転生先は推し(悪役貴族)でした~推しになるのは解釈違いだけど、これ以上の解釈違いを起こさない&無様に死なないように死亡フラグを折りながら、狂犬伯爵として生きます~
ランド
第一章【成長編】
第1話 推しに転生してた!?
人生で最も衝撃だった瞬間を問われたら、私は迷わず、今この瞬間を答えるだろう。
「あ」
場所は自室。
豪華絢爛な装飾の施されたこの部屋で、ボーッとふかふかのベッドの上で日光浴をしていた。
そして、唐突に思い出したのだ。
「……マジ?」
初めに出てきた感想はそれだった。
……って、いやいやいや、そんな事をしている場合ではない!!
少しでも現状を把握しないと!!
私の名前は──エリヌス・カーディナリス。
国内随一の財力を誇る、カーディナリス家の長男。
うん、これは覚えている。
そして──
──
これが、もう一つの──別の人生での名前だ。
私は、日本に生まれ、平凡な暮らしを送っていた……はずだ。
正直、あまり鮮明には覚えていない。
だが、特別何かをしていたという記憶はない。
まあ、記憶するほどの人生でもなかったという事だろう。
……自分で言っていて悲しくなるが。
……いや、一つだけ、人と違うところがあった。
うん、思い出してきたぞ。
私は、ある小説が大好きだった。
それはもう、異常なほどに。
台詞を一言言われれば、第何巻の何ページにそのセリフがあるのかを即答できるほどに読み込んでいた。
そして、その中でも特に好きなキャラクターが二人いた。
いわゆる、推しという奴だ。
勇者・ダフネ様。
例の小説の主人公であり、最強の勇者様。
真っ直ぐな信念と正義に向かっていくその姿、弱きを助け強きを挫くその輝かしい心。
その全てが完璧でかっこよくて、でも時々愛らしい姿も見せて、もうどこから褒めたらいいのか分からないくらい素晴らしくてああああああああああああ!!
……おっと、内なる限界オタクが出てきてしまった。
要は、最高だという事だ。
……そして、もう一人の推し。
ダフネ様を語るうえで、絶対に外せない存在。
…………思い出すと、少し複雑だが。
もう一人の推しの名は、狂犬伯爵こと、エリヌス様だ。
……つまり、成長した私だ。
獰猛にして極悪、目的のためなら手段を選ばず、自らの野心のために動く冷徹な貴族。
生まれ持っての才能に胡坐をかきながらも、最強の主人公を幾度も窮地に追い込む実力の持ち主。
敵役である以上、アンチも多かったが、私のように彼のキャラクター性に惹かれた熱狂的なファンが少数ながらもいた。
……なんか、自分で分析してると恥ずかしくなってきた。
でも、こんな事じゃ、オタクの熱意は止まらない!!
エリヌス様の魅力は、なんと言ってもその強い志!!
自らの信念、美学、野望を貫くことを徹底し、己のためにだけ動く!!
そして、格上であるダフネ様に対してでも、自分の野望のために立ち向かい、最後の最後まで悪役として散っていく。
その姿があまりにも魅力的で、読めば読むほどかっこよく映って、でも最期は無残に殺されて、それでもその殺され方さえ画になってええええええええええええ!!
……って、え?
いや、ちょっと待てよ。
私、将来殺される?
えぇ……嘘ぉ……。
嫌なんだけど。
しかも、殺され方、結構残酷だったし。
勇者に敗れて、それでもあきらめずに夜襲をした瞬間に、人知れずゴブリンに殺される。
それが、エリヌス様の最期だ。
……キャラとしては、信念を貫きながらぐっちゃぐちゃにされるとかいう、個人的に最高の退場の仕方だけど、自分がそんな目に遭うのは……。
……うん、思い出しても、素晴らしい死に様だった!!
「って、そうじゃない!!」
そんな死に方を自分がするのはごめんだ!!
作者や読者目線で見れば、超絶ヘイトキャラが無様に死んでいくカタルシス的シーンだが、これは私の人生だ。
私は、そんな死に方しない。
それに、推しが苦しむのが好きな生粋の鬱展開大好き人間だったからあのシーンにも耐えられたが、耐性のない同志たちは、ことごとくSNSで阿鼻叫喚としていた。
……よし、決めた!!
私は、この先乱立されている死亡フラグを、すべて叩き折ってみせる。
あの作者様、丁寧に死亡フラグを張ってくださっていましたからな。
作品としては優秀だったが、それがこんなところで仇となるとは思っても見なかった。
だがしかし、ただ単純に死亡フラグを折るわけにはいかない!!
私は今、推しになっているのだ。
そして、推しを私が推している
私が推しになってしまった以上、そのイメージを崩すわけにはいかない!!
私は悪役のまま、狂犬伯爵のまま生きなければならない!!
悪役として、狂犬伯爵として、死亡フラグを折ってみせるのだ!!
そうと決まれば、早いところ考えなくては。
──推しのイメージを崩さず、私が生き残る方法を!!
◆
「おはようございます、父上」
「ああ、エリヌスか。随分と遅い起床だったな」
「申し訳ございません」
「まあよい。席に着け」
「はい」
転生したことに気付いたとはいえ、エリヌス様としての人生は普通に続いている。
だから、私は完璧にエリヌス様をエミュしなければならないのだ。
言葉遣いはもちろん、細かな所作から何から何までしっかりとこなさなくてはならない。
……とは言っても、私からしてみれば、いつも通りの生活を送るだけなのだが。
不幸中の幸いと言うべきか、前世の記憶が戻る以前の記憶も、ちゃんと脳内に残っている。
おかげで、小さな頃から叩き込まれてきた礼儀作法なんかは完璧だ。
この調子なら、周囲の人間に勘付かれることもないだろう。
まずは一安心だ。
というか、こういうのは、変に意識しすぎた方がまずい。
私は私。
記憶が戻ったところで、そこは何も変わらない。
「父上。今日は剣術の稽古でしたよね?」
「ああ。お前は剣の才がないからな」
知ってる。
実際、作中でエリヌス様は剣を一度しか使わなかった。
第七巻の終盤、勇者との四度目の対決で近くに転がっていた死体に刺さっていた剣を抜き、剣は苦手だと言いながら長剣使いの勇者相手に大立ち回りを披露したのだ。
結果的に、魔王軍の介入で引き分けとなったが、それ以降エリヌス様が剣を使うことは無かった。
そのため、二次創作でもエリヌス様が勇者に負ける時は、大抵剣を持たされていたのだ。
……私も、エリヌス様に剣を持たせた一人だが。
「しっかりと鍛錬せんと、他家のものから馬鹿にされるぞ?」
「はい」
才能がないと分かっていながら鍛錬するのも、あまりモチベーションが湧かないが、逆の考え方もできる。
作中のエリヌス様以上に剣術を扱えるようになれば、死亡フラグの一つや二つくらいは跳ねのけられるのではなかろうか。
推しを超えるというのは忍びないが、今は私が推しそのもの。
若干解釈違いだが、公式が言えばそれが正解だ。
今は私が公式、議論終了!!
「ご馳走様でした。それでは、鍛錬の準備をしてきます」
「ああ。しっかり励めよ」
言われなくても。
……すべては、私が生き残るために。
そして、推しを生き残らせるために!!
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あとがき
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