第101話 登山


「アステラル火山の火口は山頂まで登れば見えるからな。今から登れば今日の夕方か夜には到着すると思うぞ。山頂と8割方登ったところには山小屋がある。宿代はちと高えが、その辺りで野宿するよりはマシだろうからな」


「なるほど」


 アステラルの村に泊まった翌日、昨日泊まっていた宿で朝食を食べていよいよアステラル火山へと登る。


 その前に宿のおっちゃんから細かい話を聞いているところだ。どうやら山頂までは結構な距離があるようで、日帰りで戻ってくるのは難しいらしい。もしかしたら体力のあるジーナとコレットちゃん、空を飛べるフー太だけなら日帰りも可能かもしれないけれど、生憎俺の体力は一般人に毛が生えたくらいだからな。


「ガイドみたいな案内人なんかはない感じですかね?」


「そういうのはねえな。心配しなくても山頂までの道は分かるようになっているし、魔物なんかもほとんど出ねえから安心しろ」


「わかりました」


 どうやらコレットちゃんのいたフェビリー村とは異なり、火口までの案内なんかはないみたいだ。やはり観光する場所によっていろいろと異なるらしい。


 道も分かりやすいうえに魔物が出ないなら大丈夫か。まあ案内がなくても最悪キャンピングカーのナビは見られるし、魔物が出てもジーナがいれば大丈夫だとは思うけれど。


「アステラル火山は登れば登るほど暑くなるからな。今の兄ちゃんの格好だとちと暑くなるかもしれねえから気を付けろよ」


 どうやらこの山は上へ行けば行くほど気温が上がっていくらしい。


 標高が高くなればなるほど寒くなるのが普通だと思うのだが、この世界は異なるのだろうか? いや、ただの山じゃなくて火山だから温泉の源泉みたいなのがそこら中にあったり、地熱なんかの影響で暑くなるのかもしれないな。


「ああ~それと大丈夫だとは思うが、最近アステラル火山の山頂付近に住み着いたやつがいてな……少なくとも悪いやつじゃねえし、こっちから手を出さなきゃ害はねえからちょっかいは出さないでくれ。ここらへんじゃあまり見かけねえ髪が赤いやつだから、たぶんすぐに分かると思うぜ」


「はあ、分かりました」


 よく分からないけれど、最近火山に住み着いた人がいるらしい。火山に住むとかなかなかのハードモードっぽいけれどな……


 まあ、たとえその人に出会ったとしても、こちらから喧嘩を売るようなことはしないし、みんなもそんなことはしないだろう。




「さて、それじゃあ気合を入れて登ろうか!」


「はい!」


「うん!」


「ホー!」


 そんなわけでいよいよアステラル火山の山頂へ向けて出発だ。


 自分で言っておいてあれだが、一番気合を入れないといけないのは俺である。ジーナとコレットちゃんは体力があってフー太は空を飛べるし、間違いなくこの中で一番体力がないのは俺だ。


 フェビリーの滝へ向かう森とは異なり道中に木々はないけれど、道はそれほど広くないからキャンピングカーで走ることはできない。みんなの足を引っ張らないように頑張るとしよう。


「フェビリー村の森で見たことのない草木がいっぱいあるね!」


「私も同じです。やはり生息している植物などは異なるみたいですね」


 言われて見ると確かにこれまでに見てきた植物とは系統が異なるみたいだ。森の雰囲気も若干異なるみたいだし、地面の土も色は違う気がする。


 やはり新しい土地を歩くのも楽しいものだ。




「あの辺りから岩場になっていますね」


「本当だ! 面白いね!」


「はあ、はあ……あれは森林限界と言って、あまりにも高度が高くて高い植物が育てなくなる境界線なんだよ。ここに来るまでに何種類かの木々も見なくなってきているはずだ」


「ホー!」


 森林限界とは高度や気温、湿度など様々な環境の影響を受けて高い気が育たず、森林とならない限界の境界線である。その境界線は山や地域によっても異なっているはずだ。


 例えば富士山では標高2500メートルほどで、北海道の山では標高1000メートルほどで森林限界があったりする。アステラルの村につくまでにキャンピングカーで結構登ってきて、さらにここまでだいぶ登ってきたのだろう。


 軽い休憩を挟みつつ、昼はアステラルの村で購入した軽食を食べてひたすらアステラル火山を登っている。少し道を外れてキャンピングカーを出して昼食を作ってもよかったけれど、料理を作る俺が一番疲労していたからな。


 ジーナとコレットちゃん、フー太はまだまだ元気そうだ。みんな本当に体力があるよなあ……


「それにしても、本当に下にいた時よりも暑くなってきましたね……」


「そういえばそうだね。確かにもう汗だくだよ」


 宿屋のおっちゃんが言っていたように、麓にいた時よりも気温が上がっている気がする。みんなは体力的に大丈夫なのかもしれないけれど、俺はもうすでに汗だくだ。


「あっ、シゲトお兄ちゃん、山小屋が見えて来たよ!」


「ホーホー!」


「本当だ。これで8合目までは登ってこれたみたいだね」


 コレットちゃんの指差す先には丸太で作ったと思われる山小屋があった。

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