僕の僕。

僕は歩くのが好きだ。一人になれる空間。何も考える必要のない時間。


国道の端を歩いていると、急に空が開けてくる。建物も視界に入ってくることもない、ひらけた空間。車の通る音と共にただ、蒼い空に漂う雲のみが瞳に入ってくる。悩みがとてもちっぽけに思える程、壮大な景色に心が踊る。大地を蹴る感覚。それが足と心を静かに弾ませる。外部から見れば至って普通の散歩に見える光景。誰しも散歩をすることはあるだろうし、散歩じゃなくても通勤、通学、買い物に歩くくらいは・・・そう誰しもある行為。


ただ唯一つ異なるのは僕は闇のベールを身に纏っていること。服のことでは無いと釘を指しておく。ベールすなわちカーテン、仕切りである。花嫁の被るベールには邪気から守る役割があるそうだ。つまり、総称すると守るもの。何のことかは見れば分かる。いや、分からない。何故ならそれは見えないのだから。ベールと言っても心のカーテンの様な物だ。だが、彼にとってそれは重要な役割を果たしている。

人とすれ違うたびに心の中でベールを貼り変える、自分から誰かを遠ざけるそんな感覚。威圧に近いがそうではない。オーラを纏うのである。そうすることで僕の身は保証されるそんな感覚が安堵をくれる。周りがこんなことを僕が考えていることを知ってしまったら、たちまち幻滅されるだろう。逃げられ、泣かれるかもしれない。けれど、僕はそれを辞めることはできない。己の心の安堵のために。決して人を悪く思いたいなんて気持ちは無く、これという害意、悪意は無い。ただ気持ちを落ち着けるための装置それこそが身に纏うベールの正体である。


息を吐くように誰かが通るたびに平然とベールを強く貼る。これで誰も僕に関わることは無いという感覚を得る。買い物に行くだろう、お婆ちゃん、お爺ちゃん、通学途中の子供達、千差万別無くその行為の対象だ。だが、決して顔を見たりすることは無い、周辺視野で感じるのだ。僕が見たらそれは良くないことだと思うから。誰しもが自分の人生を精一杯に生きている。僕の知らないドラマがある。そんなことを思うと僕がその人の1ページに入ることなど決して許されることでは無いと思うから。だからといってそれを辞めることはできないのだが。これが誰も知らない僕の秘密。

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