第100話 温泉の料理
「シゲト、何ですかあの温泉というものは! キャンピングカーのシャワーもとても素晴らしかったですが、あの温泉というのも素晴らしかったです!」
「シゲトお兄ちゃん、温かいお湯でとても気持ちよかったよ!」
「ホーホー♪」
フー太と一緒に温泉から上がり、ジーナとコレットちゃんと合流して宿に戻ってきた。
どうやらみんな温泉を気に入ってくれたようだ。
「確か地面に染みた雨なんかの水脈が火山の地熱で温められて、それが地表に出てきたものが温泉と呼ばれるんだったかな。ただのお湯じゃなくて、火山の鉱石や硫黄なんかの成分も染みこんでいるからあんな匂いになるらしいよ」
温泉には火山性温泉と非火山性温泉に分かれているが、ここの温泉は間違いなく火山性温泉だろう。日本で言うと箱根温泉や別府温泉なんかがその代表例だな。
ジーナの言う通り、普通に濡れた布で身体を拭いたり川で水浴びをするよりもキャンピングカーの温水の出るシャワーは素晴らしいのだが、広い浴槽で身体を伸ばして温まれる温泉は格別なものである。
「よく分からないですが、確かにシゲトがあれほど興奮していた気持ちも分かります。あれほど気持ちのいいお湯が自然に湧き出てくるとは本当に世界にはさまざまなものがありますね」
「大きいマイセン湖もすごかったけれど、ここの温泉もすごいね! シゲトお兄ちゃん、本当にありがとう!」
「ホー!」
火山を観光に来ただけのつもりだったけれど、まさか温泉に入れるとは嬉しい誤算だった。これだから旅というものは面白い。
コレットちゃんも喜んでくれてなによりだ。それでこそフェビリー村から引き離した甲斐もあるというものだ。それにしても異世界に温泉があるのは本当にありがたいな。またこの辺りを通った時にはこの街に寄るとしよう。
「さあ、それじゃあ宿に戻って晩ご飯を食べようか」
「はいよ、お待ち。アステラル火山の温泉で煮た肉と野菜、こっちは源泉の蒸気で蒸した野菜だよ」
「おおっ、これはおいしそうだ!」
今日泊まる宿へ戻り、食事をお願いしてからしばらくするといくつかの料理が出てきた。宿に泊まる時の料理だけでは足りなそうなのと、いくつか珍しい料理もあったから追加で頼んでみた。
「これはおいしそうですね!」
「温泉で作った料理なんだね!」
「ホーホホー!」
出てきた料理は先ほど入った温泉を使って作った料理だ。
確か元の世界でも飲用の温泉もあったし、この温泉も飲める温泉らしい。さすがに温泉の定番である温泉たまごはなかったけれど、代わりに元の世界では食べたことのない料理が出てきた。
「ふむふむ、これが温泉で煮た料理と蒸した料理か。確かに普通の水で調理するのと違って独特な味が付いているね」
「少し不思議な味ですね。私は結構好きな味ですよ」
「う~ん、僕はちょっと匂いが苦手かも……」
「ホー……」
「コレットちゃんもフー太も無理はしないで別の料理を食べていいからね。俺はこの匂い嫌いじゃないかな」
温泉で煮た料理や源泉の蒸気で蒸した肉や野菜には独特の匂いが付いていた。俺とジーナは嫌いじゃないけれど、コレットちゃんとフー太はそれほど好きじゃないらしい。
確かに硫黄の匂いも少しあるから、駄目な人は駄目なんだろうな。特にコレットちゃんは獣人で嗅覚も鋭いから匂いにも敏感なのかもしれない。フー太はフー太で表情や鳴き声で気持ちがよく分かる。
めちゃくちゃおいしい料理という訳じゃないけれど、癖のある料理といった感じだ。好きな人は結構好きな味だと思う。
「温泉の料理だと天ぷらと刺身っていうイメージなんだよなあ」
「どちらも聞いたことのない料理ですね。どのような料理なのですか?」
「僕も聞いたことがないです!」
どうやら天ぷらと刺身という料理はジーナとコレットちゃんも知らないようだ。
「天ぷらは食材に衣を付けて熱した油に浸す料理だね。こっちの方はできそうだから、今度作ってみるよ。刺身は魚を生で食べる料理だからちょっと難しいかな。マイセンの街でも刺身はなかったからね」
食用油は街でも売っていたし、天ぷらはこちらも世界でも作れそうだ。魔物のラードから油を出すこともできるけれど、ラードの風味は天ぷらとは合わないと聞いたことがあるから、植物性の油で試してみようかな。
生の魚の刺身はマイセンの街でも売っていなかった。おそらくは寄生虫の問題の可能性が高い。本当は刺身を食べたいところだけれど、こればかりは我慢するとしよう。幸い魚卵の方は生で食べて大丈夫なものが少しあるからな。
旅をしているとおいしい料理だけではなく、こういったその土地の変わった料理なんかもあって面白い。それに一緒に旅をしているみんなの好き嫌いなんかも少しずつ分かっていくからいいものだ。
今日はゆっくりと温泉を楽しんだし、よく眠れそうだ。さあ、明日はアステラル火山へ行くとしよう。
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