第21話内閣支持率83.8%



急に決まった桜田内閣総理大臣の記者会見。


壇上だんじょうに立って総理が話しだす。


「今回の浜名湖ダンジョン支部の事件に対して、アメリカ政府に遺憾いかんなことだと言わざるを得ない。それにともない反ダンジョン連合と改めて合議して日本も参加できるダンジョン連盟を進める方針です。この連盟は、国の利益ばかり追求するのではなく、平和に人類の資源を永続的に平等に使うことを最終目的としています。どうか実現するために桜田に力を貸して欲しいのです。近日中に合議を開催して、我が国から出たスキルオーブのオークションも平等に参加できるように、『ユニコーン』と話し合う所存です」


記者の1人が急に発言「アメリカに対してのけん制ですか? 」


「まだ、発表は終わっておらんよ・・・ダンジョンから現れたドラゴンについて、国民保護法の法改正を検討する。なぜなら国民の生命に係わる問題として前向きに考えたいからです」


ダンジョンのドラゴンの話はタブーとされていたので、会場の記者も唖然とする。


それは、話した途端に殺されると都市伝説のように語られているからにほかならない。


桜田総理は、ふかぶかと頭を下げて退出。


現実の戻った記者が「総理!質問を、総理!」


「桜田総理!」


桜田総理と入替わって岸官房長官が壇上に立った。


「えーーと・・・細かな話は私がします。今までの外交に対して弱い体質を一新すべく、総理が先頭に立って取り組むために・・・ダンジョン連盟で強い日本にする。それが総理の思いです・・・国民保護法ですが外敵に対して人命に係わる話を今までしなかった。それが問題だと認識し総理の身をていしての発言だと信じてます」


「その意味は・・・」


ながながと官房長官の話が続いた。






街中では、様々な話が飛び交っていた。


「ねえ、ねえ、桜田総理ってあんな人だったかなーー。男気があるっていうか・・・」


「もう、破れかぶれで頑張ってるかもねーー」


「そうよね」


「ドラゴンの話なんかして殺されるかと思ったよ」


「そうそう、わたしも・・・」




-  -  -  -  -  -  -  -  



「桜田内閣総理大臣記者会見後の内閣支持率は、83.8%まで達しました。おめでとう御座います」


「分かり切ったことだ・・・すべてが思惑通りで怖いと・・・」


コンコンとノックが響く。


「入れ」


「中田派や河本派が寝返ってきました。どうしましょうか? 」


「そうか・・・早いのはいい・・・ポストを用意すると言っておきなさい」


「かしこまりました」


秘書は、またも出てゆく。



すべてがあの女の思惑通りだな。


あの高木銀二なる男ぐらい釈放しても痛くもかゆくもない。

獄中での急死で処理するだけだ・・・なので、その後どうなろうともかまわん。あの女の何を企んでいるかは、丸分かりだ。


もう、あの女とあっているのか・・・可哀想に・・・嫌、自業自得だな・・・


もしかして・・・ワシ自身も・・・あの女の企みにはめられた・・・



-  -  -  -  -  -  -  -  



ああ、0時が過ぎた・・・

俺の能力がリセットされたらと思うと気が気でないぞ。


あ!足音が近づく。

プラスチックで作ったナイフを用意。

来るならいつでも来い。


「高木銀二、釈放しゃくほうだ。手錠を掛けるから手をおとなしく出せ」


ああ、助かった。

しょうが見事にやりとげたようだぞ。


娘の話は警察や検察でも一切してない。

どんな手を使ったのか分からないが、血のつなっがった女は信用できるぜ。



刑務所から極秘裏に高木銀二が出てきた。

出迎えに来ていた男が車のドアを開けて待っていた。


「おい!手錠をしたままなのか・・・」


「いつ、見られても連行途中と言い訳のために我慢してください」


「そうか・・・それぐらい我慢するか・・・」


「酒はないのか・・・」


社内に入ってから50mlのミニチュアウイスキーが手渡された。


「これで我慢してください。別荘には、ビールや高級ウイスキーも用意してます」


「ごくごくごく、プハー!格別な味だ」


銀二は、ニタリと笑いだす。





長野の山奥に黒の6人乗りが止まった。


「ここが俺の新しい別荘か・・・いつまで手錠をしてやがる・・・」


「ごちゃごちゃとうるさい!」


高木銀二は、急に乱暴に話す男に睨みつける。


「俺を誰だと・・・しょうはどこだ!唱!」


高木銀二を車から引きずり降ろされる。

その体に金属バットが叩きつけられた。

それも数人で・・・


それも何度も何度も・・・「ようやく失神したか、クソ野郎が・・・例の穴へ連れて行け」




5メートルも深い穴に高木銀二は落とされる。


「う!・・・ここは・・・ここは何処だ!」


上からライトが急に照らされる。

まぶしいがなんとか右足を引きずりながら立上がって見上げる。


「唱!どうなってるんだ。お前の手下が何か勘違いしてるぞ!」


「勘違い・・・探索者の能力が無くなって頭まで耄碌もうろくしたようね・・・」


「もしかして・・・俺を殺すのか・・・」


「やっと気づいた!あんたが私に何をしたか・・・母や弟を殺しておいて、殺されるって思ってもみなかったの・・・」


「俺が悪かった。許してくれ」


「弟も同じことを言ったハズよ。それで許したの・・・・・・だったらダメね」


唱は、目で合図。


「生き埋め開始よ」


男2人と女3人がスコップで土を投げ入れる。


「ザクッ、ドサッ、ザクッ、ドサッ」


「やめてくれーー」


その作業を指示するのが記者会見の司会者だった。

その司会者が持った石をぶん投げた。


高木銀二の頭に命中。そのまま倒れた。


「この外道が・・・田中みなみって名前知ってるか!」


高木銀二は、なにを言ってるのかもわからない。


「やっぱり忘れてたのか・・・」


10円硬貨6枚を銀二に投げつけた。


「これは三途さんずの川の渡し賃よ!あんたには、60円でも高いかも・・・そうだ言い忘れてたわ・・・あんたの仲間も待ってるハズよ!」


「やめろー!やめてくれー!」


立上がれないまま土が埋まりだす。

徐々に声が消えても、土をセッセと投げ入れた。


しばらくして「終わりました」



唱は別荘に1人で入る。



「あれ、なにかしら」


目の下を触ると濡れている。

泣かないって決めたのに・・・


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る