第9話

「アーー」

幸神一心、御金真莉、ミルネシア墓地には沢山の名が刻まれている。

俺の手の中で彼女は消えた。

俺は声を出して呻いた。墓地が周りに広がっている場所で精一杯泣いた。泣いて泣いて可笑しくなるくらい泣いた。彼女はお店を開くことが夢だったということを思い出して泣いた。我慢していたけど、一心のヒーローになりたいという夢を思い出して泣いた。それしかできない自分に泣いた。失い過ぎて泣いた。悲しいのは、最も悲しいのは死んでいったその人自身だということは分かっている。しかし、俺は泣いた。1年間彼らと過ごした。俺に何ができただろうか。いや何もしてやれなかった。それが一番辛いんだ。俺は誰かに何かを与えたり、運命を変えたりすることはできない。そんなことは俺が一番良くわかっている。ただ俺はもう少し旅がしたかった。しかし、未来を覗く勇気が足りなかったばかりにその未来すらも消えた。


「君、何で一人でままごとをしてるんだい。」

魔女がもう来た。余りにも早すぎる到着だ。だが、魔女は今までとは違う口調で喋る。

「さっきのは君の能力でしょ。」

同情しているのだろうか。目を赤らめ、墓に抱きつく俺を真っ直ぐに見る。魔女は斗架の近くによると、その場でしゃがみ、手を後ろで組む姿勢をとって目線を合わせてくる。そしたら、何故か魔女も目を赤らめているのが見える。何故か分からないけど目から涙を流している。 

「君の涙に乾杯なんてね」

「ごめんね。」

「眠れる魔女さんよ。知り合いなんすか。でも来ちゃいましたよ。」

遅れてやってきたグラマンの切迫した声が聞こえる中、魔女は斗架を見る。

「失せろ、シャルドネアム」

「やばいすよ。魔女さんよ」

「遅いよ遅すぎるよ。」

頬を触りながら、俺の目を見る魔女。その姿ははたからみても魔女には見えないものだろう。そして、斗架の布をめくり目を見ると笑みを零す。そして、じっくり見つめると頬から手を話し、魔女は立ち上がりざまに。

「君が生きてて良かった。」

と言い杖を取り出し魔女、いや、彼女は険しい表情をする。

「逃げて、どっか誰も居ない場所に行って。」

知り合いでも無いのに何故、俺を見て泣くのだろう。悲しさでそれ以上頭が回らない。

「魔女さんよ。それはやばいすよ。スノウリンの上位者がこのことを知ったら。それにステラールさんにさえ」

墓の前で座り込む斗架を片目で振り向きざまに見ながら、何か決心したように言う。

「私は…」

ステールの放った禍々しい紫の玉は斗架めがけて無音で迫る。対して魔女は杖を回し、障壁を張る。当たるやいなや障壁に水の振動の如く衝撃が伝わる。玉は次第に障壁を消していく。魔女はすかさずそれを上に飛ばす。

「魔女め。それは我々に対する反逆と見なしてよいのだな」

玉は当たった木の部分を全て消していく。

「コエー、デリートと呼ばれるだけあるは」

「フー」

ため息をつき彼女は次の攻撃に備える。

「もう、魔女じゃなくていいすよね。カグナさんや」

隣にいるグラマンが吐き捨てる。彼女の決心の固まった表情を見てグラマンも意思を決める。

「 分かりましたよ。やってやりますよ。」

アイツ斗架って名前だったな。悲壮な顔をしやがって。まぁ、無理もないよなこの腐った世界じゃな。

「汚名を被ってやるてよ」

「さすれば、貴様ら2人を反逆者とみなし。今ここに、スノウリンの名を借り、処刑を実行する。」

「遅えよ。ステラール」

「くうう…」

グラマンは目にも止まらぬ速さで近づきみねをうち、ステラールの体を宙へと打ち上げる。カグナのアンデットがいなくなったにせよ。無限の魔法と敵の攻撃は続く中、中を舞う。そのため、数段の魔法がステラールに当たる。

