天の川じゃんなどと思ったが、気づいたことと言えばそれくらいである。


 出産と同時に取り違えた説や隠し子説はアニメ文化に毒されたが故に生まれてしまった悲しい妄想なので、候補に上げることもなく破棄しておく。


 しかし彼女が俺の妹であるというのは、俺以外にとっては公然たる事実のようで、俺と彼女が帰宅したら母さんが「おかえり~紫音、天」とまごついた様子もなく言ってきたのがなによりの証拠だろう。


「いつの間に彼女が⁉」なんて驚嘆されたらどれほどよかったことか。


 荷物を部屋に放り投げた俺は、妹の部屋になっているらしい空き部屋だったはずの扉を叩いて妹(仮)を呼び出し、階段をタッタカ下りてだだっ広い和室に滑り込んだ。


「さて、事の顛末を話してもらおうか」


 このとき俺は、やはり百合のドッキリだろうと見当をつけていた。


 記憶改竄、パラレルワールド。

 なんて言葉が一瞬だけ脳裏を掠めたが、そんなものはフィクションの産物だ。

 21世紀の技術では、せいぜい地球の周りを三日ほど回るのが限度である。


 腕を組んで彼女の第一声を今か今かと待ち兼ねていると、


「紫音さんが悪いんですよ!」


 今にも泣き出しそうな感極まった顔で彼女は叫んだ。


「紫音さんがでたらめなお願いごとをしたせいで、わたしの休暇殲滅ですよ⁉ あーほんと、貧乏くじを引いた自分が恨めしいっ!」


 がみがみ小言を言いながら、目に涙を浮かべる自称妹。


 学校での淑やかな雰囲気は何処へ……と悲嘆したくなる残念系美少女がそこにはいた。


「落ち着け。まずは順を追って話してくれよ」


 理解が追いつくかは別の話だが。


 眦の端の涙を払ってしゅんと鼻をすすると、


「じゃあ聞きますけど、紫音さんはこれまでいくつの星が隕石と化して地球に降り注いだか答えられますか?」


 出し抜けになんの話だ。


 眉間に皺を寄せて胡乱な目を向けると、新年ガチャでピックアップされたら売上一位待ったなしの容貌SSR級美少女(内面は覗く)は、再び瞳に大粒の涙を潤ませて、フンとそっぽを向いた。


「落胆しなくて結構です。紫音さんはただの人間ですから」


 じゃあ改造人間でもいるってのかよ。


「ならお前は人間じゃないっていうのか?」

「はい。わたしは銀河の彼方より飛来した神の一端、織姫の役割を担う者です」


 思わず失笑したね。


 SF小説のプロット案にしちゃあ上出来だが、なにもそんな真顔で言うことないだろ。冗談は微笑み交じりに言わないと冗談にならないぞ。


「こんなシリアスな空気で冗談をかます人がいますか! まあわたしは神ですが!」


 ああ、こいつは手遅れに違いない。

 誰かこの子を腕利きの精神科の元に連れていってやってくれ。


「なんで信じないんですか! 耄碌なんですか⁉」


 本質は短気らしい神様(笑)はちゃぶ台を叩いて立ち上がる。


「銀河渦巻く瞳! 艶やかな黒髪! こんな絶世の美女が実在するはずがないじゃないですか!」


 しーんと沈黙の帳が客間に落ちる。


 確かに俺の網膜には超絶美少女が焼き付いている。


 だがな自称妹よ、本物の美女は仮に自分が可愛いと自覚してようが、自分で自分を美女だとは言わないんだぜ?


 容姿をSSSとすれば性格がBといったところで、加減した結果、まあ美少女に分類されるであろう自意識高めな自称神様の話が真実だと仮定した上で話を進める。


 でないと、物語が俺とこいつの討論だけで終わっちまうからな。

 それが許されるのは、日曜のお茶の間だけだ。


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