第10話
「弱きものよ。弱肉強食の世にすがるがよい。」
「なぜ、君が」
オーサルの一撃は2人のそれを上回った。しかし、そこには一人の男が立っていた。
斗架は2人を庇って墓まで吹き飛ばされたのだ。
ありとあらゆる筋肉の筋が切れた様な痛みがその身に走る。
「斗架!」
直後、空に異変が生じる。ヤツが動くには十分すぎる出力だった。それはどこにも属さないもの。神ならざる神聖たるもの。空が渦を巻き、雷と共に降りたつもの。恐らく、生きとし生けるものが少なくった今、この出力はまずかった。
神theTIMEの時間が始まったのだ。静かなる静寂に包まれる中、それは姿を表す。人間であり人間であらざる姿、黒一色でありながら神々しいもの。おおかた世界の均衡を保つべくして生まれたそれは今此処に君臨した。
「貴様…神聖時め…」
オーサルがそれに手を振りかざそうとすると
一振りでオーサルを消し飛ばす。
「やばいすよ。カグナさん。こいつは俺達の手に負える相手じゃねぇ。」
カグナは墓に居る斗架の方を見る。倒れたまま一歩も動かない彼を見て、またも覚悟を決める。
「いい、とにかく追い返すわよ。」
「いや、無理ですって。逃げるのも難しいと思いますけど。」
相手の力量を測れないようじゃ、強者にはなれない。あれは測れるような類のものじゃない。
「分かりましたよ。やりますよ。」
「千劉典子鉄」
千劉典子鉄それは本来相手を遠ざけるためにするための先手の技、しかし、逆に先手を取られる。カグナも目にも見えない速さで、グラマンを吹き飛ばした。
「ぐはっ」
血を吐くグラマンに声をかけるカグナ。
「グラマン、平気」
「よくも」
カグナも気迫の籠もった詠唱をする。
「神聖たる我が寄る辺この地に従い鎮まりたまへTHEフィン…グル」
カグナが焦点を合わせていた神聖時のいた場所は地面が凹んでいる。
どこ?カグナは詠唱中、左右を見回すが何処にも居ない。しかし、神聖時はカグナの眼の前に瞬間的に迫る。
え!
そして、腹わたに蹴りを入れた。刹那、後ろに避けたが、物凄い勢いで飛ばされる。隣には倒れた斗架がいた。
彼女は俺を起こす。血を吹き出し、内蔵も損傷しているだろう姿を見て、悲しみの表情を浮かべる。その間も神聖時は迫ってきている。それはまるで大地、いや災害の進行だ。
カグナは俺に謝る。二人とも横に倒れたまま迫るそれをただ待つ。
「ごめんね。守れそうにないや」
「も、もう一度あの…魔法」
しかし、その時だった。男は確かに仰向けで倒れていた。確かに内蔵も破裂していた。しかし、誰かから立たされるように起き上がる。そして、歩けないはずの足が動きだした。
俺は記憶に生かされている。数多の霊が俺を包んでいる。
「駄目たっちゃ」
俺は…英雄なんかじゃない。
でも皆が思う英雄てのは、理想なんだ。その最後の砦が弱くていい筈がなかろう。最後の砦てのは希望、そう、誰もが目指したくなるそんな、場所、私がここで、いや、この先も負けていいはずなんてないんだ。
それが誰であったとしても、俺は全身全霊をかけて守らなければいけないんだ。
俺ならざる俺と神聖時との戦いが始まる。
先ず右左の強打を繰り出す。神聖時もそれを受け流し強打を繰り出す。物凄い爆音が響き渡る。俺がそれを避けるとその威力が分かる。
後ろの山々を吹き飛ばしているのだ。
「アーティックトアーティファクト」
「マジですか、あれは六大天守の技すよ。」
かすれゆく目で、見ながらグラマンは呟く。
城が現れ、全ての砲台、ありとあらゆるところからレーザー攻撃を神聖時に放たれ、結界なるものが周囲を包む。それとほぼ同時、斗架は城の右に走り出し、閃光の如く雷技を放つ。顔が歪む程の速さだ。
「ラグナス」
また、すぐさま神聖時に向かい放つは炎のパンチ。
「炎天ゲロー」
しかし、奴はそれすらも平手で受け止める。
