47.明けて王は迫る
すべきことは山積みだった。
時間がいくらあっても足りなかった。
それでもゼインは、いつも通り未来の妻と朝食を共にすることにした。
フロスティーンの考えを聞いておきたかったからである。
しかしゼインは、なかなか話を切り出さない。
忙しいのだから、食べながら話せば良かろうに。
自身も食事を口に運びながら、その目は食べることに忙しいフロスティーンに囚われ続け。
──相変わらず朝からよく食べる。何も変わらないな。
フロスティーンの様子が完全に普段通りに戻っていたことに半ば安堵し、半ば呆れて。
ゼインがようやく話し掛けたのは、フロスティーンが朝のデザートも食べ終えて紅茶で落ち着こうというときだった。
「昨夜はうちの貴族たちが無礼をしてすまない」
「いえ。問題はありません」
さらりと答えたフロスティーンであったが。
崩れぬ笑顔はどうにも言葉と一致しておらず、ゼインでなければ本心では怒りに満ちているのではないかと疑心を抱いていたに違いない。
されどもゼインはすでに慣れていたので、フロスティーンが怒っていることなど微塵も疑いはしなかった。
フロスティーンへの妙な信頼は築き始めていたのである。
「フロスティーンが気にせずとも、あいつらには罰を与えねばならん。重ねた罪が多過ぎるからな。どのみち命はないが、一度で済ませては恩情を掛け過ぎだろう。諸々の罪のうち軽い方から罰していくことにした」
朝から可憐な王女様になんて物騒な話を聞かせるのか。
侍女の一人からそのような非難めいた想いを込めて鋭く睨まれたゼインであったが、ゼインもまたこれを華麗に無視し話を進めることにする。
何せ当のフロスティーンが、気にした素振りさえ見せず。
変わらず笑顔を張り付けているものだから、フロスティーンこそが物騒な王女に見えていて。
今さら気にしたところで無意味であろうとゼインは感じていたのだ。
「決して軽くはないが、後回しにして先に星屑になられても困るからな。フロスティーンに対する不敬の罪を真っ先に処理しようと考えている。自身のことだ。意見していいぞ、フロスティーン」
フロスティーンは目をぱちぱちと瞬いて。
紅茶のカップを持ち上げたまま、ゼインを見詰めている。
そこに返答への迷いを感じ取ったゼインは、答えを待たずしてさらに尋ねた。
「最も不敬をしたミュラー侯爵家について問おう。彼らをどうしたい?」
「どうしたい……?」
何故聞くの?
ゼインにはフロスティーンの表情が、そのように語っているように見えていた。
いつもと変わらぬ張り付けた笑顔しかそこにはなかったというのに。
「フロスティーンに対する罪だ。好きにしていいぞ」
そう言われましても。
見事な笑顔から困っている気配を感じたゼインは、フロスティーンに笑い掛けていた。
人の笑顔にどうこうと考えているゼインであったが、この王の笑顔だって、まったくもって会話に見合わないものである。
「そうだな。急に言われても決められないか。どういった罰が相応しいかだが……王族への不敬であるからには、即刻首を撥ねてもいいところだな。しかしすまないが、それだけは最後まで取っておいてほしい」
こくりと頷くフロスティーンは、彼らを生かせと泣いて懇願することもない。
──やはり他人への興味はなかったか?すると昨夜のあれは……?
まだ分からなかったゼインは、言葉を選び、フロスティーンの本心を探っていく。
「領地も私財も没収するが。それをフロスティーンが受け取るか?」
「没収されるのですか?」
「一度は俺が引き取って、そのうち適当な貴族に与えるつもりであったが。望むなら、フロスティーンの直轄領としてもいい」
「直轄領……それは……」
ごくりと喉を鳴らす音が聴こえたとき、ゼインはそれが空耳ではないかと自分の感覚を疑うのだった。
だが聴こえたものは確かだ。
──なんだ?領地が欲しかったのか?
この機を逃さまいと、長く戦をしてきたゼインは意気込む。
目の前の相手は他国の王女であっても、近いうちに結婚して妻となる女性であり、敵国の王や将ではないというのに。
落とすはここだと、ゼインの血が騒いでいた。
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