第102話 天ぷら


「よし、これくらい離れれば大丈夫かな。召喚!」


 8合目にあった山小屋からさらに少し進んだところで山頂までの道を外れて、観光客から見えなくなったところでキャンピングカーを召喚した。


 もちろんキャンピングカーはかなりの重量なので、召喚しても大丈夫そうな平らで足場のしっかりした場所を選んだ。


 山小屋の方を少しのぞいてみたのだが、宿泊費が高価なのと、客が多い部屋に雑魚寝で個室なんかもなかったため、防犯のことも考えてキャンピングカーで泊まることにした。


 まあ宿泊費が高くなるのは当然だな。元の世界でもそうだけれど、山の上にある山小屋は管理がとても大変だし、食材なんかを持ち運びするだけでかなりの労力を使ってしまう。それを考えると別にぼったくられている訳ではないと思うけれど、快適なキャンピングカーに泊まることにしたわけだ。


「はあ~疲れた。とりあえず、まずは冷房を入れて順番にシャワーを浴びて休憩しよう。晩ご飯はそのあと作ろうか」


「ええ、わかりました。それではいつも通り外に警戒用の鳴子を配置しておくので、その間にシゲトとフー太様でシャワーをどうぞ」


「ジーナお姉ちゃん、僕も手伝うよ!」


「……ありがとう。それじゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」


 いつもなら目的地に着いたらみんなで協力して晩ご飯の準備をするけれど、ジーナもコレットちゃんも俺に気を遣ってくれたようだ。間違いなく俺が一番疲れているようだし、悪いと思いつつもお言葉に甘えさせてもらうことにした。


 レディーファースト? すまん、そんなことを考えている余裕はないんだわ!




「ああ~さっぱりした! それにシャワーから出た時の冷房の効いた部屋は最高だし、シャワー上がりの冷えた水は最高だぜ!」


「ホー♪ ホー♪」


 フー太と一緒にシャワーから出ると、冷房の効いた涼しい車内の風がとても心地よく、冷蔵庫で冷やした水が疲れた身体に染みわたる。


 ここまでくるのにかなり疲れたのと、気温が上がって夏みたいになったこともあって、キャンピングカーの冷房や冷蔵庫のありがたさを再確認できた。こんな暑い中で山小屋に大勢で雑魚寝なんて絶対に無理だ。


「ジーナはまだ余裕そうだね」


「ええ、普段から森や山の中を歩いて慣れていますからね。とはいえ、最近はあまり運動をしていないこともあって、今日は多少疲れました。それにしてもこの冷房というものは素晴らしいですね! 外は暑いのにキャンピングカーの中は天国のようですよ」


「結構電気を使うから夜は切らないといけないけれどね。それでも冷房があるだけでだいぶ過ごしやすいよ」


 みんなには冷房や電気のことは簡単にだが説明してある。魔力を貯めて使用する魔道具のように貯めた電気を使って冷たいのと温かい風を出す道具と説明したら分かってくれたようだ。


 しかし冷房は電気をかなり消費するからな。このキャンピングカーの電力は車体上部にあるソーラーパネルと走行中の発電によって賄われている。アステラルの村へ到着するまで走った際にほぼマックスまで電力は貯めたけれど、寝ている時まで冷房を付けていたらすぐに電力がなくなってしまう。


 ちなみにコレットちゃんは今シャワー中だ。スペース的にキャンピングカーには更衣室がないので、シャワー室から出る時には前の運転席の方へと移動している。大抵はジーナとコレットちゃんがシャワーを浴びている際には外で料理をしているけれど、さすがに今日は暑すぎて外で料理をする気はしないから車内で料理をするつもりだ。


「やっぱり暑い時はあれが食べたいな。ジーナ、悪いけれど少し手伝ってね」


「ええ、もちろんです!」


 今日は晩ご飯の他にデザートも作るとしよう。俺よりも体力が残っていそうなジーナにも手伝ってもらうか。


 明日は暗いうちに出発して、山頂で朝日が昇るのを見る予定だ。いつもよりも早く起きるから、早めに晩ご飯を食べて寝るとしよう。




「できた。今日の晩ご飯は昨日話していた天ぷらだよ」


「うわあ~いい匂いだね!」


「ええ、それにこれは初めて見る料理です!」


「ホーホホー♪」


 今日の晩ご飯は日本の伝統料理である天ぷらだ。えっ、天ぷらの発祥はポルトガルで日本の伝統料理じゃない? 細かいことはいいんだよ!


 昨日温泉に入ったことにより、天ぷらと刺身が食べたくなってしまった。俺的には温泉で出てくる料理と言えば刺身と天ぷらなんだよなあ。


「野菜や肉や魚介類に衣を付けて油で熱した料理だよ。こっちの塩を少しかけるか、こっちの天つゆをつけて食べるんだ」


 天ぷら自体は食材を切って小麦粉、卵、冷水を混ぜた衣に食材を浸してから、熱した油に入れてカラッと揚げる。


 天つゆの方は万能調味料のめんつゆがあればそれを薄めるだけで完成だ。一から天つゆを作るよりもめんつゆを使う方が簡単でおいしいのである。


「みんなもたくさん手伝てくれてありがとうね。いつもよりもいっぱい作ったからたくさん食べてね」


 揚げ物は油を使ったり手間も掛かるから、そんなに頻繁に作る気はない。このキャンピングカーのアイテムボックス機能は収納しておけば揚げたての天ぷらがいつでも食べられるわけだから、今回は3食分くらいを一気に作って3分の2はすでに収納してある。


 食材を切って揚げるのは大変だったけれど、いつでも揚げたての天ぷらを楽しめるのは嬉しいところだ。今日以上に疲れ切って料理をする気力がない日もあるかもしれないからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る