「斗架、貴方なに…」
それも承知で動くは俺の体。神聖時は幾多のビームを飛ばしてくる。どうやら魔法も使えるようだ。俺は跳ね体を空中で捻り、後ろへと滑り避け、またも間合いを詰め殴り合いに持ち込む。そして、魔法と全てのありとあらゆる技を使い応戦する。俺は周りに被害が出ないよう特殊結界を張っているがそれすらも壊れる。戦いの最中、俺が俺であることすら忘れかける。
「凄い、蒸気、このままじゃ」
俺は誰かが笑えるだけの世界でいい。そう思ったことを思いだし戦う。
「十式魔法、ゲーガノ矢」
10の魔法の球体を体に回転させ放つ。それは神聖時にあたり輝かしい色を放ち爆発するが、煙幕からでてくるは黒い影。
こんな世界だから、俺は今まで、一人道を進んできた。誰しもが苦しまなくていいように、けれどそれは違った。一人でなど生きてはいなかった。決して相容れぬものだったとしても俺の心に刻まれた。これは俺の独りよがり、誰かと関わろうとせずに生きてきた。けれど、多くの人が助けてくれた。
だから、思い出もろとも死んでやる。
右手の薬指にキスをして、ハチマキを取りそれを巻く。
そして、膝を付き、立ち上がる。
全力で行くぜ、…皆。
愛馬の影。
目を見開き、右手を前に出し、右回りに少しずつ回す。神聖時に物凄い圧力が加わり、地面の足場が沈む。次第にそれは広範囲に歪みを生み、大地が陥没する。土が空気に浮かぶ中、前々と進み、唱えるは斗架。
領域主たる我が命じる。消えろ。
隠された眼光を光らせ髪を逆なで、さらに右手を捻る。神聖時の体もろとも捻ろう勢いだ。遂には伴い大地もろとも陥没した。
しかし、その中で神聖時はゆっくりと動き出していた。次の瞬間こちらに剣の一刀がこちらに迫る。
神聖時はあの圧力さえも振り払ったのだ。あのまりの速さの剣の一刀が体をかすめた。
斗架の肩から体から血が吹き出る。だが、斗架の体は無意識かで治癒する。斗架の攻撃は続く、空中に避けた体を利用し頭を下に、髪が下に向く中、両手を向ける。
「両目の義眼」
両手に目の文様が現れた直後、神聖時の体を野太い自然にはあるまじき木なるものが巻き付く。
「三代両儀門」
着地後、すぐに印を結ぶ。
金色の長い棒が神聖時に次々に突き刺さり、まるでピラミッドのごとく神聖時をその麓に置き去りにした。
そして、その麓に突き刺さった神聖時に一刀を放つ。それは神聖時を両断したかに思えた。しかし、次の瞬間俺の体から血が物凄い勢いで吹き出した。
切られた。全く見えなかった。そして、己に刺さった棒をもろともせず、粉砕し、何百もの剣技をかける。
「すまねぇ皆。」
蒸気が物凄い勢いで吹き出す。
とうとう、斗架は倒れた。
神聖時は、恐らく何らかの技を使うのだろう。神聖時の装備した剣の輝き様を見て仰向けで倒れながらぼやける頭を使い考える。恐らくそれが放たれるとここら一帯消えるだろう出力だ。横を見ると叫んでいる彼女の姿が見える。
「貴方が、この世界を…この世界を変えてくれるなら」
カグナが俺に杖を向け、何かを言い放つ。
聞こえはしないが、それは何かを願う気持ちに他ならないことくらい分かる。
幸せな日々を送れる日を願うそれすらもそれすらも願うことが許されないのか。
思い出すは土手での光景、俺が残っちまった。子供たち、働く人。沢山の人達。それだけではない、沢山の物をこの目で見てきた。
人の思い舐めるなよ。
神聖時は剣を振りかざす中。男は力を振り絞り立ち上がる。振りかざされる剣を膝立ちから放つ拳で迎え撃つ。全ての一撃を相打ち覚悟で放つ中、途中頭が可笑しくなる。闇夜に落ちるそんな感じが俺を襲った。それでも俺は力を込めた。
守れなかったのか。その刹那爆風音がなり、手首の樹々がその瞬間切れた。
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