班決め。、
次の日がくる。僕の日常は決まって同じ時間に始まる。朝の支度を済まし、登下校、ここで気持ちの整理を付けるのが一連の流れ。後、20分、10分と学校が迫るに連れて不安になる気持ちが増していき冷や汗をかくのも一連の流れになっていた。こんな自分を僕は好きではない。自分というものが恥ずかしい。でも、どうしても無理なんだ。体と心が思うように制御出来ない。
学校に着くと席に着席、そして本を読むというお決まりのルーティンをさも当然に行う。
今日は、就学旅行の班決めが行われる日だった。1ヶ月以上前からこの時が来るのは知らされていた。だからこそ怖かった。必ず、誰かと関わらないといけないから。ごめんなさい、本当に僕なんかと一緒になるなんて。他の人にとって大切な行事だということはこんな僕にも重々分かる。自分がいることの申し訳無さが物凄い重圧で体に心に襲ってくる。早く終わってほしいという気持ちは勿論あった。だけど、その気持ちのせいで始まらないで欲しいという気持ちのほうが強かった。
「今日は前もって説明してある通り、就学旅行の班決めをします。」
皆さん、楽しみはあると思いますが、準備は入念にです。
「よっしゃ」
「一緒になろうぜ」
「静かにしてください。では、就学旅行の準備、班決めを行います。」
前に出て話しているのは就学旅行委員の前並よしのさんだ。時間が立つのがとても今日は早く感じた。あっと言う間だっあ5時間目になるのは。
「じゃあ、自由に5人ペアを作ってください。決まったら紙に書いてある通り係り決めもしてください。」
いよいよ始まった。何も期待などはせず、ただ不安と申し訳無さが包んでくる。
生徒が立ち上がり、話し合いをする中、一人席に座りだんまり。前にも横にも人がいて、どこに目線をおいたらいいのか分からない。
全員立っているのに立っていないという事実、参加していないという事実が時間が経つにつれて不安を引き立て、とてつもない焦燥感にさいなまれる。
結局残ったのは僕だ。息がしづらい。目があちらこちらに移動する。そもそも脇見恐怖症に近い症状があるがそれが加速する。
普通にキツイ、体調も悪い。考えれば、考えるほど熱っぽくなる。
「斗架くん。あ、よかったら入る。」
分かっていた。どちらにせよ。声をかけてくれることは。優しい人がいることは。僕はそれに頼ることしかできないことは。けれど、凄く安堵した。声をかけてくれた前並さんだ。僕はちらっと机と前並さんの顔を交互に見ながら返事をする。決まってこういう時、僕は目が痛い。そして、顔が強張っていて、はたからみたら怖い顔をしている。
「ご、ごめん、お願いします。」
「よし、これで決まり。」
「斗架君、よろしくなのです。」
入れてくれたのは、女子の班だった。僕は少し席を動かして集まっている方に向かう。
班には前並さんに今、挨拶をくれた小杉さん、そして、僕の前の席の佐々木さんがいる。彼女達は良く僕の隣の席で昼食をしているメンバーだということは良く知っていた。下を向いていても、自ずと周りが気になってしまうのだ。佐々木さんは今も僕を睨んでいる。
それはそうだ。安堵した気持ちは僕だけであって、他の人にとってこれはとても大切なもの。けれど、何もいうことはできない。今はポカンとしている。熱ぽい。
「じゃあ、決まったみたいなので次はルートを決めてください」
前並さんが委員の仕事をこなしつつ、班の取り決めも率先する。
「美夢どうする。」
前並よしのが美夢に振る。美夢とは佐々木さんの下の名前である。
「 私は、どこでもいい。冴ちゃん決めていいよ。」
小杉冴は眼鏡っ娘のおしとやかな子である。
「私は、そうだな。あっ、これなんかどう。」
「うん」
「まず、清水寺、んで、龍安寺、金閣寺、食べ歩きんふふ。」
「私はそれでいいよ。」
「私もそれで」
「ンフん、ありがと二人とも」
「冴、可愛い」
よしのは冴を微笑ましく見る。
「斗架君、他に行きたいとこある」
よしのさんが冴のほっぺをつねりながら、斗架の方に振り向く。よしのの視線に当てられると、斗架は目を背け地図を見ながら答える。
「これで、大丈夫、です。」
同級生に敬語を使っていいのか、改めて考えながら喋る。
「オッケー、次はと、係り決めか。どうしよかな、私は班長で」
「冴ちゃん、選んで」
「私は、んー美化がいいかな」
「冴ちゃんらしいね」
「んじゃ、私は」
美夢が答えようとすると、よしのが手を振り静止をかける
「そうだ、班長、美化、時間、食事2人だから一人2つやんなくちゃいけないんだ。」
「そっか。じゃあ、私が」
「ごめん、美夢、私、班長と時間でもいい。食事の時、委員長で集まる会議があるの」
「いいけど。」
「ありがとう。じゃあ、斗架君と2人でお願い。」
美夢は少し動揺した顔をよしのに見せ、少しこちらを見る。
「美夢ちゃん、大丈夫?」
「うん、平気」
冴は美夢の肩を優しく撫で下ろす。
そして、佐々木さんの様子を見て、申し訳無さそうにするこちらをお構い無しに冴は堂々と佐々木さんのことを宣伝する。
「美夢ちゃんはとっても優しいので、お願いするの。」
「は、はい」
僕は少したじろぐ。よしのさんはそれを見ながら、生徒に声をかける。
「じゃあ、今日はおしまい」
こうして、短いようで長かった一日が終わった。
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