第2話
それからというもの私は食事にもまともに手をつけられなかった。病は私の意志とは無関係に性格、心までも蝕んでいく。タイムリミットは刻一刻と迫ってきているのだから冷静な筈はなかった。
(私は強くないんだ。)
あくる日のこと。人一人と顔一つ分位の高さの窮屈な部屋、それでいてゴミが散乱しているリビングで私は仰向け寝転がり、天井を見つめていた。時計の長針の鳴る音だけが耳に聞こえてくる。私はずっとこの姿勢で朝から過ごす。午後1時を回った頃だ。このこと静かな部屋に珍しくインターフォンの音が鳴り響いのは。私は一瞬、驚くも急いで立ち上がろうとする。しかし、暫くまともに歩いてなかった足だ。もたつく。壁をつたってなんとか私は玄関へと向かっていく。特に、知り合いというものもなかったので、世知がない世の中だ。私は不安だったのでドアアイを通して外を覗きこむ。しかし、人の影が見えない。
(いたずらか、間違えかか。)
人がいないことを目と音で確認した上で、私はそれでも恐る恐るドアを開けた。
すると、白の封筒が足元に舞い落ちてきた。
封筒の表には私の名が記されていたが、送り主不明であった。私は糊を剥がし中を確認する。中には茶色の紙と12月24日行きの電車の切符なるものが同封されていた。
しかし、紙の方はというと白紙である。入れ間違いかと思い少しばかり、封筒の表面に目をやる。しかし、それをよそに白紙の手紙には黒い文字が浮かび上がってきた。私はそれに気づき、手紙を持つ。火など使っていないのであぶり出しでもないその現象に一瞬、恐怖を覚える。まるでマジック、いや俗に言う魔法たるそれに私は目を奪われつつ、それを読み進める。
歳晩の候、冷える中いかがお過ごしでしょうか。
ご丁寧に時候の挨拶より始まった。
−−−−−−−−−−−
貴方にお話しがあります。万象お繰り合わせの上、12月24日同封の切符をご使用頂きたく存じます。
文末まで読み終えるや否や文字は消え、白紙へと元通りになったが不思議と頭にその言葉が焼き付いていた。懇切丁寧な文が少し不気味さを醸し出すが、それよりも興味を惹かれている自分がいた。
12月24日、周りはカップルなどで犇めいている。この寒さは病人の体にはキツイ、厚着を沢山の着てきたが順応できていない。私は手紙に記されていたホームに行く。周りにも人がいる中、その電車を待つ。暫くするとお目当ての電車が来た。
しかし、いざ周りをみると電車には私だけが乗っている。クリスマスイブだと言うのに、そこはまるで外の世界と切り離された別世界のようだ。
(何でこの電車は一人なのだろう)
疑問もあったが、私は椅子の背もたれに寄りかかって寝ている。まるで一人旅でもしている気分に少しばかり心が踊っていたのだ。最後の旅路だと思いながら。不安など持ち合わせていなかった。死が近いからかもしれない、いやもう死んでいてこれは死後の世界かも知れないなど私の心は可笑しくなっていたからかもしれない。
幾分かたった頃だろうドアが開いているのに気づいた。
「うっ、着いた。」
すっかり寝てしまったようだ。しかし、時計を見ても時間は変わっていない。
(う?)
私は重い腰を上げ、ドアをでた。
(外はどうなっているのだろう。きっときれいなのだろう)
などと予想したが、外れた。私はいきなり黒い部屋にいざなわれたのだ。
光の届かぬ常闇に私の頭は混乱している。
(何なのだろう。)
その状態から開放されたのは数分後のことであった。
明かりが付いたのだ。とはいっても薄暗い部屋には変わりはなかった。
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