第108話 とっておきの場所


「ぐか~すぴ~」


「「「………………」」」


 ジーナとフー太を起こして、昨日中に準備していた荷物を持ってキャンピングカーの外に出る。


 すると昨日キャンピングカーの外にいたカルラは豪快ないびきをかいてまだ寝ていた。どうやら寝相はよくないらしく、元いたマットから離れた場所にいる。


 一応警戒用の鳴子があるとはいえ、屋外でよくこれだけぐっすり眠れるものだ。少なくとも俺よりも度胸があることは間違いないだろうな。


「カルラ、起きてくれ。今からアステラル火山に登るぞ」


「むにゃむにゃ……うん、こいつは冷たくてうめえぜ!」


「………………」


 もしかすると夢の中でアイスクリームを食べているのかもしれない。


 それにしても、口元からはよだれが出ていて本当に気持ちよさそうに寝ているな。少しだけ起こすのが可哀そうになってくるけれど、宿のおっちゃんに聞いた日の出の時間はたぶんもうすぐだし、そろそろ起こして先を進まないといけない。


「ほら、カルラ起きてくれ。そろそろ出発するぞ」


「う~ん。あれ、なんで俺ん家に誰かいるんだ?」


「ここはアステラル火山だ。アイスクリームや料理を渡す代わりに案内をしてくれるんだろう?」


「はっ、そうだ! あの甘くてうめえアイスクリームだ! あれっ、俺のアイスクリームはどこにいった!?」


「それは夢の中の話だろ。ほら、いくぞ」


 やはりアイスクリームの夢を見ていたようだ。


 キャンピングカーの周囲を張り巡らしていた釣り糸の鳴子を回収してキャンピングカーの中に入れてキャンピンカー自体を収納する。


「おおっ、あんなに大きかったものが一瞬で消えたぞ! こりゃすげえな。こいつは魔法か?」


「う~ん、魔法とは違うんだけれど、まあ似たようなものだ。他の人には秘密だぞ」


「ああ、わかったぜ」


 キャンピングカーについては俺自身にも分からないことが多いし、他の人たちには秘密だ。カルラがちゃんと他の人に黙っていてくれることを祈ろう。


 ちなみに昨日カルラが傷付けたキャンピングカーの上部は無事に自動修復機能で直っていた。やはり自動修復機能があるのはとてもありがたい。




「ほら、あともう少しだぜ!」


「カ、カルラ……わかったからもう少しペースを落として……」


「ああん、まったくだらしがねえなあ」


 カルラの案内により、残りあと少しのアステラル火山の山頂を目指しているのだが、進むペースがだいぶ速い。


 俺たちに合わせて空を飛ばずに歩いて先導してくれているのは分かるんだけれど、それでも速いぞ。ジーナとコレットちゃんは余裕っぽいけれど、俺はこのペースだと怪しい。


「シゲト、もう山頂が見えてきておりますよ」


「シゲトお兄ちゃん、頑張って!」


「ホホー!」


 ……さすがにみんなにそう言われてしまっては頑張るしかない。


 それにしても、みんなも昨日はだいぶ山を登ってきたというのに全然疲れが残っていないようだ。これが若さというものか……フー太に限っては年齢が分からないけれど。


「あれっ、山頂への道はこっちっぽいけれど?」


 ようやく山頂が見えたというところで、これまでずっと登ってきた登山道からそれて道のない場所に進もうとするカルラ。


「ああ。そっちもいいんだけれど、人が多いだろ。あのアイスクリームとかいう食い物の礼に俺がとっておきの場所へ案内してやるよ!」


「……わかった、ありがとうな」


 どうやら普通のコースとは違った場所へと案内してくれるそうだ。


 さすがにカルラについていったら大勢の盗賊が待ち構えていたなんて罠はないとは思うけれど、一応出会ったばかりだし、多少の警戒はしておかなければならない。……カルラの性格上そんなことはないと思うから、本当に念のためだな。


 俺もこの異世界に来てからだいぶ用心深くなってしまったものだ。まあ、いきなり魔物に襲われたり、フー太を狙う悪党がいる世界だし、警戒心は常に持っておいた方がいいのは事実なんだよね。




「おっ、到着したぜ。ほら、ここが俺様おすすめの場所だ。ちょうど日はそっちの方から昇ってくるから、ここだとちょうどいい感じで見えるんだ」


「へえ~確かにあっちから日が昇るんなら、ここからは綺麗に見えそうだな」


 カルラが少しだけペースを落としてくれたことで、なんとかみんなと一緒にアステラル火山の山頂にまで到着した。火山の火口の方はこちらから見えないが、一昨日泊まった宿屋のおっちゃんが言うには火山の火口は山頂から少し歩いた場所にあるらしい。


「普通のやつらはあっちの方から見るんだけど、こっちの方が少し高い場所から見えるんだ。それにここには誰も来ねえから、静かでいいだろ?」


「シゲト、確かにあちらの方に他の人たちが見えますね」


「本当だ。いっぱい人がいるね」


「ホーホー」


「え~と……駄目だ、俺には見えないな」


 どうやらここから少し下に見える平たい場所には他の山頂で日の出を見ようとしている観光客がいるらしいのだが、まだ日が昇っていなくて薄暗く、遠く離れた観光客は見えなかった。


 ジーナとフー太の目が良いのは知っていたけれど、コレットちゃんも目が良いんだな。確かにここからあの観光客がいる場所へはゴツゴツとした岩場になっているから、さっきの道をこっちに来ないとここには来られないのだろう。


「確かに誰もいなくてとてもいい場所だな。教えてくれてありがとうな、カルラ」


「へへっ、昨日はうまい飯を食わせてもらったからな」


 正直に言うと、火山の案内と言っても登山道は整備されていてあんまり案内をしてもらう意味はないかと思っていたけれど、これは嬉しい誤算だった。

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