第98話 アステラルの村


「あれがアステラル火山か」


「この距離からあれほど大きく見えるということはかなり大きな山なのですね」


「うわあ~おっきいね!」


「ホー!」


 俺たちの先にはとても大きな山が見える。ジーナの言う通り、この距離から見えるということは実物の火山はもっと大きいのだろう。下手をしたら富士山くらいあってもおかしくない。


 これは登るのも一苦労になりそうだ。


 それにしても、この世界の滝や湖や火山はそのすべての規模が大きいな。小さな島国である日本と規模がデカいアメリカの違いみたいなものだろうか。アメリカのグランドキャニオンとか本当に何もかもがデカくて広いんだよ。




「ここの村はフェビリーの村とはだいぶ違うね」


「ええ。ですがこちらのほうが普通の村に近いのでしょうね」


 時刻は夕方。


 いつものように村の人や周囲にいる人たちに怪しまれないよう、途中でキャンピングカーを降りて歩いてアステラルの村まで歩いてやってきている。


 昨日出会った行商人のヘーリさんのように魔道具や召喚魔法としてもいいのだが、変な騒ぎは面倒だから、念には念を入れておいた。


 そしてこのアステラルの村にまでやってきたわけだが、コレットちゃんがいたフェビリーの村の様に観光客を呼び込んだり、大々的にアステラル火山を押し出しているわけではなかった。


「まあ、あんまり煩わしくなくていいかもしれないね。とりあえず宿を探してみよう。あんまり高いようだったら、一度村を出てキャンピングカーで野営しようか」


 今回はフェビリーの村での経験を活かして夕方に村へ入った。というのも、前回は朝フェビリー村に入ったところ、観光をするお客さんたちはその時間帯には全員出発していたし、ガイド役の人がすでにほとんどいなかった。


 そのおかげでコレットちゃんと出会えたということはあるのだが、今回は他の観光客の人たちと同じで、夜にこの村で一泊して明日の早朝からアステラル火山目指そうという話になった。


 あまりにも観光地価格だったら、迷わず村の外で野営すると思うけれどな。


「すみません、4人で一泊いくらですか?」


「らっしゃい、うちの店は晩飯込みで1人銀貨9枚だよ。ほう、なんとも面白い旅人さんたちだな。そっちのフクロウさんは銀貨5枚で金貨3枚と銀貨2枚でいいぜ」


 1人あたり銀貨9枚か。マイセンの街の銀貨7枚よりも高いけれど、フェビリー村の金貨2枚よりも全然マシだ。食事もついてこの金額なら十分許容範囲内だ。


「それじゃあ、それでお願いします」


 みんなに目配りをして確認をしてから金貨3枚と銀貨2枚を宿の主人のおっちゃんに渡す。


「毎度あり。それにしてもフクロウと一緒とはな。それとエルフと獣人と一緒とはおもしれえ面子だな」


「いろいろとあってみんなで旅をしています。そういえばウッズフクロウって知っています?」


「ウッズフクロウ? いや、知らねえな。もしかしてそのフクロウは珍しいやつなのか?」


「ホー?」


 フー太が首を傾げる。自分のことを話しているがおっちゃんが何を言っているか分からないのだろう。相変わらず可愛らしい。


 どうやらこの人はウッズフクロウを知らないようだ。


「ええまあ。別の地域だと森の遣いとして有名だったみたいなので」


「なるほどな。この村だとあんまり森の恵みがなくて、そこまで森に感謝は捧げてねえからそのせいかもな」


「ああ、そういうことでしたか」


 この辺りはかなり標高が高く、アステラル火山の上の方に至っては自然の緑色がまったく見えなかった。確か森林限界と言って、あまりに標高が高いとそこには森を形成する植物が成長できないらしい。


 日本の富士山とかでも、ある一定の地点を境にして緑が一気になくなるから結構面白いんだよな。それより上になると高山植物と呼ばれる特殊な条件下で成長する植物なんかもあるらしいが、あんまり高所になると森の恵みは少ないのかもしれない。


 森や森の恵みが少ない地域だとあんまり森を崇めたりすることが少ないのかもしれない。黒狼族のコレットちゃんを見てもとくに何も言われないし、そのあたりの風習なんかはあまりない地域なのかな。


「飯は先にするか? それともに入ってからにするか?」


「温泉!? この宿には温泉があるんですか!」


 いきなり振って出てきたワードに反応して、つい大きな声で返してしまった。


「び、びっくりしたな。おう、この宿にってわけじゃないんだが、この村自慢の大きな温泉があるんだよ。この村の宿に泊まっているやつは全員入れるようになっているぞ。あとで木札を渡すから、そいつを見せるといい」


「はい、分かりました!」


 うわ、マジか! まさか異世界で温泉に入れるとはな!


 そうか、火山と言えば箱根とか別府とかと同じ火山性温泉があっても不思議はないもんな!


 マイセンの街では火山の美しさばかりが有名だったけれど、温泉があるという情報は聞いていなかった。こういうことがあるから旅は面白いんだよ!


 キャンピングカーのシャワーももちろん十分に気持ちいいが、この世界に来て初めて入る温泉だ。これは楽しみで仕方がない。温泉を含めての料金なら銀貨9枚は全然安いぞ!

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