年上女子と年下男子の出会い

「お姉さんだあれ?」

少年は問うた。人と話すのはいつぶりだろう。喉がカラカラに乾く。胸の動機がうるさい。

「わ、私は…この城の、主。イェルダよ。」

声が震えてうまく話せない。何百年と変わらない日々をただ過ごしてきたイェルダにとって、突如現れたこの少年は眩しすぎた。


「あなた、勝手に城に入ってきておいて、先に名乗らないなんて失礼じゃない。」

今更、照れ隠しのように厳しい言葉をかける。それでもにやけてしまう口元を隠すようにそっぽを向く。

「あっ、ごめん。ぼくはテディ。」

あわてて少年は名乗る。彼はその名にふさわしい、誰もが親しみを覚えるようなあどけない顔をしていた。帽子からは鮮やかな赤毛が覗いている。大きな黒曜石の瞳で、まっすぐこちらを見つめてくる。素直に謝られて少しきつく言いすぎたかもしれないと、罪悪感が湧いてくる。


「それで、どうしてここにいるのかしら。

子供は家に帰りなさい。」

あくまでも年上らしく振る舞う。

「いやだ!ぜったいやだ!」

いきなり大きな声を出されて驚く。まだ幼い、子供らしい発言に、冷静さを取り戻す。

「どうして?ここにいても、寒いだけでしょう。」

「母さんと、喧嘩したんだ…」

「そうなの。それで、いつからここにいるの?」

「おとつい」

テディも、このままでいいと思っているわけではないのだろう。きっと、家出してきた手前、帰るときを見失ってしまったのだ。

「それじゃ、きっとお母さんは心配してるわ。早く帰りなさい。」

「でも…帰ったら怒られる。」

 

 イェルダが不老不死だからこそ、強く実感し何度も悲しんだことがあった。

「怒られてきなさい。怒られるのも、褒められるのも全部、得られるあいだに大事にしないと。」

人の一生は短い。ずっとそばに居てと願っても、あっという間にいなくなってしまう。

「わかった。」

真剣な彼女の瞳に、彼も思うところがあったのだろう。

 そして、この少年は幼いながらに彼女のことを心配する。

「イェルダは?イェルダはぼくが帰ったらひとりにならない?」


 イェルダの、見ないようにしてきた、かさぶたが疼く。ひとりに慣らした心はもう、誰かと話す喜びを思い出してしまった。寒いばかりなら耐えられた。けれど、温かさを思い出した今、また寒さに耐えられるだろうか。それでも。

「私は平気よ。この城にはたくさんの人がいるもの。あなたはあなたの場所に帰りなさい。」

心優しいこの少年に見栄をはるぐらいさせて欲しい。

「うそだ。このお城、街ではだれも住んでいないって言われてたもん。イェルダだってさびしいんじゃないの?」

この少年は、どうしてよわい部分に入ってきてしまえるのだろう。取り繕えなくなってしまうじゃないか。

「ええ、そうね。そうかもしれない。」

私にはひとりが似合いだと自嘲気味に微笑む。

「ぼくがあいに来るよ!母さんと仲直りだってするから。また来てもいいでしょ?そしたらきっとさびしくなくなるよ。」

 息を呑む。彼女は誰にもわかれない孤独を抱えてきたのだ。

大丈夫だと、言い聞かせることでなんとか保ってきた。そんな彼女に、テディは自分がいると言う。

「また、会いに来てくれると嬉しいわ。」

イェルダが初めて見せた、はにかむような、柔らかい笑顔に少年は目を見開く。


 きっと、この子もすぐ居なくなる。でも、今だけは喜んだっていいじゃない。

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