第103話 襲来
「うん、これはいけるな!」
「……っ!? 外側はサクサクとしいて、中から温かくて柔らかな食材が飛び出してきます! 野菜に魚の切り身にダナマベアの肉となんにでも合いますね。それにこのタレがとてもおいしいです!」
「はふっ、はふっ。熱いけれどおいしいね!」
「ホホー♪」
サクッとした衣の歯ごたえと、熱されてアツアツとなった食材がたまらない。こちらの世界の小麦粉と卵で作った天ぷらの衣も問題ないみたいだな。食材自体が本当においしいから味付けは本当に少しでいいな。
個人的に野菜の天ぷらは塩で食べ、魚の切り身や肉は天つゆを付けて食べるの好きなんだよね。明日の朝は早いけれど、今日はちょっとだけこっちのエールを飲んじゃおう。
さすがに冷房の効いたキャンピングカーでアツアツの天ぷらを食べたら絶対に酒は必要である。異論は認めない!
「かあああ、これは効くなあ!」
以前街で購入していた異世界のエールをアイテムボックスから出して、少しだけ冷蔵庫に入れて冷やしておいた。晩ご飯を作る間だけ冷やしていたからキンキンというわけではないけれど、それがむしろ異世界のエールにはちょうどいい温度だ。
というか、一日中山を登ってヘトヘトになったあと飲む酒はうまくないわけがない! 今日はもしかしたら異世界に来てから一番疲れたかもしれないもんな。とはいえ、飲み過ぎると絶対に明日の朝が起きられないから一杯だけにしておこう。
「ホー!」
「そうか、フー太も気に入ってくれたみたいだな。確かにオイオマスの切り身の天ぷらもうまいよな」
フー太がくちばしで指したのはオイオマスの切り身の天ぷらだ。この鮭のような魚の魚卵もおいしいけれど、切り身をムニエルにしたり天ぷらにしてもおいしい魚だな。
どうやらフー太はそれが一番のお気に入りのようだ。
「私はこちらのダナマベア肉の天ぷらが好きですね。弾力もあって、噛みしめるたびに中からおいしい肉汁が溢れてきます!」
「僕もこっちのお肉が一番好き!」
ジーナとコレットちゃんはダナマベア肉の天ぷらが一番なようだ。クマ肉の天ぷらを食べるのは初めてだけれど、意外と天ぷらにも合うようだ。元の世界でも鶏肉の天ぷらのかしわ天、豚バラ肉の天ぷらなんかはうまいから、肉も天ぷらと合うに決まっている。
個人的には野菜の天ぷらがかなり好きだ。肉や魚も間違いなくおいしいけれど、ハーキム村で採れたての野菜は本当においしいから天ぷらにすると、それがより分かるんだよね。
「ふう~おいしかった。残りはアイテムボックス機能で収納しておくから、今度また食べようね」
「はい。とってもおいしかったです!」
「うん、また食べたいね!」
「ホー!」
みんないつも以上にお腹が空いていたようで、いつもよりも天ぷらを食べていた。いちおう3食分でたくさん作ったつもりだけれど、あと1食分くらいしかないかもしれないな。
でもまあ、コレットちゃんもあまり遠慮せずにお腹いっぱい食べてくれるようでいい傾向だ。子供はお腹いっぱい食べてこそである。
「それじゃあ今日はジーナが作ってくれた食後のデザートもあるからね」
「シゲトが言っていた菓子ですね。とても楽しみです!」
一応お腹の方は少しだけ空けてもらうように頼んでおいた。まあ、たとえお腹がいっぱいでもあのデザートは入るだろう。もしかしたらもう少し時間が経たないとだめかもしれないけれど、もう一度見てみよう。
本当に昔一度だけ手作りで作っただけだから、うまくできているといいんだけれどな。
「っ!? シゲトお兄ちゃん、上から何かが――」
「えっ!? うわっ!」
ゴオオオオン
コレットちゃんの黒い耳がピーンと張ったと思ったら、キャンピングカーの上部に大きな衝撃が走ってキャンピングカーが激しく揺れた。
「敵襲ですか!」
「ジーナお姉ちゃん、この上に何かいるよ!」
「ホー!」
「ジーナ、ちょっと待って!」
大きな振動によってテーブルに載っていたコップが倒れて水がこぼれる。しかしジーナはそれにも動じず、俺の制止を聞かずにロングソードを持ってキャンピングカーの外へ飛び出した。
くそっ、キャンピングカーの周囲には鳴子を仕掛けてあったけれど、キャンピングカーの上には警戒できていなかった。一瞬火山が噴火でもしたのかと思ったけれど、地揺れも噴火の音も聞こえなかったから、おそらく空を飛べる魔物かなんかだ!
「コレットちゃん、クマ撃退スプレーとナタを持ってきて!」
「はい!」
ジーナに遅れて俺も行動を開始する。いつでもここから離脱できるようにキャンピングカーのエンジンをかける。キャンピングカーの正面を見る限り異常はない。
「外の様子を見てくるから、コレットちゃんとフー太は中にいてくれ!」
「う、うん!」
「ホー!」
コレットちゃんが持ってきてくれた非常用のクマ撃退スプレーとナタを受け取ってキャンピングカーの外に出た。
「早くそこから降りてきなさい!」
「ジーナ、何が起きたの!?」
キャンピングカーの外へ出ると、そこにはロングソードを構えてキャンピングカーの上を見ているジーナがいた。
「……おいおい、随分と硬え魔物かと思ったら、魔物の腹の中からエルフと人が出てきたぞ」
キャンピングカーの上から声がしたので、そちらを見上げるとそこにはひとりの少女がいた。
燃えるような真っ赤な髪をサイドテールにしているまだ中学生か高校生くらいの少女は両手を腰に当て、キャンピングカーの上に堂々と仁王立ちをしていた。
もうすぐ沈みそうな夕陽を背にしたその少女の背中からはその髪と同じ真っ赤な翼が生えており、後ろにはトカゲのような尻尾が生えていた。
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