第3話

私の眼前に現れたのは予想もしないものだった。

ペンが動いているのだ。甚だ現実から乖離した光景に私の目が点となる。それもつかの間、空間に文字を書きだしたのだ。白く暗闇でも見える文字で。


司輅星 斗架ツルホシ トウカ樣でございますね。さっそくてすが能力者になりませんか。


予想だにしないペンの登場、文字という展開に心は少し動揺する。 


「ん?・・・いやぁ、いいです。」

私は咄嗟に返事をした。


そうですか・・・

(すごい話し言葉だ・・・)

口語体でペンは文字を書き出す。


しかし、貴方の心は言っている。何者かで有りたいとそれがどんな形であったとしても。


流暢な語り節で書き留めるペン。私は少し考えていた。

(能力、こんな異世界アニメ展開が本当にあるとは・・・それにしても随分唐突な出だしだな、すごく胡散臭い。・・・なりたいものね)


私は夢の世界、もしくは死後の世界にいるのだと思った。だってそうだろうこんな世界感はたとえ望んでも普通は巡り合わないのだから。


決まりましたか。


(なりたいものね)

そんなものははなから私にはなかった今あるのは未来を憂う気持ちだ。


しかし、私は頭を巡らせた。

(私は誰かを守れる、守護者なるものになりたい。風景、生きとし生けるものを見ながらゆったりと生きてもみたい。)

とりあえず、思いついたのは抽象的なものだった。

しかし、こんな能力を得られる舞台などは普通はない。でも、私は強者になりたい、有名になりたいなどという欲望はなかった。


では具体的にどの様な能力をご所望で

「いや、私にはその資格はないよ。」


(そう、私は何もできない。きっと生きていてはいけないんだ。私は何も生まないし、与えることもできない。ただ普通に生きていたいと思うような人間だ。もっと相応しい人物に渡してくれ。)


いえ、それは違います。

あなたは言葉を話せる。

「言葉?」

思いがけない言葉に私は驚いた。

ええ

「君は言葉を話せないの。」

言葉は最上級の魔法、私にはそれは与えられていません。言葉は発語することで相手にも影響を与える事ができるものなんです。だから権利なら誰しもがある。


「 与えられると言ったけれど、君は作られたものなの。」


まぁ、そんなところです。


「でも、なんでそれが私なんかに。言葉を話せる点でいうなら選択肢など山のようにあるあだろう」


私自身は貴方とこうして会話をすることは想定していませんでした。

こうして、貴方と話しているのは私を作ったマスターにあるのでしょう。あいたた

「どうしたの?」


いえ、こっちの話です。ですがきっとあなただから与えられたのです。全てを慈しみ生きること。誰でもできることではありません。言葉などはなくてもそれはきっと伝わるものなのです。


「そうか、でも私、いや俺は」


「ああ、もうぐずぐず女々しすぎなんですけど。」

「ん」

「あぁ、やば声が出ちゃった」

「何か、今変な声が聞こえたような」

「変な声て言うな!全く近頃のはこうなのかしら」

女の人の声が聞こえてきた。

「いい、私はね探してたの。適合者を」

「適合者、俺が」

「そう、苦労したんだから、でもそれがこんなちんちくりんなんだって思わなかったんだもの」

「ちん・・ちんくりは酷い」

「ちょ」

「いや、まぁでもなんで俺が適合者なんだよ」

「 いちから、説明している時間はないんだけれどまぁ、いいわ説明してあげる、これはね禁断魔術なの」

「禁断、危なくないかこれ」

「知らないわ、やったことないんだもの」

「それって、危ないよな」

「大丈夫よ。私を信じて、ていっても信じてもらえないか」

「・・」

「でもね、あなたこのままいくと死んじゃうのよ」

(それは卑怯だ、でも彼女の言う通りだ。かけてみる価値はあるか・・・)

「確かにね危ないかもしれない、でもあなたには微弱ながら魔術とはいわないまでもそれに近いエネルギーを持っているの」

「エネルギー?」

「うぅなんて言うんだろう。生命エネルギー的な」

「俺はもうすぐ死ぬんだぞ、命の灯火も消えよう者にそれはないだろ。」

「そうなんだけど、人であって人ならざる、いや、違う。パワフリシュ・・・あぁ、ごめんなさい、説明が・・お父さん?」

何やらごたついているようだ。

「ちょっと、待って、どうしよ・・やるのやらないの」

ひとまおいて俺は少し、前に出て答える。

「やるよ俺は何かを生んだり、誰かに何かを与えたりすることはできないけれど・・・生きたい」

「ほら、きた。調子でてきたじゃない」

「行くわよ、準備して」


「いや、でも俺はやっぱりいいや」

「怖くないの、死ぬの」

真顔になった声で女の人の声が届く。

「怖い、でも俺はただ生きているだけで幸せだったんだ。もっと生きたいと思ってる奴はいると思う。そいつに譲るよ、んじゃ俺はこれで」

「ちょっと、あんた何処に行くのよ」

「こっちだろ、扉は」

「だめ、そこは開けちゃ」

静止の声にも耳をかさず扉を開けた。

「キィーーーーーーーーーーー」

あまりの奇声に思わず閉める。

「なにこれ」

「一方通行なの。」

「え、どういう?」

「だから、一方通行なの。そこしか通れないの」

「獣がうじゃうじゃいたぞ。死ねってか」

「お願いします。私このままじゃ」

「分かりました。死にます。じゃないよ。」

「それなら、大丈夫。私自身あるのです。」

「何をすれば」

能力を聞いてる余裕はないからイメージして

「分かった。やりますよ。」

刹那彼女は呪文なるものを唱え始めた。

「おいい、心の準備が」

そして、それと同時に体が揺れ、軋み出す。激痛が体に生じたのだ。

「くっ、いーーー」

耐えてください

ペンのメッセージにも気づかず、下を向き両手を地面に付け這いつくばるようにして耐える。体が引き裂かれ、焼かれるような痛みに襲われる。


詠唱によってだろうか体に青く光る無数の紋様が手先から網目状に、まるで浮き出た血管が増えたごとく現れる。

痛みで薄れゆく目でも分かるくらいそれは光り、やがて体全体に行き渡った。


「よし、一先ずできた。んじゃ年齢は14歳」

「14・・・」

聞き間違えかとも思ったが聞き返す力がなかった。

「顔や体は」

「くっ、その・・そのままでいい」

「そうくると思った」


こうしてあなたと話すことができて良かった。がんばってくださいね。私は応援してますから。

ペンの文字は俺には声のように入ってきた。

「座標は・・・」

「入るぞ」

「 ちょっ、待ってていったじゃない」

「全く君というヤツは、課題はやったのか」

「・・・」

「おいこれは」

「座標構築、ファクトマス・・・」

「君というものはまさか」

「ああ、間違えちゃった、ああ」


直後、俺は意識が薄れた。

「これは、まず・・」

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