第104話 龍人族


 キャンピングカーの上に堂々と立っている少女は背中から真っ赤な翼が生えていてトカゲのような尻尾があった。


「……これは魔物じゃなくて、俺が召喚したキャンピングカーという魔道具の乗り物だ。君を攻撃するつもりはないから、戦意がないなら攻撃はしないでくれ」


 先ほどこの子はこのキャンピングカーを魔物と言っていた。確かに今まで初めてこのキャンピングカーを見た全員が魔物と勘違いをしていた。この子も魔物と間違って攻撃してしまっただけなら、戦闘は避けられるかもしれない。


「すまねえ、あまりにもいい匂いがしてきたから、うまそうな魔物だと思って攻撃しちまった。そりゃ悪かったな」


 そう言いながら少女は両手を挙げて、攻撃をする意思はないと俺とジーナに伝え、キャンピングカーの上から飛び降りてきた。


 どうやら戦う意思はないみたいなので、少しだけほっとした。


「……シゲト、気を付けてください。この者はかなりの強者です!」


 しかしジーナの方はまだロングソードを構えたままで赤い髪の少女へ剣を向けたままだ。


 うん、俺もこの異世界に来てからしばらく経ったし、見た目が少女だからと言って惑わされたりはしていない。


「悪い悪い。食えねえ魔道具なら、もう攻撃はしねえから安心してくれ。ただ、この魔道具を弁償する金はねえから、もしもそいつを身体で払えってんなら相手になるぜ」


 ……いや、いきなり何を言っているんだこの子は?


「別にあなたのような者の身体などいりませんが」


「そうなのか? よく分からねえが、俺は珍しい種族みたいだから高く売られるみたいなことを聞いたことがあるぞ」


 ああ、身体で払うってそういうことか。どうやらジーナもこの子も俺が考えていた意味とは違う意味で言っていたらしい。


「……うん、多分これくらいの傷なら大丈夫だ」


 ジーナがロングソードを構えて少女に向かい合っている中、俺はキャンピングカーの後ろにあるハシゴから登ってキャンピングカーの上部を確認する。


 少し凹んでいるけれど、おそらくこれくらいの傷なら自動修復機能で直るに違いない。一番気になっていたソーラーパネル部分も無事だ。一応自動修復機能を取ってからソーラーパネルに少しだけ傷を入れて直ることは確認したから大丈夫だとは思うけれど、ソーラーパネルはキャンピングカーの電力を補給するうえで必須だから心配だった。


「……シゲト、おそらくこの少女は今朝宿の人が言っていた子ではないですか?」


「えっ? ああ、そういえば髪が赤いって言っていたな!」


 これまでの展開があまりにも過ぎてすっかり忘れていたけれど、そういえば今朝宿のおっちゃんに言われたことを思い出した。


 最近アステラル火山に住み着いた赤い髪のやつってこの少女のことか。なんとなく男だと勝手に思っていた。確か悪いやつじゃなくて、こちらから何もしなければ害はないと言っていたな。


 さっきの攻撃は魔物と間違えていたようだし、人に危害を加えるつもりだったわけではないのかもな。


「ああ、村のやつらに何か聞いていたか。俺もこの辺りで過ごさせてもらう代わりに暴れないって約束してっからよ」


「ジーナ、とりあえず大丈夫そうだから剣を降ろしてあげて」


「……はい、分かりました」


 どうやらジーナもこの子に敵意がないということが分かったようで剣を収めてくれた。


「シゲトお兄ちゃん、ジーナお姉ちゃん、大丈夫!」


「ホー!」


 コレットちゃんとフー太が俺とジーナを心配してキャンピングカーのドア越しに声を掛けてくれる。


「間違えて攻撃されただけだから大丈夫だよ」


 とはいえ、一応警戒は怠らない。ジーナが言うにはこの少女はかなり強いみたいだからな。


「……本当にこの辺りで暮らしているのですか?」


「ああ、そうだぜ。どうやら俺みたいなって種族はだいぶ珍しい種族らしくてな。村や街にいるとたまに襲われるんだよ。そういう連中は全部返り討ちにしてんだけれど、その度にいろいろとぶっ壊して怒られちまってな。今はのんびりと一人旅中だ。そういうあんたもエルフみたいだし、ちっとは俺の気持ちも分かるんじゃねえのか?」


「幸い私は暮らしている村に恵まれたようですが、珍しい種族が狙われるというのは知っています」


 たぶんジーナはフー太のことを言っているのだろうな。それを聞いてどうやらジーナも少し警戒レベルを下げたようだ。この世界の文明レベルだと希少な種族は本当にいろいろと厳しいらしい。


 それにしても龍人族か……


 確かに言われて見るとドラゴンと人が混ざったような姿をしている。赤い瞳にドラゴンの翼、尻尾もトカゲじゃなくてドラゴンだったらしい。頭からは白い2本の角が生え、口元からは鋭い牙も見えている。


 ……しかし、その露出の多い服はどうにかならなかったのだろうか? たぶんこの辺りが暑いからだろうけれど、下は水着みたいに面積の少ない服で上はタオルみたいな布を巻いているだけだ。背の割に胸がかなり大きいから、少しだけ目のやり場に困る……


 ぎゅるるるる~


「「………………」」


「わりい、もしなんか食いもんがあったら分けてくれねえか?」


 話をしている最中にドラゴン娘のお腹が盛大に鳴った。


 なんだか初めてジーナやコレットちゃんと出会った時みたいだな。この世界の住人はお腹に正直なようだ。

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