第106話 アイスクリーム
実は牛乳を使った手作りのアイスクリームは結構簡単である。
牛乳、砂糖、卵を入れて空気を含ませるようによく混ぜ合わせ、鍋に入れて弱火で煮たたせないようにじっくりと加熱していく。あまり高温すぎると卵が固まってしまい、滑らかな食感でなくなってしまうから要注意だ。
ゆっくりとかき混ぜていくととろみがついてくるので、火からおろして濾してパットに入れ、そのまま冷凍庫で1時間ほど冷やす。全体が固まってきたらスプーンで全体を混ぜてもう一度冷凍庫へ。あとは一時間後にもう一度混ぜて、ちょうどよい柔らかさに固まったら完成だ。
手順はそこまで難しくないけれど、牛乳の乳脂肪分によってはうまく固まらずに硬く舌触りも滑らかにならないらしい。乳脂肪分の多い生クリームを使用するのがいいようだけれど、このホワイトブルの乳は脂肪分が多いようだ。
ホワイトブルの乳はバターもできるし、アイスクリームもできるし、いろいろと役に立ちそうだ。また街で売っていたら購入してアイテムボックス機能で収納しておくとしよう。
「……シゲト、このアイスクリームというお菓子をもう少しだけいただけないでしょうか?」
「シゲトお兄ちゃん、僕ももうちょっとだけほしい!」
「ホー!」
3人がお代わりをご所望のようだ。コレットちゃんも正直にそう言ってくれるようになったのは良い傾向である。
「お、俺も余っていたらでいいから、もう少しだけくれないか?」
どうやらみんなお代わりがほしいようだ。さすがにカルラの方は申し訳なさそうにそう言ってきた。
「残念だけれど、今日はこれだけしかないんだ。材料費はそんなにかからないけれど、冷やして固める時間が必要だからまた明日だね」
俺がそう言うとみんなとても残念そうにしている。それに冷たいアイスを一気に食べるとお腹を壊してしまうから、普段の食事とは違ってほどほどにしておかないといけない。
ホワイトブルの乳でアイスクリームができることは確認できたし、今度は倍の量で作ってみよう。とはいえアイスクリームが固まるのには数時間かかってしまうから、今日の夜のうちに仕込んでおいて、食べるのは明日のお楽しみということにしておくか。
アイテムボックス機能でたくさん収納しておけるけれど、キャンピングカーにある冷凍庫はそれほど大きくないから、1回でこの倍くらいの量が限界だ。それと高価な砂糖を自動補給機能で賄えるのはありがたい。
「……明日か。なあ、シゲト。俺も一緒についていってもいいか?」
「えっ、カルラも?」
「ああ。さっきの天ぷらとかいう料理はうまいし、アイスクリームとかいう菓子は初めて食ったけれど、めちゃくちゃ甘くてうまかった。頼む、もう1回だけ食いたいんだ!」
「ええっと……」
よっぽどアイスクリームがおいしかったのか、明日もついてきたいというカルラ。
この辺りに住んでいるようだし、時間はあるみたいだけれど、どうしたものかな……
こちらの食料は有限だし、明日だけならまだいいけれど、俺たちがここにいる間中ずっと食事がほしいと言われたらさすがに困る。お金を持っていないみたいだし、こちらだけが与え続けるのはお互いにとって良くないだろう。
「俺はこの辺りに住んでいているから道案内もできるし、護衛もしてやれる。あとはこれをやるから頼むよ!」
そう言いながらカルラは自分のポケットから十五センチメートルくらいの赤い鱗のような物を取り出してテーブルの上に置いた。
見たところお金ではないように見えるけれど。
「こいつは俺の鱗だ。龍人族の鱗は数か月に何枚か生え変わる。金は持っていないけれど、街でこいつを売れば多少の金になるはずだぜ」
カルラが背中を見せてくる。上はタオルのような布を巻いているだけなので、カルラの背中に赤い鱗が生えていることが見えた。
カルラの髪と同じ真っ赤に燃える炎のような赤色の鱗。軽く触ってみるとかなり固い。魔物の素材が売れるみたいだし、鱗が売れても不思議ではないだろう。
「売れる鱗を持っているなら、売ってお金に換えて食料を買えばよかったのに」
「バ、バカ! 抜け落ちた鱗なんて、できる限りは人に渡したくねえんだよ!」
「そ、そうなのか。それは悪かった」
よく分からないけれど抜け落ちた鱗はあまり売りたくないらしく、少し顔を赤くして顔を背けている。人族に置き換えると切った髪とか伸びた爪とかの感覚なのかな?
俺だったらまったく気にせず売ってしまいそうだけれど、カルラは女の子だし、種族特有の習慣なんかもあるかもしれない。
「ちょっとだけみんなで相談するから待っていてくれ」
「おう、もちろんだ」
さすがに俺だけでは判断できないから、カルラから少し離れた場所でみんなと相談をする。フー太はカルラの言葉が分からないので、改めて説明した。
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