1.輿入れ
このときゼインは、妙な女を受け入れてしまったものだと内心では後悔をはじめていた。
その佇まいからは、誰にもそのように悟らせることはなかったけれど。
先に目を逸らした方が負けるような気がして。
ゼインは目が合う女を見詰め続ける。
自分の話を聞いているだろうに。
恐ろしくはないのだろうか?
珍しいその色の瞳に、似た宝石があったなと、余計なことも考えながら。
臣下たちの話にも耳を傾けた。
それはもう話し合いという域を越え始めている。
「身代わりを寄越してきたに違いありません!」
声を荒げているのは、この国アウストゥール王国の重臣たちだ。
アウストゥール王国は、元々は国土の小さな、至極目立たない国だった。
そこから大国と言われるまでの国土を持つに成長するまでの期間は、たったの十年。
今や元の小さな国の時代に囲まれていた隣国は、すべてアウストゥール王国に併合済みだ。
かくして大成長を遂げたアウストゥール王国であったが、こうも急速に小国が大国と成れば、周辺諸国もまた早急な対応の変化を迫られることになる。
中でも恐怖に慄いたのが、アウストゥールが併合したうちの一国を間に隔て存在してきたサヘラン王国。
隣国がある日から急に大国に変わったのだから、それも当然だろう。
民らの恐れようは、国を乱すほどだった。
サヘラン王国の王家は、国内の騒動を鎮めるためにも、早急にアウストゥール王国との良好な関係を築く必要性が出てきた。
その一手として、此度の王女との婚姻の提案である。
その提案に、アウストゥール王国は軽々乗って今がある。
急速に発展したからこそ内政には数多くの不安を残し、アウストゥール王国とて今は諸外国との争いを避けたいときだ。
そうは言っても、急拡大したこの国を危険視して叩き潰そうと考える国が出て来ないとも分からない。
そこで他国との繋がりを強化して望まぬ戦争を避けたいと考えていたところだった。
そうしてやって来た王女を見て、重臣たちが酷く憤っている。
馬車は一台。
少ない騎士に守られて、付き添う侍女は一人だけ。
輿入れの荷も鞄ひとつと言う。
そのように現れた女なぞ、怪しいことこのうえないだろう。
しかし彼女は、祖国から預かってきたという書状を手渡してきたのである。
それは確かに、今まで知る隣国サヘラン王国の印章入りの書面で、一見したところは偽装を疑われるものではなかったが。
では彼女は一体何者だろうか?
ゼインの視線が女を鋭く射貫く。
女もまたゼインを真直ぐに見詰めていた。
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