第97話 ライト


「そこだ!」


 カランカランと音が鳴る鳴子の方へ持っているアウトドア用のライトを当てる。


「キャン!?」


「ワオン!」


 最近のアウトドア用のライトはとても強力なものが多く、下手をしたら一昔前の車のヘッドライト並みの光量がある。俺が持っているライトも何千ルーメンというかなり強力なものだ。


 月明かりくらいしかないこの世界で、夜目の効く魔物がこのライトの光を直接見たら、当然目が潰れるくらい眩しくなる。


 三体のオオカミ型の魔物は気を取られていた鳴子からこちらの方を一目見てすぐに目線を逸らした。


「はあっ!」


 ザンッ


「ギャンッ……」


 そして剣を持ったジーナが怯んだオオカミのもとへと突っ込み、一体を斬った。


 俺の方はライトの方向をジーナに当てないように下の方へと向ける。ジーナの眼もまだ暗闇に慣れているから、気を付けないとジーナも某大佐状態になってしまう。


「キャンキャン!」


「キャオン!」


 残った2匹のオオカミ型の魔物は1体がやられたこともあって、すぐに撤退していった。


「……よし、ジーナ。もう追わなくて大丈夫だよ」


 オオカミ型の魔物がここから完全に立ち去ったところで、戦闘態勢を解く。


 どうやらオオカミは仇を取るよりも逃げることを選んだようだ。まああのオオカミからしたら、何が何だか分からなかったのかもしれない。


 この世界は弱肉強食の世界だし、危険のある魔物は排除しなければならない。向こうから俺たちに直接手を出してこなくとも、危険がある時点で先手必勝でこちらから攻めていかないとな。ここはそういう世界だ。


「2体は仕留めそこないましたか。みなさん怪我はないですか?」


「大丈夫だよ!」


「ホー!」


「ああ、ジーナのおかげで大丈夫みたいだ」


 こちらに怪我はないようだ。


 俺の方はというとライトを敵に当てジーナの援護をしつつ非常時にはキャンピングカーで逃げる用意、コレットちゃんは何かあった時のためにクマ撃退スプレーを発射する用意、フー太は夜目が効くらしいので、ジーナの援護をしてもらうつもりだった。


 今回は最初の段階で敵が撤退してくれて助かったよ。


「それじゃあこいつの解体は明日の朝にしよう。鳴子の方は所々噛まれちゃっているけれど、音は出るからそのまま使えそうだな。こっちも明日の朝細かく見てみよう」


「分かりました」


「うん」


「ホー!」


 さっき時計を見たら、時刻は2時でまだ周囲は真っ暗だ。この倒したオオカミ型の魔物は一旦収納機能で保存しておいて、明日の朝に解体するとしよう。


 鳴子の方はオオカミに噛まれてしまっていたようだけれど、音はちゃんと鳴るし、釣り糸も切れていないから、明日ちゃんと見てみるか。


 夜の野営中に魔物が近付いてきたのは初めてだけれど、どうやら問題なく対処できたようだ。コレットちゃんのおかげで鳴子の音が鳴る前に魔物の襲撃に気付けるのはとても助かる。ライトの威力も想像以上だったし、夜の襲撃に対してちょっとだけ自信が付いた。


 ちなみにこのライトはUSB充電となっているので、キャンピングカーの走行中に充電を満タンにすることが可能だ。キャンピングカーのライトはこれよりも強力だが、今回みたいにキャンピングカーの前に魔物がいないと使うことができないのが玉に瑕だな。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「ふあ~あ、よく寝た」


 昨日は夜中に魔物の襲撃があったが、みんなのおかげで無事に撃退することができた。


「ホー……!」


 ベッドの横では相変わらず大きくなったフー太が気持ちよさそうに眠っている。うん、夜はみんなが無事でよかったな。




「……夜は暗くて見えなかったけれど、茶色い毛皮のオオカミだったか」


 みんなで朝食を食べ、出発する前に昨日倒したオオカミ型の魔物を解体するために収納魔法から取り出した。


「こちらはブラウンウルフですね。こいつの肉は硬くてあまり食べられたものではありません」


「……なるほど」


 あんまりオオカミを食べるって聞いたことはないもんな。そして特に同じオオカミだからといってコレットちゃんの黒狼族とは関係がなく、食べること自体は問題ないようだ。


 そのあたりは弱肉強食の世界だから、あまり気にしなくてもいいのかな?


「鳴子の方は噛まれちゃったけれど、音が出るしそのまま使えそうだね。結構ブラウンウルフの返り血が掛かっているけれど、むしろこっちの方が魔物は寄ってこなかったりするのかな?」


 鳴子の一部にはジーナがブラウンウルフを斬った際の返り血がべったりとついてしまっているのだが、むしろ他の鳴子にこのブラウンウルフの血を掛ければ魔物は寄ってこなかったりしないかな。


「強い魔物の血ならば魔物除けになるかもしれませんが、ブラウンウルフはそれほど強い魔物ではありません。むしろ血の匂いに惹かれて他の魔物がやってくるかもしれませんね」


「うわっ、それならちゃんと血は落としておかないと駄目だね」


 どうやら俺の考えはむしろ逆効果になるらしい。


 ブラウンウルフの肉は食べられないが、毛皮は使い道があるかもしれないそうなので解体しておいた。

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