第91話 異世界での釣り
「シゲト、こんな感じでいいですか?」
「シゲトお兄ちゃん、これで大丈夫?」
「ちょっと待ってね……うん、これで大丈夫だよ」
ジーナとコレットちゃんの釣り竿を確認するが、どちらも問題なさそうだ。
午前中はキャンピングカーでマイセン湖の周りを進み、お昼は街で購入してきた魚を楽しみ、午後はのんびりとマイセン湖のほとりで釣りをする。
午後もキャンピングカーで進むこともできるが、焦る旅でもないし、ちょうどいい感じの場所を見つけたので今日進むのはここまでにした。こんな感じで予定をその時々で変更することも旅の醍醐味である。
「ホー!」
「おお、ありがとうフー太。一旦これくらいで大丈夫だよ」
「ホーホー!」
ニョロニョロとしたミミズのような虫がフー太のくちばしからバケツへと吐き出される。釣りをする時によく見かける青いバケツの中にはたくさんのイソメと呼ばれる釣りのエサとなる虫が入っている。見た目は完全にイソメだが、異世界だからもしかしたら違うのかもしれないけれどな。
先ほど湖のほとりの岩場で釣りのエサとなるイソメを全員で探したところ、フー太が感覚で分かるのか、かなり多くのイソメをゲットしてくれた。そういえばフクロウはミミズを食べるらしいし、ウッズフクロウであるフー太はミミズやイソメを見つけるのが得意なのかもしれない。
「それじゃあこうやって釣り針にこいつをくっつけて、そのまま針を湖に垂らすんだよ」
キャンピングカーの奥に入れてあった釣り道具一式がこんなところで役に立ってくれるとはな。昔アウトドアショップでセールをやっていた時にとりあえず購入した安物の釣り竿とはいえ、十分に使えそうだ。
とはいえ、キャンピングカーに載せていた釣り竿は一本だけだったので、ジーナとコレットちゃんの分は太い木の枝を探してきて、その先にしっかりと釣り糸を結び付けた即席の釣り竿だ。
「こうですね、分かりました」
「こっちもできたよ!」
「………………」
俺が釣り針にイソメを付けたのと同じようにジーナとコレットちゃんもイソメを釣り針に刺す。
こういう時の定番ならジーナとコレットちゃんの二人がイソメを釣り針に付けることができなくて、俺が釣り針に付けてあげるというのが定番なのだが、二人ともイソメを気持ち悪がることもなく普通にイソメを触っている。
……こちらの世界の女の子はだいぶたくましいようだな。
「それじゃあ釣り糸を湖に入れて、魚が食いついたら一気に竿を引き上げるんだ。しっかりと魚が食いついてから引っ張るのがコツかな。それと少し竿を振って魚にエサをアピールするのもいいみたいだね」
「なるほど。やってみます」
「よ~し、頑張る!」
元の世界で何度か釣りの経験はある。とはいえ、整備された釣りのできる川なんかでしかないから、こんな大自然の湖で釣りをすることは初めてになる。
果たしてどんな魚が釣れるのか楽しみだな。
「わあっ、また釣れたよ! さっきと同じお魚さんかな!」
「ええ、私が釣った魚と同じみたいですね」
「そうだね、イワナみたいな青魚だから食べられるやつだよ」
コレットちゃんが引き上げた釣り竿の先には30センチメートルほどの銀色の魚が見事に釣れている。
さっきジーナが釣ったのと同じ魚で、こいつも食べることができる魚だ。マイセンの街の宿の人や市場の人に話を聞いたり、市場で売っている魚を事前にチェックしておいた。
特にこの湖にいる魚の中で毒を持っている魚だけはしっかりとチェックしておいた。どうやらフグに近い魚もいるようだからな。
食べられるか分からない魚はキャンピングカーの収納機能で収納しておいて、今度あの街に行った際、魚を専門に売っているお店の人に聞いてみるとしよう。
「……ジーナもコレットちゃんも釣りは初めてだって言っていたよね。それにしてはだいぶ上手な気がするよ」
そう、釣りを開始してから一番初めこそ俺が釣り上げたものの、それ以降は本当に小さな小魚が一度釣れただけでほとんど釣れていない。
ジーナとコレットちゃんは最初に釣れるまで時間が掛かったものの、そのあとは順調に釣れ続けている。
「そうですね、ここから魚の動きが見えるので、うまく食いついた時に竿を引けばいいことが分かりました。最初はタイミングが難しかったのですが、少し慣れてきましたね」
「ここから湖の中が見えるのか……すごいな」
ジーナの目が良いことは知っているが、まさか湖の上のこの距離からそこまで見えるとはな……
この湖の水はとても綺麗で透明とはいえ、魚が食いつくところまで見えるなんてどんな視力をしているのだろう……
「すごいね、ジーナお姉ちゃん! 僕は手に持った釣り竿から感じる感覚でなんとなくお魚さんがエサを食べた瞬間が分かるかな」
「……いや、コレットちゃんも十分すごいからね」
黒狼族であるコレットちゃんの感覚は人族を遥かに超えているみたいだな。
う~む、さすが異世界だ。まさか釣りに身体能力が必要だったとは……
「ホー!」
「フー太もすごいなあ……」
フー太に至っては釣りではなく、湖の上を飛んで空から魚を急襲し、その鋭いかぎ爪で魚を捕獲している。
どうやらこの場で一番魚を獲れていないのは俺らしいな……
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