第99話 温泉


「うわあ~おっきなお部屋だね!」


「ホー!」


 案内された宿の部屋は3人とフー太で泊まるには十分な広さの部屋だった。ベッドも4つあるし、4人用の部屋なのだろう。


「そんなにその温泉というものはすごいのですか?」


「ああ。俺の故郷では結構あるものなんだけれど、ここ最近はまったく入ることができなかったからね。キャンピングカーのシャワーもいいんだけれど、やっぱりお湯に浸かれるのはすごく気持ちいいんだよ。シャワーを浴びるよりも疲れがよく取れるし、夜もよく眠れるようになるよ。ジーナも一度入ってみれば絶対に気に入ると思うよ!」


「そ、そうなのですね……」


 若干熱のこもった俺の言い方に少し引き気味のジーナ。


 ちょっと熱く語ってしまったが、日本人にとって風呂や温泉は格別なのである。


「さあ、それじゃあ早速温泉へ入りにいこう」




「おお~ここが村の公共温泉か」


 宿から歩いて10分ほど。この村の中心辺りに木製の一際大きな建物が建っていた。


 さすがに温泉のマークはないけれど、暖簾が掛かっていて、一昔前の温泉街にある温泉のようだ。


「いらっしゃいませ! この温泉では武器の持ち込みが不可となっております。こちらで男女に分かれてお進みください」


 宿のおっちゃんに聞いていた通り、ここの温泉は武器が持ち込み不可で露天の温泉になっている。


 そして残念ながら、混浴はなく、男女に分かれるようだ。


「それじゃあジーナ、コレットちゃんあとでね」


「はい、シゲト。フー太様もお気を付けください」


「シゲトお兄ちゃん、フー太様、またあとで!」


 温泉の入り口でジーナとコレットちゃんと別れる。


 この温泉は武器の持ち込みができなく、なおかつ露天の温泉となっているので、いざとなれば空に逃げればフー太の護衛は必要ないという判断でフー太は男湯に入っている。そもそもこの地域だとウッズフクロウはそこまで敬われているわけでないらしいからな。


 ……もちろん女湯に入れるフー太が羨ましいからこっちに来てもらったわけではなく、フー太にどうするか聞いたところ、俺と一緒に入ってくれることを選んでくれた。


 もしかしたら3対1になったら俺が寂しいと思ってくれたのかもしれない。うん、フクロウなのにいい子だよフー太は!


「おお~温泉だ!」


「ホー!」


 早速服を脱いで温泉に入ると、中には木の板で仕切られた中に真っ白な湯気の立ち上る温泉があった。


 ちょうど太陽が沈みつつある暁色の景色の中の温泉というのも良いものだ。


「先に身体を洗ってから湯船に入るんだ」


「ホー♪」


 温泉の横には洗い場があり、こっちの方にも少量の湯が張ってあった。ここで身体を洗ってから温泉に入るのだろう。


 アステラル火山が観光地ということもあって、洗い場には結構な人がいる。ドワーフや獣人や人族が混じって身体を洗っている様子は異世界らしい。


 もちろん元の温泉の様に鏡やシャンプーやリンスなんかはなかったが、それでもこの温泉があるだけで十分だ。持ってきたタオルとキャンピングカーにあった石鹸を少しちぎったものを使って身体を洗う。


 掛け湯をしてから先に温泉へ入るのもいいが、俺はいつも身体をしっかり洗ってから湯船に浸かる派だ。


「ホー♪ ホー♪」


「シャワーもいいけれど、空の下で身体を洗うのもいいものだなあ」


 キャンピングカーでシャワーを浴びることができるのはとてもありがたいのだが、どうしてもキャンピングカーのシャワー室は窮屈だからな。こうやって座って身体を伸ばしながら洗えるのは幸せなことである。


 フー太も普段はシャワー室のタオル掛けの部分に立ってもらって少し窮屈に身体を洗っていたから、今日はいつもより気持ちが良さそうだ。


「よし、湯船に入るぞ」


「ホー!」


 身体を綺麗にして、いよいよ湯に浸かる。


 ここの温泉は湯船が大きめの湯船と小さめの獣人用に分かれていた。どうやら獣人さんは抜け毛がかなりあり、すぐに湯船が毛だらけになってしまうので、その他の種族が入る温泉に分かれているらしい。


 ちなみにフー太が温泉に入っていいかはすでに確認済みで、獣人用の温泉に入れてくれとのことだった。


 う~む、このあたりはさすが異世界といったところだ。


「ああああああ~これだよ、これ!」


「ホーホーホー!」


 身体の隅々まで行き渡る熱い湯、まるで身体中の疲れが温泉の中に溶け込んでいくかのような感覚、この硫黄特有の温泉らしい香りはまさに元の世界の温泉だ!


 思わず変な声が出てしまった。すぐ隣にある獣人用の温泉に入っているフー太もとても気持ちよさそうだ。


「ありゃ、フー太にとってはちょっと深すぎるのか。そうだ、ちょっとこっちに来てくれ」


 とても気持ちいい温泉だったが、フー太に温泉の浴槽は少し深すぎるようで、パシャパシャと泳ぐような形になってしまっている。温泉で泳ぐのはマナー違反だからな。


「ホー♪ ホー♪」


「おお、ぴったりだな!」


 俺が使っていたこの温泉にあった木製の桶にこっちの温泉を汲んであげた。そしてその桶にフー太が入ると小さな温泉が出来上がった。


 この桶の中ならフー太の足も付くし、ちょうど全身が浸かれるちょうどいいサイズみたいだ。


 桶の中でくつろいでいるフクロウのフー太は可愛いなあ。あとは小さな手ぬぐいを額に載せれば完璧といったところだ。


 それにしても、まさか異世界でも温泉が存在するとはありがたいなあ。うん、この街にまた何度もお世話になることは決定だな!

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