「己、反逆者風情が」

グラマンは空中でも連打を食らわす。魔法で敵が焼ける中、それを利用して宙を飛び、さらなる連打。ステラールは苦い顔をしながら両手で台形を作る。

「やべ」

魔の弾丸が空中でも火を吹く。なんとか体を捻り、交わす。弾丸は当たった地面ごと消し飛ばす。

「当たるとまずいな」

ステラルーにも魔法による攻撃が当たる。

「己、魔女」

カグナも魔法で無数のレーザーを縦横無尽に飛ばしている。

「 オズマニウムン」

「剣?」

ステラールの剣から斬撃がカグナめがけて放たれる。

それを杖を回転し、何重もの防御壁で止めにかかる。

しかし、触れた部分からデリートされる。

「油断大敵だぜ。」

そのさなか、グラマンは剣で背後から切りつけた。

一瞬にして地面に叩きつけられ。

そして、カグナの詠唱魔法の応酬がステラールの襲う。


その時だった。どこからか異様なオーラを放つものが降り立ったのは。

「何をしている。」

「オーラル樣。どうしてこちらに。」

「なに、単純なこと。呑気に戦う貴様ら、そして、反抗するもの全てに憤りを感じてね。」

淡々とした口調でいい、ステラールを跳ねのけ、木の幹まで飛ばす。

「ぐはっ」

「すまないね。相手が相手で。私となら勝負になるかね」

体全体が青く光るオーラルに二人は少し尻込みする。

「何で、上位者である貴方じきじきにくるの。」

「これはこれは魔女さん。貴方には驚かされることばかりです。絶対的な強者がいた方がいい、ただそれだけのこと。」

「そう、グラマンいける?」

「あぁ、大丈夫。こりゃ、後戻りできそうにねーな、なーんてな。」

直後、グラマンはオーサルの間合いに入る。実に20mはあっただろう距離を一気詰める。そして、低い姿勢から居合の構えをし、流れる様に足を狙う。「橋傘流儀帝陵」しかし、オーサルは鉄拳を上から振り落とし、放たれている途中居合を地面に落とす。

「まじかよ」

オーサルは青い炎を纏ったかのような拳をすかさず振りかざす。それをバク転宙返りで交わすグラマンに地面からの攻撃が加わる。

オーサルが地面に手を付けるやいなや青い波動なるものが薄っすらと見え、それが地面を這うように動き、グラマンに迫る。そして、一気に結晶となって地面からでて襲ってくる。

「当たるとまずいかもな」

つかのま、グラマンの頭上を通り、オーサルに対し放たれるは紫に光るレーザー。

「ふっ」

それを剣で耐えるオーサル。数十センチ押し出すがレーザーごと振り払われてしまう。

「では、こちらからも」

地面を蹴り出す爆音と共にグラマンの顔を掴みカグナに向かってそのまま直進する。

カグナは炎、水の魔法で応戦するが避けられ、足を掴まれる。そして、二人共々物凄い勢いで引きずられ、放り投げられた。

「くっー痛い」

「カグナ大丈夫」

「なんとか」

「こうなったら合体技きゃねーな」

カグナは杖を立て詠唱を、グラマンは居合の構えから詠唱を開始する。共に髪がかき乱されながら詠唱を唱える。

「天より出で立つは我が魔術、さすれば今この時理を乖離し、放たれるは我が至高、アル・サッドの星」

「我が剣は聖なる刃、幾多の研鑽により出で立つは我が至高、カルイダの星馬」

輝く星馬に乗る男剣士の剣がカグナの魔法で強化されそのまま走り出す。


「ならば、それに応えよう。」

目を閉じ、念じるオーサル。その体は稲妻が走り出す。そして、腹のあたりに輪っかを出現させそれが回転しながら周囲にも雷鳴を走らし、それを突き出した右手に集める。 

「オルザメイル」

その一言で放たれる雷鳴の一撃。

一瞬の静寂から物凄い爆鳴が鳴り響く。

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