第107話 案内役


「先ほどの鱗はかなり硬く、魔力の通りも良さそうなので、確かに街へ行けば買い取ってくれるかもしれませんね」


「なるほど」


 俺には分からないけれど、どうやらカルラの鱗は価値がありそうな素材らしい。龍人族は珍しい種族らしいし、鱗が定期的に抜け落ちてそれが売れるなら、確かに狙われる理由にもなりそうだ。


 たぶんアステラルの村の宿屋のおっちゃんが彼女の種族を俺たちに言わなかったのはそういうことだろう。あんまりそのことを広げてしまうと、彼女を狙ってあの村に悪党が集まる可能性もあるもんな。


 まあカルラは空も飛べるし、戦闘にも自信がありそうだったから、よっぽどのことがなければ大丈夫そうにも見えるが。


「悪い子じゃないみたいだし、アステラル火山までの案内もできるようだから、俺は明日同行してもらいたいけれど、みんなはどう思う?」


「僕は大丈夫だよ。ちょっとだけ怖いけれど、悪い人じゃなさそうです」


「ホー!」


 コレットちゃんとフー太は大丈夫そうだな。


 フー太は元気のいい返事をしながら右の翼をピンと上げた。


「案内は構わないのですが、みんなの護衛には私がいます!」


「……そうだね、護衛はジーナがいるから大丈夫だな。カルラには案内をお願いしようか」


「はい、それなら大丈夫です!」


 どうやらジーナはカルラに護衛として同行してもらうことは許せなかったらしい。確かにジーナは俺とフー太の護衛ということで一緒に同行してもらっているわけだから、そういう気持ちがあるのも当然と言えば当然か。




「それじゃあカルラ。明日アステラル火山の道案内をお願いするよ。その報酬に明日の朝昼晩の食事を渡すということでどうだ?」


「ああ、もちろんオッケーだぜ。あのアイスクリームってやつだけは頼む!」


「そんなに気に入ったのか……あれを作るのにはちょっと時間がかかるから、明日までは待ってくれよ」


「おう、わかった」


 アイスクリームが固まるまでには数時間かかるし、冷凍庫に入れて固めながら途中で何度かかき混ぜないといけない。今日の夜に何度かかき混ぜておくか。


 とりあえずカルラもそれについては了解してくれたようだ。


「明日はまだ暗い時間帯に起きて、山頂まで登って日の出を見る予定だ。そういえばカルラはどこに住んでいるんだ? あっ、言いたくなかったら大丈夫だぞ」


 朝早くに起きて山頂を目指すため、朝起きたらここに集合してほしかったのだけれど、カルラは山のどこに住んでいるのだろう。


「ああ、別に構わねえぜ。どうやらシゲトや他のやつも俺を狙っているわけじゃねえみたいだからな。ここからもうちょっと上の方にちょうどいい洞窟があって、そこを寝床に使っているんだ」


 どうやら洞窟を家として住んでいるようだ。


「だけど朝起きられるかは自信ねえな……このキャンピングカーとかいうやつの前で寝てもいいか?」


 ただ、朝早く起きてここまで来ることは難しいらしい。確かに俺も目覚ましのアラームがなければ、まだ日が登る前の暗い時間に起きられる気はしないな。


「……ああ、大丈夫だ。寝具はあるから、それを使ってくれ」


「そいつはありがてえ」


 さすがにさっき出会ったばかりのカルラをキャンピングカーの中に入れて眠ることは少しためらわれる。カルラには悪いが、キャンピングカーの外で寝てもらうとしよう。


 寝袋とマットはあるから、それを使ってもらえばいい。さすがに土や岩場のこの場所でそのまま寝るよりは遥かにマシなはずだ。


 キャンピングカーの上部にいきなり衝撃が走った時は何事かとも思ったが、とりあえず戦闘にならなくてよかったよ。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ピピピッ、ピピピッ


「……ふあ~あ」


 なんとか目を覚まし、アラームの音を止める。


 なんでアラームなんてかけていたんだっけ……?


 そうだ、今日はアステラル火山に登って日の出を見に行くんだった。


「ホー……」


「おはよう、フー太」


 フー太もまだ眠そうだけれど、先ほどのアラームの音で目覚めたようだ。翼で目をこすりながら眠そうにしている様子は可愛らしい。


 この場所は暑いこともあってか、今日は小さいまま眠っていたみたいだな。あの大きなもふもふボディはとても温かくて一緒に寝ると幸せなのだが、この場所だとさすがに暑くて眠れなくなってしまいそうだ。


「シ、シゲトお兄ちゃん。い、今の音は!?」


「ああ、昨日話していたアラームだよ。驚かせちゃったね」


 今のアラームの音で、キャンピングカーの一番後ろにある寝室のベッドで寝ていたコレットちゃんが起きてしまったみたいだ。耳をピンと張ってキョロキョロしている。


 コレットちゃんは耳がとてもいいから、あの音は少しうるさかったのかもしれない。


「そ、そうだ。今日は朝から山頂に登るんだっけ」


「うん。朝食は山頂で作るから、ジーナを起こして先に進もう。そうだ、カルラは大丈夫かな?」


 ジーナの方はさっきのアラームの音でも起きていなかった。すぐに止めちゃったし、昨日は山を登って疲れていたのかもしれないな。


 一応いつものように鳴子を仕掛けていたけれど鳴らなかったし、もともとこの辺りは魔物の数が少ないこともあって、今日は魔物に襲われずすんだようだ。さて、山を登る準備をして山頂を目指すとしよう。

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